中居正広の「色々たすかったよ」に詰まっている…「女性アナの退社ラッシュ」を止められないフジテレビの根深さ

2025年4月4日(金)19時15分 プレジデント社

2025年3月31日、午後7時から行われたフジ・メディアホールディングスとフジテレビジョンの記者会見にて - 撮影=石塚雅人

■「報告書の内容が衝撃的過ぎた」


フジテレビを再生させるのは難しい。総務省に認可権を自主返納して、解散するしか道はないのではないか。


タレント・中居正広の性的トラブルに端を発したフジテレビ問題を調査してきた第三者委員会が報告書を出した。これを読む限り、私にはそう思えてならない。


それほど3月31日午後4時から会見を開いた第三者委員会(竹内朗委員長、以下第三者委)の報告内容は衝撃的で、今回の問題が深くフジ内部に巣食っている病根の深刻を浮き彫りにした。


スポーツニッポン(4月1日付)でフジテレビ担当の吉澤塁氏がこう書いている。


「報告書で明らかになったのは、異常なまでのタレントファーストの姿勢だった(中略)会見が前回より荒れなかったのは、報告書の内容が衝撃的過ぎたため。清水賢治社長が旧体制からの脱却を表明したことは評価できるが、今まで以上に視聴者やスポンサーも厳しい目を向けることは間違いない」


400席以上の椅子が用意されたが、記者の数は約半分。竹内弁護士が報告書の概要をかなり詳細に説明したため、質問時間はそう多くはなかった。いくつかの不規則発言を除けば静かな会見だったとテレビを見ていて思ったが、記者たちも報告書の内容に驚き、何を聞いていいのか戸惑っていたということのようだ。


撮影=石塚雅人
2025年3月31日、午後7時から行われたフジ・メディアホールディングスとフジテレビジョンの記者会見にて - 撮影=石塚雅人

■中居と女性が知り合ったのは3年ほど前


第三者委は中居正広と女性との性的トラブルの真相と、それを知っていながら放置してきたフジテレビ側の問題を調査するためにフジが設置した。


約2カ月という短い期間だったが、竹内弁護士をはじめとする弁護士たちが、222人の関係者から聞き取り調査をして約400ページ(記者たちに渡された公開版)の報告書にまとめた。


メディアがお手本にしたい、これぞ「調査報道」といいたくなる見事なものである。


その中で、中居とトラブルがあったのはフジテレビのアナウンサーAさん(週刊文春などでは芸能関係者)だと特定している。


中居とAさんを結んだのは当時、編成局編成戦略センター編成部長のB氏としている。


2021年11月頃、B氏は外資系ホテルαのスイートルームでの飲み会を開催し、そこでB氏の紹介でAさんは中居と知り合った。この会以降、BBQが開催されるまで合計4回、B氏はAさんと同席したり、彼女を食事会に誘ったりしている。その中には港浩一社長の古希の祝いの会もあった。


■「男同士じゃつまらんね。女性いるかなね」


2023年5月28日、中居はショートメールでB氏に連絡し、BBQに参加するよう誘った。その際、中居は、「男同士じゃつまらんね。女性いるかなね。一般はさすがにね。となり、フジアナ誰か来れるかなぁ」と、女性アナの手配を依頼している。


B氏は、その返信で、「●●●●(女性Aのフルネーム)に声かけてみようかなと思います」というと、中居は「はい、知ってる笑」といっている。


会場は中居が所有している都内のマンションの部屋。Aさんが参加したこの会には、「男性タレント2名、TBS男性社員2名、B氏と女性アナウンサーT氏、女性スタッフ」がいた。


その後、中居が「寿司を食べたい」といい出したので、B氏とAさんの2人が参加。そこで、中居の求めにより、Aさんは連絡先の携帯電話番号を交換した。


そしてBBQの後の6月2日12時11分、中居がショートメールでAさんに、「今晩、ご飯どうですか?」と送り、Aさんは、「中居とは仕事上の付き合いもあり、食事に行くこと自体については特段違和感を持たず、その晩は空いていること、19時に六本木で仕事が終わる予定であることを返信した」


中居からは「はい。メンバーの声かけてます」との連絡があった。だが、第三者委が中居にヒアリングしたところ、「大雨で難しそうだったので実際には誰にも声をかけなかった」と述べている。


撮影=石塚雅人
2025年3月31日に行われたフジ・メディアホールディングスとフジテレビジョンの記者会見にて - 撮影=石塚雅人

■「断ったりしたら仕事に影響が出るのではないか」


その後中居は、「雨のせいか、メンバーが歯切れわるくいないです。飲みたいですけど、さすがに2人だけだとね。どうしましょ」と連絡。結局、2人だけでBBQをやった中居の所有するマンションでやることに、少し嫌な気がしたが、同意した。


ヒアリングに対してAさんはこう述べている。


直前、誰も集まらない、いい店がない、それならこの前みんなでバーベキューをしたところでごはんはどうですか? と仕事上付き合いのある芸能界の大御所からそういわれたら、今夜暇だと言ってしまった私は行かざるを得ない。B氏や他のディレクターはいつも中居氏にペコペコしている姿を見ていたから、逆らえないと思っていた。ここで断ったりしたら仕事に影響が出るのではないか、断ったらそのことがBさんに伝わって番組に呼ばれなくなるのではないか、そんな思いがあって、行きたくはないけど行った、という気持ち。

■番組を継続したことに「経営判断の体をなしていない」


第三者委は中居とAさんにヒアリングに応じてもらえるよう依頼し、さらに、「双方がお互いに示談契約における守秘義務を解除することにより、当委員会の調査に対して支障なく協力してもらえるよう依頼した」。Aさんは守秘義務の全面解除に応じる旨回答したが、中居は、「守秘義務の範囲内の事項についてはヒアリングに応じないとし」、Aさんの守秘義務を解除しない旨を回答してきた。


