「小選挙区比例代表並立制」改革へ動き 「政権交代が可能な制度」のはずが31年間で2度だけ
2025年5月22日(木)17時30分 J-CASTニュース
衆議院の小選挙区比例代表並立制を見直す議論が進んでいる。額賀福士郎・衆院議長の下で2025年初めに発足した与野党協議会の5月の5回目の会合では、ドイツの小選挙区比例代表併用制とスウエーデンの比例代表制(拘束名簿式)について専門家から意見聴取した。リクルート事件の反省から、それまでの中選挙区制が変更され、「政権交代が可能な制度」として導入が決まったのが31年前。しかし、その後の政権交代は2度だけ。公認権を独占する首相の権限が強すぎる弊害なども指摘され、超党派の180人の議員連盟が動き出した。
導入当時の自民総裁は「痛恨事」
1994年の1月末。細川護熙首相(当時)と、初めて政権から転落した自民党の河野洋平総裁(当時)が、選挙制度を変更する合意書に署名した記者会見現場に筆者は出席していた。日付が変わった国会の外には雪が舞っていた。当時、河野総裁は小選挙区制に疑問があり、後に、この時の決断を「政治人生の痛恨事」だと後悔した。
当時、古川禎久・元法相はまだ20代だった。「選挙制度が変わる。当然、区割りも変わる。よし、活動を始めよう」。30歳になったのを機に宮崎県に帰り、2度の落選を経て無所属で当選。以来当選を8回重ねた。その古川氏は「政治改革の柱として衆議院選挙制度の抜本改革を実現する超党派議員連盟」(11党会派)の自民党代表である。持論は「中選挙区連記制」だ。
「今の制度は、民意を反映させるものとしては、信頼を失ってしまった。死票が多く、投票率も低い」。「小選挙区制は『対決原理』だ。(同じ選挙区の)相手と違うことを言わなければならない。白か黒か決着をつけるために、対決が国会運営に持ち込まれて、与野党が対決する」「しかし、にっぽん丸がいま難しい海域を航行する中で、果敢に適確に舵を切って進まなければならない時に、時代の要請に応えられるのか」。
「中選挙区連記制がいい」
具体的にはどうするのか。「私は中選挙区連記制がいいと思っていますが、議員連盟の中では比例代表制とか完全小選挙区とか、いろんな意見があっていい」とこれからの議論の展開に期待する。
94年以前の中選挙区制は、3〜5人の定数のなかで一人の名前を書く「単記制」だったが、「連記制」は複数の候補名を書く。「有権者は自分が選んだ政権という実感が得られやすい」。一方で、政治資金改革はどうするのか。古川氏は「裏金問題」については「政治に対する国民の信頼が決定的に失われた。民主主義の背骨が折れた」と重く受け止めている。ただ、「企業献金はダメで、個人献金はいいというのも乱暴な話で、透明性を徹底することが大事だ」との見解だ。自公両党は政治資金規正法の改正法案の今国会提出を見送る方向だ。
現職議員は選挙制度の変更を嫌がる
与野党協議会は、25年度中に改革の方向性をまとめる予定だ。ただ、選挙制度の変更が現実化すると、現職議員からは自分の議席を守るために強い反対の動きが予想される。30年前は、自民党を数十人の議員が脱党した直後の総選挙で過半数割れ、同党以外の「8党派連立政権」が樹立される混乱のなかで選挙制度変更案が成立した。今回は、やはり少数与党政権の下で、石破茂首相(自民党を離党経験あり)も改革論者と言われる。現状は180人(衆院定数の4割)の「改革派」の危機感が、現状維持派を乗り越えることができるかである。
(ジャーナリスト 菅沼栄一郎)