「なぜ大物政治家の長男に利益供与を続けたのか」…国交省も調査は会社任せ

2025年5月12日(月)6時0分 読売新聞

[利益供与 空港の闇]<下>

 大型連休が明けた7日朝。東京・羽田空港のターミナルビルは、観光やビジネスで訪れた外国人でにぎわっていた。ドイツから来日し、人気アニメキャラクターのグッズを購入した女性(57)は、「空港にこれほど多くの店があるなんて」と驚いた。

 コロナ禍を越え、同空港の利用者数は急速に回復している。2023年度は国際線で過去最多となり、国内線も含め8100万人を記録。ビルを運営する「日本空港ビルデング」(東証プライム上場、東京)の業績も好調だ。旅客からもらう空港使用料、ビルに入る店舗からの家賃収入を柱とする連結売上高は25年3月期に2699億円、純利益も274億円に達した。

 空港ビル社は1953年設立。国から空港法の定める「空港機能施設事業者」に指定され、年40億〜50億円を支払って国有地の使用許可を受けている。指定や許可は数年ごとに更新されるが、国有地に立つ自社所有のビルには本社も置かれ、空港と「一体」の関係にある。ほかの企業が参入する余地はない。

 国の「お墨付き」による強固な経営基盤と、民間企業ならではの迅速な意思決定を両輪に発展してきた空港ビル社。2005年に鷹城勲(81)が社長に就任してからは、トップダウンの姿勢が鮮明となった。

 鷹城は、ビルの増築や改装、新店舗誘致などを次々と実現させていった。世界の空港をサービスの質や快適さ、清潔さなどで格付けする「5スターエアポート」を14年から毎年受賞し、国際的な地位も上昇した。「彼の突破力と実行力がなければ、いまの羽田はなかった」。周囲からはそんな評価も受けていた。

 鷹城は16年に会長となり、後任に自らと同じ生え抜きの横田信秋(73)を指名。2人の強力なリーダーシップのもと、業績はさらに向上した。その陰では、元自民党幹事長・古賀誠(84)の長男(52)側への不適切な利益供与も、「2トップ」主導で続けられていた。

 公共性と企業性の調和——。空港ビル社の特別調査委員会は、同社が掲げるこうした基本理念を、経営トップ自らが逸脱していたと認定した。

 調査委によると、社内では、長男側に対する利益供与を知る職員は少なくなかったが、取締役会に報告されず、内部通報制度も生かされなかった。ある社員は調査委に対し、「通報したら不利益を被る。鷹城会長の不興を買うと一発で飛ばされる」と打ち明けた。

 16年には長男が経営するコンサルティング会社「アネスト」(東京)との取引を国税当局から問題視されたが、監査担当には共有されなかった。調査委は、「監査機能が十分と言えるかは、内部でも疑問があった」とした。

 鷹城、横田の引責辞任が発表された9日の記者会見で、新社長に就いた田中一仁(60)は、「役員人事を握る鷹城の判断で、長期にわたり経営が続けられてきた」と反省の弁を述べた。

 一方、空港行政を所管する国土交通省は、公共性が高い空港施設で発覚した疑惑にもかかわらず、調査を空港ビル社任せにしてきた。

 国交相の中野洋昌(47)は国会で対応を問われても、「民間の契約に関する事案であり、調査権限の発動は慎重に考えるべきだ」と述べた。同省のある幹部は、「航空機の安全な運航など、空港機能の確保に関わる問題ではないとの判断だ」と説明する。

 成蹊大教授の武田真一郎(行政法)は、「空港運営企業のガバナンス(組織統治)を巡る問題が、空港の安全に影響しないとは言い切れない。国には空港法に基づき適切な監督や調査をする責任がある」と指摘している。

 空港ビル社は再発防止にあたり、常勤の監査等委員を新設するなど、内部統制を強化する方針を打ち出した。だが、武田は「なぜ大物政治家の長男に多額の利益供与を続けたのか、原因究明が不十分なままでは、再発の可能性が拭えない」と話す。

 国が掲げる「観光立国」の根幹のインフラである羽田空港。その運営を支える企業が、「利権構造」からの脱却を果たせるのか。国民は厳しく監視する必要がある。

(敬称略。竹内駿平、糸井裕哉、加藤哲大、駒崎雄大、福益博子、丸山滉一、八巻朱音が担当しました)

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