「少子化対策で同窓会に補助金」はむしろ評価できる…「出会いがない」のレベルが東京とは違う地方のリアル

2024年3月29日(金)6時15分 プレジデント社

■マッチングアプリは本当に救世主なのか?


婚姻減少が止まらない。


2月27日に公表された人口動態速報では、2023年の婚姻数は48万9281組で前年比5.9%減となりました。この速報値は、外国人や海外在住の日本人も含む数字なので、後ほど発表される確定値としては、47.5万組程度になると推計されます。年間婚姻数が50万組を割り込むのは戦後初で、戦前も加えても1933年以来のことです。


明治時代からの婚姻数長期推移をグラフ化すれば、いかに2000年代以降で急激に婚姻数が減少しているかがわかります。婚姻が発生しなければ出生も起きません。それは、ひいては少子化がさらに加速していくことを意味します。


そんな中で、いわゆる「ネット系婚活サービス」に脚光があたり、婚姻減少に悩む地方の自治体でもこれらの事業と提携する動きもみられます。一部、メディアでは、婚活アプリなどのネット系婚活サービスが婚姻減解決の救世主であるかのように取り上げるところもあります。しかし、果たして、本当にそうでしょうか?


■アプリ市場はすでに鈍化傾向にある


国の基幹統計である出生動向基本調査においても、結婚のきっかけにおいてこの「ネットで」という項目が追加され、その割合は2018年6.0%から2021年13.6%へと倍増しています。しかし、これらの割合が増えているのは、そもそも母数である全体の婚姻数が大幅に減少しているためで、これらのサービス利用増で婚姻減がカバーできているわけではありません。


また、リクルートが運営するリクルートブライダル総研が発表している「婚活実態調査2023」によれば、マッチングアプリなどのネット系婚活サービスを利用して結婚した割合が2020年に11.1%と過去最高を記録したものの、2021年は10.0%、2022年は10.8%とやや割合を下げています。


サイバーエージェント傘下で自らも恋活・婚活アプリ事業を手がける「タップル」が、2020年1月に発表していた婚活マッチング市場規模予測では、2023年には927億円、2025年には1060億円にまで伸びるとされていましたが、2023年6月の市場規模予測では、2022年は790億円(予測より6%減)、2025年は837億円(予測より21%減)と大幅に下方修正されました。市場全体の鈍化傾向が見られます。


■4割が「写真と実物が違う」トラブルを経験


三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる2021年「マッチングアプリの動向整理」によれば、マッチングアプリの利用に際して何らかのトラブルがあったとする割合が、男性58.5%、女性59.7%もあったとされています。


トラブルの内容を見ると20〜40代を通じてもっとも多いのが「写真と実物が違う」というもので約4割。そのほかにも「既婚者だった」「年収・年齢が嘘だった」「サクラだった」という詐称系も多く、中には「ネットワークビジネス系の商品を売りつけられそうになった」「宗教に勧誘された」などの婚活とは関係ない問題もあるようです。


とはいえ、マッチングサービスはあくまでプラットホーム事業であり、そういうトラブルがあったからといって、サービスそのものが否定されるものではない。交通事故があるからといって、この社会から自動車を抹消するわけにはいきません。


しかし、マッチングサービスの鈍化の原因はそこではなく、婚活に興味のある人たちが一通り利用したあげく気付いたポイントがあるのだと考えます。それは「マッチングアプリではマッチングされない問題」です。なぜならマッチングアプリは市場原理で恋愛が左右されるものだからです。


写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

■恋愛強者による「ナンパのデジタル版」でしかない


前述した「マッチングアプリの動向整理」によれば、「マッチングアプリで実際にデートした人数ゼロ」という割合が、20代24.3%、30代20.4%、40代にいたっては31.7%にも達しているそうです。そうした「一人も出会えない」人がいる反面、複数の相手を見つけては恋愛をしている層も存在します。


身も蓋もないことを言えば、マッチングアプリは「街のナンパのデジタル版」でしかなく、リアルでモテる人だけがマッチングできる仕組みなのです。2020年コロナ禍当初にマッチングアプリ利用が増えたのは、この「街のナンパ」が事実上できなくなり、代わって自宅のソファの上でスマホを見ながらナンパできる便利なツールだったからでしょう。


常々申し上げている通り、恋愛においては「恋愛強者3割の法則」があります。市場原理に基づく自由恋愛になれば、3割の強者に「モテ」が集中する一方で、恋愛弱者は誰ともマッチングされなくなります。まさに「勝者総取り」になります。リアルで起きていることがアプリの中でも発生しているにすぎません。いや、むしろデジタル上でスペックにより判断されるぶん、リアルよりも残酷かもしれません。


