新人弁護士が地方で不足、全国16会で「0人か1人」…所得格差や法科大学院の廃止影響
2025年5月8日(木)7時47分 読売新聞
地方で就職・開業する新人弁護士が減少し、昨年11月末までの1年間の新規登録が0人か1人だけの弁護士会が16に上ることが日本弁護士連合会(日弁連)への取材でわかった。都市部と地方の所得格差や、地方の法科大学院の廃止が影響しているとみられる。地方で法律サービスが行き届かなくなる恐れがあり、日弁連は対策に乗り出した。(脊尾直哉)
「新ゼロワン問題」
1990年代、全国に計253ある地裁本庁・支部で弁護士が0人か1人しかいないエリアが相次ぐ「ゼロワン問題」が起き、日弁連が弁護士事務所設立を支援して2011年に問題は収束した。だが近年、主に県単位で構成される弁護士会で、新規登録者が年間0人か1人のケースが出てきて、「新ゼロワン問題」と呼ばれるようになった。
日弁連によると、全国52の弁護士会のうち、こうした新ゼロワン状態は、19年には9会だったが、昨年は16会に増加。全弁護士会の新人1203人のうち約7割の859人が東京と大阪に集中していた。
高知弁護士会に唯一登録した本崎翔大弁護士(29)は「早急な対応が必要な相談が多いのに、人手不足で手が回らない」と話す。
就職した法律事務所には、自身を含め弁護士が3人いるものの、離婚や遺産相続など、新規の法律相談は2か月先まで予約が埋まっている。県内で20歳代の弁護士は自身を含め、2人だけ。若手が受任することが多い刑事事件の国選弁護も、都市部なら年10件に満たないが、約40件担当したという。
日弁連が22年に実施した調査によると、都道府県別で、弁護士1人当たりが担う人口は、秋田県が1万2078人と最多。635人で最少だった東京都の19倍に上った。
所得格差
都市部に弁護士が集中する背景には、地方との所得格差や、得られる経験の違いがあるとみられる。22年に大阪弁護士会に登録し、大手事務所に入った男性弁護士(28)は、「地方は大きな案件も少なく経験が積めないイメージ。地縁がない限り、司法修習生の選択肢にならないのではないか」と話す。
定員割れなどを理由にした地方での法科大学院の相次ぐ撤退も影を落とす。法科大学院は14年4月に全国で67校あったが、昨年4月時点で学生の募集を続けているのは34校。うち24校が関東、関西に集中している。
法科大学院のない愛媛県の高橋直子弁護士(55)(愛媛弁護士会)は、「地元の弁護士との接点がなくなり、地方で働くイメージが湧きづらくなったのではないか」と嘆く。
就業体験
こうした事態に日弁連は昨年秋、弁護士志望の法科大学院生を対象に、四国や北海道の弁護士事務所での短期就業体験を実施。岡山大、早稲田大などの11人が参加した。今年も20の弁護士会で行う予定だ。
日弁連副会長として昨年度、法曹養成を担当した市川正司弁護士は「人口減少が続く地方では、外国人との雇用契約や高齢者の成年後見制度利用など、弁護士需要が高まっていくだろう」と指摘。「日弁連として地方で働く弁護士を後押しするとともに、国に国選弁護の報酬引き上げなどを求めていく必要がある」と語る。