トランプ政権は台湾を切り捨てるかもしれない 元大統領副補佐官・ポッティンジャー氏の警告
2025年5月9日(金)9時30分 文春オンライン
「台湾有事の際の米軍派遣」を繰り返し明言したバイデン前米大統領に対して、トランプ米大統領は「コメントしない。そのような立場になりたくない」として明言を避けている。
こうした曖昧な態度はトランプ大統領の一貫した姿勢だ。過去には「(台湾封鎖を実行した場合は)中国に150〜200%の関税を課す」「台湾は米国の半導体ビジネスを奪った」とも発言しているため、台湾では「トランプは武力で台湾を守らない」という不安が広がっている。安倍元首相がかつて発言したように「台湾有事は日本有事」であり、トランプ大統領の姿勢は、日本も他人事では済ませられない。

コルビー国防次官が提唱する「台湾が我々にとって重要な理由」
第2次トランプ政権では、第1次政権時よりも、「台湾の重要度」が明らかに低下しているようだ。「台湾有事の際の米軍派遣」に消極的であることが、新旧の側近の発言からも見えてくる。マット・ポッティンジャー氏(第1次トランプ政権の国家安全保障担当の大統領副補佐官)とエルブリッジ・コルビー氏(現・国防次官)の二人の対照的な発言である。
コルビー氏が務める国防次官は、国防総省において長官、副長官に次ぐナンバー3だ。現政権のヘグセス長官、ファインバーグ副長官はともに国防総省での実務経験がない。ゆえに、コルビー氏が実権を握っていると見られている。そのコルビー氏は最近の著書 『アジア・ファースト——新・アメリカの軍事戦略』 (文春新書)でこう述べている。
〈拒否戦略の目標は、柔軟で適応可能な「優位なバランス・オブ・パワー」の維持〉〈これは、ポッティンジャー氏らが提唱している「中国に対する勝利」とは違います。なぜならリアリストにとって、「勝利」は決して最終的な目標になり得ないからです〉
〈ポッティンジャーたちの考えでは、北京は非常にアグレッシブで危険な存在だということです。そして彼らは、アメリカはアジアにおいて「軍事的優位」を獲得しなければならないと主張しています〉
〈台湾が我々にとって重要な理由は、台湾そのものに重大な権益があるからではなく、中国とアジアが重要だからです。(略)台湾は非常に重要な権益ですが、それでも派生的なものでしかなく、アメリカにとっては生存を左右するものではありません〉(『アジア・ファースト』より)
これに対してポッティンジャー氏が、このほど「文藝春秋」6月号の インタビュー に応じてこう反論した。
トランプ現政権は台湾をどうするのか
〈〔コルビー氏と〕意見が異なるのは、「力の均衡」(パワー・バランス)に対する考え方です。「米国と中国はある種の『力の均衡』を達成することで『安定』を見出せる」とコルビー氏は前提としていますが、私は同意できません〉
〈もう一つの論点は、「台湾を含めた力の均衡」か、「台湾を含めない力の均衡」かです。つまり、米国と中国の力の均衡点を「第一列島線」(台湾)に置くのか、「第二列島線」(グアム)に置くのか。「台湾は米国にとって派生的な権益にすぎない」というのがコルビー氏の主張です。氏の周囲には、台湾を“捨て駒”にして、グアムから中国を封じ込める、という戦略を提案する人がいます。しかし、グアムから中国を封じ込めるのは物理的に不可能です〉
ポッティンジャー氏は、第2次トランプ政権を表立っては批判していない。だが、コルビー氏への反論からは、「トランプ現政権は台湾を切り捨てるかもしれない」と強く危惧していることが伝わってくる。
このほか、「抑止力を能動的に構築しなければ台湾有事は防げない」「有事や海上封鎖に備えて武器だけでなく食料やエネルギーの備蓄が不可欠」「状況によっては中国本土への攻撃も必要になる」「戦争が起きて米大統領が数時間以内に下す決断がその後の運命を決する」「日本も他人事ではない」など、台湾有事に備えるためのポッティンジャー氏の緊急提言「 台湾は本当に危うい 」の全文は、5月10日発売の「文藝春秋」6月号および、月刊文藝春秋のウェブメディア「 文藝春秋PLUS 」(5月9日先行公開)に掲載されている。
(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2025年6月号)
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