うちの子だけ、言葉をうまく話せない…"発達の遅れ"に悩む親に勧める「100円で買えるグッズ」「最高の声かけ」
2025年2月20日(木)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio
※本稿は、松本哲(著)、本間龍介(監修)『楽しく遊びながら子どもの「発達」を引き出す本』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
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■空間把握が苦手な子は「距離が近い」
コミュニケーションの問題というと、上手にしゃべれない、滑舌(かつぜつ)が悪い、言葉が出ないといったトラブルがその代表的なものです。これらには、口まわりの反射がかかわっているのは想像できると思いますが、実はそれだけではありません。
原始反射(編集部注:主に乳児期に見られる反射。成長とともに運動機能が発達していくにつれて自然に消えていく)の中のATNRもコミュニケーションにかかわってきます。ATNRとは第1回でも触れた通り、非対称性緊張性頸反射(ひたいしょうせいきんちょうせいけいはんしゃ)といって、頭を左右どちらかに向けると、向けた側の手足がまっすぐ伸びて、反対側の手足は内側に曲がってしまう反射です。これが残っている子どもは、空間把握が苦手なので人との距離感がとりにくく、距離がとても近かったりします。
教室で走っていると、指導員にぶつかってくることもあります。明らかにぶつかっているのに、本人はまったく気づかないこともよくあるので、子どもにわかるように伝え、認識させてあげる必要もあります。
物理的な距離だけでなく、コミュニケーションにおいても、人との距離が近い、つまり、人に対する警戒心があまりない子も多いのです。警戒心がないと、結果的に、物理的な距離も近くなります。
たとえば、初めて会った指導員に対しても、「あれ、前に会ったことあったっけ?」というくらい、とてもオープンです。オープンなのは悪いことではありませんが、距離が近いことによってトラブルが起こることもあります。
■「原始反射」が何に表れるかは、個人で異なる
コミュニケーションには、原始反射のベースであるモロー反射(編集部注:大きな音を立てたときなどに、赤ちゃんがビクッとして両手を広げて抱きつくような動きをする反射)も深くかかわっています。モロー反射が残っているために緊張と不安が強く、母子分離ができない、ほかの人への不安からコミュニケーションがとれないこともよくあります。
警戒心がなくオープンな子もいれば、母子分離ができず不安な子や人見知りする子もいる。一見すると矛盾しているようですが、原始反射が何に対して表れるかは一人ひとり違います。指導員に対して警戒心がない子は、「大人のほうが安心」と思っている子だったりします。とくに複数の子どもがいる教室の中では、指導員や先生などの大人は、まるでお母さん、お父さんのように自分を守ってくれる存在と映るのでしょう。
また、感覚過敏がコミュニケーションに影響する例もあります。「耳まわりを触ってほしくない」という子がいて、髪をカットするのも大変。耳かきもさせてくれないので、耳垢(あか)がたまっていました。耳を塞(ふさ)いでしまうほどたまっているので、指導員の指示が聞こえないことがありました。
耳鼻科に連れて行ったところ、耳垢がカチカチになっていたそうです。その子は発語も遅かったので、おそらくよく聞こえていなかったのでしょう。耳垢をとって聞こえるようになってからは、発語が追いついてきました。
なお、口まわりの反射は手の反射(掌握反射)ともつながっています。手がちゃんと使えていない子は、発語が遅れるなど、関係が深いといわれています。
■「痛かった」と伝えるのが大切
言葉ではなくつい手が出てしまうのも、反射のせいかもしれません。怖い、不安、緊張を感じたとき、原始反射の中の反応の1つ、「戦う(fight)」が起き、「生命の危機」を感じて、無意識に手が出てしまうこともあります。
先ほどもお伝えしたように、空間把握が苦手なATNRが残っていることによる“距離感が近い”お子さんの場合、距離が近いことで、パッと手が出て押してしまうこともあります。これらモロー反射が出てしまったため、といえるでしょう。同時に、力加減がわからないこともよくあります。トントンと軽くたたいているつもりが、ドンドンと強くなってしまうのです。
力加減がわからない例は、私(松本)が運営する、児童発達支援・放課後等デイサービスの運動教室「LUMO」でもよくあります。教室で上手にできたとき、指導員と子どもがハイタッチすることがありますが、力加減がわからない子とのハイタッチは「バチーン!」と当たって手が痛いのです(笑)。
テンションが上がって強くなってしまうのではなく、いつもいつもハイタッチが強い子がいます。そういうときは、「ちょっと痛いから、このくらいでしてほしいな」と、実際にやってみせながら教えています。大切なのは、大人であっても、痛いときは「痛かった」と伝えることです。
イラスト=成瀬 瞳
『楽しく遊びながら子どもの「発達」を引き出す本』より - イラスト=成瀬 瞳
■気持ちが表現できず、手が出てしまう
