年金改革法案は「あんこが入っていないあんパン」 基礎年金の底上げ“削除”が直撃する就職氷河期世代の悲鳴【風をよむ・サンデーモーニング】
2025年5月25日(日)14時15分 TBS NEWS DIG
いま国会で審議が続く、私たちの年金をめぐる重要な法案。その中身が、おなじみの物に例えられています。
中身のない“あんパン”?…砂上の楼閣「年金改革」
たっぷりあんこが詰まった「あんパン」。ところが今、国会では...
立憲・野田佳彦代表(21日)
「あんこが入っていないあんパンを出してきた」
「あんパン」に例えられたのは、今国会の重要法案の一つ「年金制度改革法案」。「あんこ」と目された「基礎年金の底上げ」が、法案に盛り込まれなかったことに起因する言葉でした。
当初、底上げが議論された背景には、基礎年金が今後30年間で3割も目減りするという厚労省の試算がありました。
日本の年金制度は「基礎年金」と、会社員などが積み立てる「厚生年金」で成り立ちますが、この基礎年金のピンチを救おうと、厚生年金を活用をする案が出ています。
ところが、会社員などからは反発の声が。
街の声
「厚生年金をもらう立場としては、何をやっているんだと。なぜうちらが貯めたものを持っていくんだと」
「普通にもらえるならいいけど、(厚生年金を)分けちゃった分が少なくなるのはちょっと困っちゃう」
夏の参院選を控える自民党の参議院議員からも、「厚生年金の流用、と批判されるのではないか」と懸念の声が上がりました。
こうした年金問題は、選挙を前にした政府与党にとって極めて重要です。背景には、過去の苦い記憶がありました。
「当たり前の生活ができなくなりそう」氷河期世代の沈痛な叫び
安倍総理(2007年)
「最後の1人にいたるまで、皆さまの年金の記録をチェックして」
2007年、年金記録の約5000万件が誰のものか分からなくなり、支給漏れの可能性が指摘された、いわゆる「消えた年金問題」が浮上します。この影響などで、第1次安倍政権は参院選で大敗。2年後の政権交代へと繋がりました。
こうした結果、「年金が争点になった選挙は必ず負ける」といわれるようになりました。今回、基礎年金の給付水準を将来にわたり確保する重要性を認めつつも、石破総理は…
石破茂 総理大臣(20日)
「厚生年金の積立金を使うことについて、流用といった意見もあり、今回の法案に具体的な仕組みを規定しないこととした」
選挙を前に、反発も予想される「基礎年金の底上げ」を法案から削除。
しかし、この見送りで大きな影響を受ける世代がいます。1990年代から2000年代始めに就職活動を行った、いわゆる「就職氷河期世代」です。
約2000万人のいるこの世代は、当時の就職難から正社員として就職できず、厚生年金に加入できなかった人が多くいます。
福岡県で暮らす、54歳の男性も就職氷河期世代の一人。現在、非正規で週4日ほど働き、手取りは月に10万円ほどです。
大学卒業後、1度は正社員で就職したものの、親の介護のため退職。その後は、非正規で職を転々とするほかなく、厚生年金の加入期間は長くありません。
就職氷河期世代の男性(54)
「今の支給予定金額では到底生活できないし、(将来に)不安がある」
この男性の場合、将来もらえる年金は国民年金と厚生年金、あわせて約9万5000円。この世代の平均額を、4万6000円ほど下回ります。
今回、政府が提出した法案から「基礎年金の底上げ」削除のニュースを聞いて、将来への不安はより一層増したといいます。
男性
「当たり前の生活ができなくなりそうです。就職氷河期世代の貧困層に対する支援を国にしていただきたい」
財源はどうする?…政治が向き合うべき改革の“痛み”
一方で現在、「基礎年金」の底上げなどについては、与党と立憲民主党との修正協議が続いており、24日、野田代表は「修正案が与党側と合意できる見込みになった」と語っています。
しかし、「底上げ」を補塡する財源についての議論が不十分なのでは、と専門家は懸念を示します。
昭和女子大学 八代尚宏 特命教授
「(底上げは)復活した方がいいかもしれないが、それで問題は解決しない、当座しのぎにすぎない。基礎年金というのは、半分は国庫負担。だから(底上げには)2兆円近い一般財源が使われ、消費税1%上げるのと同じ」
八代さんは、当座しのぎではない、しっかりした財源の裏付けのある年金改革が必要であり、そのための政治の役割を強調します。
八代 特命教授
「基礎年金自体をもっと強固なものにする。例えばアメリカやイギリス、ドイツみたいに、67歳まで支給開始年齢を上げて、他にも年金のためだけに使う消費税、目的消費税を導入するなど、まず選択肢を全部出して、議論をした上で決めればいい。そのための政治。政治が劣化している。国会で堂々と議論してほしい」
少子高齢化をはじめ、課題が山積する日本社会。政治は、痛みをともなう議論に取り組むことができるのでしょうか。