体罰6件、暴言1件、不適切な指導26件…13歳男子を自殺に追い込んだ男性教師が“異例の懲戒免職”になった驚愕の実態とは
2025年5月6日(火)8時0分 文春オンライン
〈 「担任の先生のせいだと思う」自殺した13歳男子の葬儀で同級生が漏らした“驚きの一言” 「理由もなく叱責し、子どもたちを立たせ…」 〉から続く
中学校に入学した直後だった2019年4月18日に、自宅マンションから転落して亡くなったマサルくん(仮名)。
悲しみに沈む両親は、通夜や葬儀で「X先生のせいだと思う」という声を複数の同級生から聞いた。マサルくんの小学校6年生時代の担任であり、数々の問題を起こしてきたX教諭とは何者なのか——。

◆◆◆
マサルくんの母親がX教諭を知ったのは、マサルくんの3歳上の姉が小学校に通っている時だった。
「X先生は、マサルの姉が小5のときに赴任してきました。姉の担任ではなかったのですが、X先生のクラスでは先生が怖いと言って女の子が不登校になり、顧問をしていた器楽部では部を辞めた子もいました。娘も小6のときに『お前の顔を見るとイライラする』と言われたことがあり、学校に連絡したこともありました」
この件は、マサルくんの死亡に関する調査委員会の報告書にも認められている。
X教諭は他の児童に対しても運動会の練習などで強い口調で指導することがあり、児童が泣き出す、過呼吸になる、保健室登校が増えるなどの問題が起きていた。そのため、2016年度と2017年度はクラスの担任を外れていた。
「胸ぐらをつかまれて掃除用具入れに打ちつけられた」という証言も…
しかし2018年4月から、X教諭はマサルくんのクラス担任になった。X教諭が自ら希望したという。マサルくんの友人の1人は、「担任がXって嫌だね」と話していたところを聞かれてしまい、X教諭に胸ぐらをつかまれて掃除用具入れに打ちつけられたという。後に保護者が被害届を提出したが、X教諭が否定したこともあり、起訴猶予となっていた。
「掃除用具入れに打ち付けられた友達のお母さんとは面識もほとんどなかったのですが、事件から半年後の10月に『転校します』と挨拶がありました。『転校後もマサルくんと息子で遊べるように』と親同士で連絡先を交換してから、X先生の体罰や不適切指導の数々を聞くようになりました。長女の時にあったことを思い出して、あの頃から変わっていないんだなと思ったんです」
マサルくんの母親が同じ小学校に通う子どもの保護者たちから話を聞きはじめると、「X教諭から被害を受けた」という話が次々と集まってきた。そこで体罰や不適切な指導の調査や、再発防止を求めた嘆願書を作り、19年3月に小学校に提出した。
「保護者7人が個別に学校と話し合いをしました。体罰を受けた児童の保護者が『担任を替えてほしい』と主張したのですが、聞き入れてもらえませんでした。『人が足りない』という理由だったそうですが、とても信じられません」
学校との話し合いは平行線に終わったが、マサルくんの状態は目に見えて悪化していた。
「振り返ると、6年生になってから急に疲れやすくなっていました。それまではいつも踊ったり歌ったり、ゲームをしたり、テレビを見て笑ったりする普通の子でした。それが、学校から帰るとすぐに寝てしまうようになりました。夏頃には円形脱毛症で頭にあたりが直径2cmほど毛が抜けてしまい、『悩みがあるの?』と聞くと、『先生がウザい』と言っていました。
お風呂から2時間も出なくなったり、部屋に引きこもってボーッとする時間ものび、友達との遊びの誘いも『休みの日ぐらい寝かせて』と断ったり。夫と『病院に行ったほうがいいのでは?』と話し合ったこともありますが、マサルは自分の気持ちを教えてくれるほうだったために、本人に病院のことは伝えていませんでした」
卒業式で1人の児童が勇気を出して発言した「転校した子の分も…」
卒業間近の3月には、マサルくんがノートに「死」「絶望」「呪」などの文字を書いているのを他の教員に見つかる事件も起きていた。教員は「担任に対するものか?」と尋ね、マサルくんは認めなかったが、他のクラスメイトは頷いていたという。
卒業式当日には、担任の許可を得ずに「転校した子の分も忘れないで」と発言した児童もいた。多くの児童や教員にとって、それがX教諭への抗議であることは自明だった。
マサルくんの母親らも、卒業直前の3月8日に「X教諭に対する厳正な処分を行うことにより、体罰や不適切指導の完全なる再発防止を求める嘆願書」を市の教育委員会に提出した。
教育委員会は調査を開始し、約1年後の2020年3月30日に調査報告書をまとめ、X教諭の体罰6件、暴言1件、不適切な指導26件、保護者や教職員への不適切な対応7件、計40件を認定、マサルくんが亡くなって3年半後の22年12月には懲戒免職を言い渡している。
小学校教諭の懲戒免職は異例で、X教諭の言動の問題を教育委員会も看過できなかったのだ。
X教諭の体罰や威圧的な指導はクラスの複数の生徒に向けられ、マサルくんもよく叱責される1人だった。
中学生になったマサルくんは亡くなる3日前の「生活ノート」に「これからは迷わくをかけないようがんばりたいです」と書き、担任から「怒られないようにではなく、褒められるようにしたいね」と諭されるなど、人に怒られることに過敏になっていたことが察せられる。
「マサルが小学生の頃は『指導死』という言葉も知りませんでしたし、教師の体罰や高圧的な指導で子どもがどれほど追い詰められるのか、そこまで深く考えたことはありませんでした……。ただマサルが自殺した理由を考えると、精神的負担が積み重なったからとしか思えないんです」
「マサルさんの変調にX教諭による不適切指導が強く関わっていたと想定される」
報告書では、「マサルさんの変調にX教諭による不適切指導が強く関わっていたと想定される。したがって、管理職がX教諭に対して適切な指導を行い、X教諭の言動が是正されていれば、マサルさんの抑うつ状態の発症や憎悪を防ぐことができた可能性があった」とされた。
「委員の児童精神科医の先生が丁寧に調査し明らかにしてくださり、息子に起こったことが報告書にそのまま書いてあるように感じました。息子の死とX教諭の不適切指導の関連性が認められてよかったと思いました。心の傷は見えないので軽視されがちですが、誰にでも起こり得ることだと思います」
マサルくんの母親は昨年から、教員の不適切指導問題に取り組む「安全な生徒指導を考える会」のメンバーに加わった。2024年から文部科学省は「不適切指導」で処分された教職員の数を公表するようになったが、実態はいまだにわからない部分が多い。そのため同会では、実態調査をしようとしている。
学校という閉ざされた空間の安全をどう確保するのか、問題解決のメドは立っていない。
(渋井 哲也)
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