「子どもだから仕方ない」とやさしさから注意しない人もいるかもしれませんが、こういうことをされたら大人でも痛いんだとか、悲しい気持ちになったとか、痛みや感情はその都度、伝えてあげましょう。どう感じたかを伝え合うコミュニケーションが大切なのです。うまくできたら、「いいね!」とポジティブな言葉で返します。
口元の探索(たんさく)反射(編集部注:赤ちゃんの口元を指でやさしくつつくと、おっぱいをさがすような動きをする反射)が残っていると言葉の表現が上手にできないこともあります。自分への注意の向け方がわからず、「自分を見てほしい」「一緒に遊びたい」などの気持ちを言葉で表現できず、手が出てしまうこともあります。スケジュールの変更や勝ち負けなど、環境の変化に過敏に反応した結果、言葉が出ないためにイライラして癇癪(かんしゃく)を起こしてしまうことも。
Cくんは幼稚園のすべり台で遊んでいるとき、友だちがすべろうとしていると思い、いきなり後ろから押してしまいました。またあるときは、友だちがブランコに座った瞬間に「押して」と言われていないのに「押さなくちゃ」と後ろから押してしまいました。友だちがびっくりして泣いていても、顔が見えないために楽しんでいるのかな、と思ってやり続けてしまったそうです。先生があわててやってきて、「どうしたの?」と聞かれると、今度はCくんがびっくりして、モロー反射が出て固まってしまい……。
Cくんにはまったく悪気はありませんでしたが、「押してあげようか?」という一言が出なかったがために、友だちを泣かせ、先生も困らせてしまうことになりました。探索反射をとる動きについては、次の項目で紹介します。
■発語の遅れは「風船フーフー」で解決
発語の遅れや滑舌の悪さに悩んでいるお母さん、お父さんも多いのではないでしょうか。小さいうちは、たどたどしいしゃべり方がかわいかったのが、どうもそういうわけではないらしい。「どうやらほかの子と比べて遅れているようだ」。子どもが成長するにつれ、お母さんやお父さんは不安になるようですが、そのタイミングとして多いのが保育園や幼稚園の入園時です。
発語がないと友だちとも関係性が築きにくいですし、園の先生からも指摘され、公的機関を訪ねたり、病院に行ったりするけれども、なかなか思うようにならない。結局どうすればいいかわからず、悩みを深めて、LUMOを訪ねて来られる方もいます。
先ほども触れましたが、発語ができない=自分の思いが届けられないことになり、癇癪を起こすという声も、よく聞きます。発語や滑舌には、口まわりの反射(探索反射、吸啜(きゅうてつ)反射)がかかわっています。
口まわりの刺激が足りないため、風船をふくらますことができない子も多いです。同じ理由で、浮き輪に空気を入れられない、風船ガムで風船をつくれない、口笛を吹けない子も。そもそも、子どもにとって風船をふくらませるのはハードルが高いので、LUMOではでき上がった風船を口で吹いて飛ばしながら移動する遊びをしています。
イラスト=成瀬 瞳
- イラスト=成瀬 瞳
■「先の見通し」をわかりやすく説明してあげるといい
本書ではとくにモロー反射が残っている子どもは、不安が強く、緊張しやすいため、環境の変化にとても弱い傾向があるとご紹介しました。入園、入学、新学期や引越しなど、新しい場所や新しい人に対して人見知り・場所見知りをすることも多いでしょう。
モロー反射が残っていると光や音などに対する感覚過敏がありますが、これと同じように、新しい人やもの、場所に対しても、“刺激”として体が受け取ってしまうことがあるのです。そのため、どんなことに対しても最初は恐怖を感じやすくなってしまいます。
たとえば、行ったことのない場所や初めての習い事などに行きたがらない子に、親はつい、「大丈夫だから行ってみようよ!」などと励まして連れて行きがちです。でも、原始反射が残っている子どもは、「失敗するかもしれない」「できないかもしれない」「何があるかわからない」とすべてが不安なのです。どんなに言葉で伝えられても、いい方向に想像することは難しい。要は、見通しが立たないことに対する不安感が強いのです。
励ましたり元気づけたりして動かそうとするより、先の見通しをできるだけわかりやすく説明してあげると、子どもは安心します。
■子供を励ますつもりで、だますのはダメ
教室で運動をするときも同じです。いままでやったことがないものにトライするのは、誰だって怖いものです。たとえばマット運動なら、どういう工程があるか、細かく細かく分けてスモールステップで行います。
行ったことのないお店に絶対に行かない子どもがいました。その際も、お母さんはどんな場所にあって、家からどのくらいの距離で、交通手段や、どんなものが売られていてどのくらい混んでいるかを細かく伝えるようにしていたそうです。
学校に入学するときや、急に予定が変わってしまったときも同様に、子どもが不安にならないように、どんな場所でどういう人がいて、どんな状況なのか、見通しが立つように教えてあげてください。それでも嫌がる子どももいますが、親御さんが伝えたことと実際に行った場所の説明が噛み合っていれば、少なくとも、説明してくれる人(ここでは親)との信頼関係は築けるので、次の安心材料になります。
