読売新聞記者が忍者修行、まずは手裏剣から…「情報収集」が仕事だった忍者の精神は記者の仕事にも生かせそう?
2025年5月6日(火)13時58分 読売新聞
手裏剣打ち体験に挑戦する小林記者(三重県伊賀市で)=大金史典撮影
黒装束に身を包み、秘密裏に行動する忍者。歴史の舞台裏で活躍したとされるが、その正体は今もなお謎のままだ。アニメや映画では手裏剣で華麗に敵を倒す姿が描かれるが、実際はどうだったのか。ミステリアスな正体を解き明かそうと、忍者の発祥地とされる三重県伊賀市にある「伊賀流忍者博物館」で忍びの世界を体験してきた。(小林加央)
形から入るタイプ
忍者の世界に飛び込むなら、まずは本物の雰囲気から。伊賀市内の着物店でレンタルの忍者装束に着替えてから向かった。全身真っ黒になって街を歩くと、外国人観光客から「NINJA!」と声が上がり、カメラを向けられた。「拙者、修行前の身でござる」。少し照れながらも、気分が高まった。
博物館では、まず手裏剣打ち体験に挑戦。学芸員の幸田知春さん(44)に基本を教わった。「手のひらを横に合わせてシュシュシュと連射するのはアニメや漫画の世界。実際は縦に振り下ろすように投げます」
手裏剣を親指と人さし指で縦に持ち、野球のボールを投げるように利き手と反対側の足を前に出す。そして、手首のスナップを利かせて投げる。体験用はステンレス製で、競技で使われるものと同じという。予想していたよりも軽く小さく、遠くに飛ばすには力が要りそうだ。
手裏剣の形は「平和な時代」に完成?
約5メートル離れた木の板を狙い、第1打。手裏剣は板に当たったものの、刺さらずはね返された。「力任せにせず、回転を抑え、真っすぐ投げるのがコツ」とのアドバイスを受け、再挑戦。やっと板に刺さり、的の中心近くに命中すると、まるで本物の忍者になった気分に。投げるうちに、手首を使えるようになり、刺さる回数が増えていった。
すべての手裏剣を打ち終えた後、幸田さんに歴史を尋ねた。手裏剣といえば十字形。しかし、元々は十字形ではなかったという。幸田さんによると、戦国時代には落ちている石や瓦の破片を即席の武器として使っていた。江戸時代初期になってから武芸の発展に伴って洗練され、十字形が生まれたという。「平和な時代に、武芸者が美しさや機能性を追求した結果です」と幸田さんは話した。
くノ一の抜刀、わずか1秒「早い!」
次に忍者が暮らしていたとされる忍者屋敷を訪れた。火薬や薬の調合方法、忍術の秘伝を守るため、至る所に巧妙な仕掛けが施されている。ガイドのくノ一すずさんが案内してくれた。「刀隠し」と呼ばれる床は、敷居側を強く踏むと板が跳ね上がり、隠されていた刀が現れる。すずさんが実演すると、抜刀までわずか1秒。「早い!」。壁の一部が回転する「どんでん返し」なども体験でき、まるで時代劇の舞台に迷い込んだようだった。
幸田さんは忍者について、「アニメや映画では好戦的に描かれがちですが、本当の仕事は情報を集めること」と語る。城の構造や兵糧の備蓄状況、敵の動向などをひそかに調べ、味方の被害を最小限に抑えるのが役目だったとされる。
江戸時代の忍術書には、忍者が人間関係や心理を重視していたことが記されているという。「いつも笑顔でいなさい。そうすれば情報が自然と集まる」。忍者の精神は、時代を超えて記者の仕事にも生かせそうだ。「ニンニン」と言ってみたら、少し口角が上がった。
インバウンドに大人気、人気アニメが後押し
伊賀流忍者博物館には昨年度、計約11万5000人が来館した。このうちインバウンド(訪日外国人客)は約2万6800人で来館者数の2割以上を占めた。国・地域別では、台湾、香港、米国からの観光客が多く、人気アニメ「忍たま乱太郎」や「忍者ハットリくん」の海外配信が人気を後押ししているという。
幸田さんは「来館者が抱いている忍者のイメージを尊重しつつ、本当の姿を伝えたい」と話す。
入館料は大人(高校生以上)1000円、子ども(4歳以上)700円。手裏剣打ち体験は別料金となり、6枚で300円。問い合わせは博物館(0595・23・0311)へ。