■岡山県は少子化対策として「同窓会」に補助金


真剣に結婚を考えて利用している人にとっても、たんに遊びや搾取の対象として扱われることは、いたずらに時間と金を無駄にするだけです。さらに、誰ともマッチングされないという現実は、恋愛弱者の自己肯定感すら奪っていくものになります。そうした現実を実体験し、多くがアプリ利用から離れていったというのも、この市場規模鈍化の要因のひとつではないかと思われます。


残念ながら、アプリなどのネット系婚活サービスそれ自体が今の婚姻減少を食い止める救世主にはなりえません。


そんな中、岡山県の伊原木隆太知事が少子化対策として「同窓会」の開催支援に補助金を出すと表明したことがネット上でも賛否含め大きな話題となりました。地方においては、特に若年層の流出が問題であり、地元に「同年代の独身の相手がいない」というのは深刻な課題です。


かつて同じ教室で長い時間を過ごした気心の知れた同級生との交流の場を盛り上げるというアイデアは、個人的には悪くないと思います。何より変に自分を盛ったりする必要がないわけで、それだけでも自己欺瞞(ぎまん/rt>)を演出せざるをえないマッチングアプリより精神的にも健全です。


■「学校での出会い」は1980年代よりも増えている


むしろ、同窓会という範囲を拡大して、学校や市町村をまたいだ「○年卒業生同窓会」という形にすれば、旧友同士の再会だけではなく、在学時には交流のなかった地元の他校同級生との新たな出会いを創出することができるでしょう。男子校や女子校だった人にもメリットはあるでしょう。


そもそもネット系サービスでの結婚が増えているという話題に隠れていますが、「学校」での出会いがきっかけで初婚する数はネット系とほぼ同じです。むしろ1980年代よりも増えています。お見合いや職場などのかつて皆婚を下支えしたきっかけがほぼすべて激減する中で、この「学校縁」は健闘しているといえます。


■恋愛でなくても、仕事や遊びにつながるかもしれない


「学校縁」は何も婚活のためだけのものでもありません。卒業後、それぞれの道を進んだ同級生同士が、そこで再会または新しく出会うことで仕事や遊びにつながることもあるでしょう。そこからそれぞれのネットワークと新たにつながりが広がることも期待できます。少なくとも、地元に残って働いている若者にとっては、地元であっても知らない同級生との接点があるだけで、その後の人生が変わることもあり得ます。


こういうアイデアに対して「行政が結婚という人のプライベートな領域に介入していいのか」などと憤慨するリベラルな学者などがいますが、別に同窓会の支援そのものは結婚の強要でもなんでもない。その先に結婚があるかどうかは本人次第であり、それよりも地元に残り、地元を愛する者同士の接点をお膳立てしてあげることは地方の行政においては意味のあることだと思います。


少子化は婚姻の減少であることは明らかであり、婚姻数を増やして第一子の数を増やさなければどうにもならない。その意味で、子育て支援一辺倒の国の少子化対策よりはよっぽど地に足のついたものであり、「独身の支援」という視点が各行政に広がっていくことを期待します。


写真=iStock.com/chachamal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chachamal

■「お膳立て」がなければ婚姻数は増えない


また「地方の地元同士の新たな交流拠点の開設」としてのこういった政策は、地元の活性化という視点でも有効です。恋愛強者にしか恩恵のないマッチングアプリ事業に予算を使うよりはよっぽど意義があります。


しかし、そのためには、たんに同窓会に補助金を出して終わりということではなく、対象の拡大やコンテンツの企画など「ひとつの祭り」と同様に真剣に考えていく事が重要となります。学校だけではなく、地元の企業とも連携した「○年同期会」というやり方があってもいいでしょう。


若者の恋愛離れなどと個人の価値観の問題にして大人たちが逃げているうちは、いつまでも婚姻減に歯止めはかけられません。もちろん、結婚したくない人に強要などしなくてもいいし、そんなことは今のご時世できるわけもありませんが、お膳立てくらいは用意してあげるべきでしょう。


現実に「結婚したいのにできない」という不本意未婚は20代で4〜5割も存在します。地方における婚姻率の低下は単純に地方の人口流出に依存するものであり、出会いのきっかけがないことにもよります。皆婚時代の今の還暦以上の世代もなんだかんだ周囲のお膳立てがあったおかげではなかったでしょうか。


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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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