よく、子どもをだますような形で「大丈夫。あそこにはゲームがあって楽しいよ」などと親が励まして子どもを行かせがちですが、行ってみたら「思っていたところと違っていた!」では、子どもはもう、その場所にも行きたがらないし、親を信頼できなくなってしまいます。家庭では、親子でたくさんコミュニケーションやスキンシップをして、子どもを安心させてあげることが大切です。
イラスト=成瀬 瞳
『楽しく遊びながら子どもの「発達」を引き出す本』より - イラスト=成瀬 瞳
■「いやだ」「やらない」は“あまのじゃく”ではない
子どもは心から安心できると、外に出て行きます。よく、母子分離ができなくて登園・登校が困難な子がいますが、あえて母子分離中のトレーニングだと言って距離をとるのは逆効果で、いかに家庭で安心させてあげられるか、なのです。
LUMOでも、最初はお母さん、お父さんと離れて教室に来るのに不安が強かった子どもが、指導員との信頼関係を築き、安心できる環境の中で楽しく過ごしているうちに、帰りにはニコニコと笑顔になっています(笑)。週1回からのスタートでも、だいたい1カ月あれば、母子分離はできます。
恐怖を感じると体が緊張してぐっと力が入ったり、丸めたりすることがあるため、体が硬くなっている子もいます。お母さん、お父さんと一緒に安心できる環境の中で体を思いきり広げられるトレーニングをするといいでしょう。反抗的だったり、あまのじゃくだったりする子どもも、モロー反射が残っているケースがよくあります。
「いやだ、嫌い、やらない」が口癖のEくんという5歳の男の子がいました。教室でもそうやって何も挑戦しようとしません。それをお母さんはあまのじゃくだと思っていました。そこで指導員は、「Eくん、もったいないなあ。やってみないとわからないのに。うまくいくチャンスだよ」と。指導員が言葉かけでEくんを安心させようとしていることを知ったお母さんは、ハッとしました。家庭では、否定的な言葉をよく使っていたかもしれない……。そこから、お父さんとも話し、家族が団結して言葉かけを変えました。
■子供の感情を言語化する努力が必要
たとえば、「走らない!」ではなく「歩いて」に。「ダメ!」ではなくて「どうしてそういうふうにやろうと思ったの?」と気持ちを聞くように。するとEくんのあまのじゃくは消え、何にでも意欲的にするようになりました。年中さんのときは怖がって小さくなっていた学芸会にも、年長さんでは自分から積極的に参加するようになりました。
LUMOでも、どう感じたのか、感情を言語化するようにしています。泣いてしまったら「悲しいの?」「悲しいね」「うれしいね」「しんどかったね」というように。発語が遅い子にもつながりますが、感情を表現することが難しいためにイライラして癇癪を起こしたり、あまのじゃくになったり、不安になったりすることがあります。
松本哲(著)、本間龍介(監修)『楽しく遊びながら子どもの「発達」を引き出す本』(青春出版社)
子どもに目線を合わせて、子どもの感情を引き出す、くみ取る力が重要なのです。これは、ご家庭でもとても大切なスキルだと思います。
たとえば友だちが一生懸命つくった積み木を崩してしまい、友だちを突き飛ばして泣いてしまったとき。「こういうことされたら、友だちはどうだったと思う?」「痛かったと思う」「そうだよね。積み木を崩されたら、痛いだけじゃなくて、どう思う?」「……」「友だちは悲しいと思う? 悲しくないと思う?」「悲しいと思う」「悲しいよね。でも○○ちゃんも一緒につくりたかったんだね」といったように言葉をかけます。
なかなかうまく言葉にできないお子さんには、このように「悲しい? 悲しくない?」「痛い? 痛くない?」など2択にして話すこともあります。
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松本 哲(まつもと・さとる)
株式会社Gotoschool代表
青山学院大学在学中から幼児~高校生のサッカー指導に携わる。卒業後、サッカー指導のかたわら国家資格である柔道整復師を取得。2012年、接骨院併設型パーソナルジムを運営する株式会社ViAを創業。2020年「あきらめを、チャレンジに」をミッションに株式会社Gotoschoolを設立。児童発達支援・放課後等デイサービスの「子ども運動教室LUMO(ルーモ)」や就労支援など、人の成長にかかわる課題解決にむけた事業を展開。
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本間 龍介(ほんま・りゅうすけ)
医師、スクエアクリニック副院長
米国抗加齢医学会フェロー。日本抗加齢医学会専門医・評議員。医学博士。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学院医学研究科修了。自身が原因不明の重度の疲労感に苦しんだことをきっかけに、アドレナル・ファティーグ(副腎疲労)の提唱者であるウィルソン博士に夫婦で師事。帰国後、日本初の副腎疲労外来を開設。近年は、副腎疲労治療を応用し、認知症状や発達障害など脳のトラブルにも治療効果を上げている。
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(株式会社Gotoschool代表 松本 哲、医師、スクエアクリニック副院長 本間 龍介)