そのため、第三者委は、Aさんの人権及びプライバシーを尊重し、「女性Aから同意が得られた範囲で調査報告書に事実を記載した」という。その結果、2023年6月2日の夜、「女性Aが中居氏によって性暴力による被害を受けたものと認定した」のである。


また、報告を受けた港浩一社長(当時)、大多亮専務(同)らは、「プライベートな男女間のトラブル」と即断したことで、リスク認識・評価を誤り、中居の番組を継続させたのは、Aさんに対する二次加害行為で、経営判断の体をなしておらず、被害者救済の視点に乏しかったと厳しく批判した。


第三者委は、Aさんを中居に“上納”したB氏が事件後、中居からAさんを懐柔してくれるように頼まれ、部下に命じて見舞金100万円を、PTSDで入院しているAさんに届けさせる(Aさんは受領を拒否)など、手下のように動いていたことを示すメールも、削除されていたがデジタルを使って復元したという。


撮影=石塚雅人
第三者委員会からの報告を受け、会見するフジテレビの清水賢治社長=2025年3月31日、都内 - 撮影=石塚雅人

■女性が退職した後の信じられない一言


Aさんから中居に内容証明郵便が届くと、B氏はフジの番組に出ている弁護士まで紹介していたのである。


Aさんが「ここに私の居場所はない」と諦めて2024年8月にフジを退職すると、中居はB氏に「ひと段落ついた感じかな。色々たすかったよ」と送り、B氏は「引き続き、何かお役に立てることがあれば、動きます」と返していた。


第三者委は、「今回の事案以外にも、社員やアナウンサーを性別・年齢・容姿などに着目して取引先との会合に呼ぶことや、セクハラ行為を伴う飲み会などが存在。全社的にハラスメント被害が蔓延していた」と認定したのである。


また、B氏はそれ以前にも、番組出演者の飲み会に女性社員を呼び、彼女だけを残して帰ってしまったことがあった。すると、その出演者は突然、彼女の前で下半身を露出したという。


また、現在、BSフジ『プライムニュース』のキャスター反町理氏は、後輩女性社員2人に対するセクハラがあったのに、文春が報じると、幹部たちが彼女たちを威圧的な態度で口止めした。それなのにセクハラをした反町氏は取締役まで昇進している。他の多くのセクハラ被害を受けた女性社員も、そうした人権意識の低い社では、泣き寝入りするしかなかったのだ。


■セクハラをした人間が偉くなるおかしな構造


「セクハラは文化」という企業風土をつくってきたのは、長きにわたってフジ・サンケイグループを支配してきた日枝久取締役相談役(当時)である。


第三者委はフジの役職員にアンケートを実施した。その結果、日枝氏がフジグループの人事権を掌握していると感じると答えたのは82%にもなった。


第三者委は日枝氏にもヒアリングしている。


日枝氏は長年人事権を掌握してフジを支配してきたのかという質問には答えなかったようだが、会長、社長の人事は自分が決めていたと認めたそうである。


結果、第三者委はこう結論付けた。


「したがって、当委員会は、当社の経営に対する日枝氏の影響力さえ排除すればコーポレートガバナンスが機能するかのような見方には与しない。取締役会メンバー全員が、役員指名ガバナンスを含むコーポレートガバナンス機能の強化に使命感を持ち、不断の努力を続けていかない限り、当社のコーポレートガバナンス機能の強化は図れないと考える」


全社的にセクハラが蔓延し、上司たちの人権への意識が希薄で、コンプライアンスを軽視し、セクハラをした人間が偉くなる。このようなおかしな組織が存続できるはずはない。


しかも、フジテレビはメディアである。権力監視はもちろんのこと、人権問題やパワハラ、セクハラに対して厳しく批判してきたはずである。これからフジは世の中の不正に対してモノをいえるのだろうか。


撮影=プレジデントオンライン編集部

■「女性アナウンサーが続々と退社」報道


今回の第三者委の報告は、多くの視聴者やCMスポンサーたちにも衝撃を与えたはずである。これで中居問題は決着したからCMを出そうという企業は、社会的責任(Corporate Social Responsibility)を考えない、人権意識の低い企業だとして、消費者からそっぽを向かれるのではないかと考えるはずだ。


遠からずフジは、赤字のためにリストラを余儀なくされるかもしれない。だが、そうした時、辞めていくのは優秀な社員たちになるはずである。そうなれば、フジには才能を持った人間が少なくなり、コンテンツの劣化も懸念される。


そんなフジに愛想を尽かしたのだろう、次々に女性アナたちが退社している。文春オンライン椿原慶子アナウンサーと永島優美アナウンサーの電撃退社を報じていたが、これだけでは収まらなかった。


文春オンライン(03/16)によれば、「若手有望株の岸本理沙アナウンサー(25)も退社を決断したというのです」(フジテレビ関係者)


「今年の春で、4年目を迎える岸本アナ。将来を期待されている若手アナの一人だった。


『幼少期にアメリカで育ち、名門・慶應義塾大学に進学。環境経済学を学ぶ傍ら、大手芸能事務所のスターダストプロモーションに所属し、学生キャスターとして英語ニュースチャンネルのパーソナリティも務めていました。まさに鳴り物入りでフジに入社してきた才女です』(同)」


■崖っぷちのフジに「第二の日枝」が出てくる?


有望株の早すぎる退社。その後はフリーアナウンサーに転身するのだろうか?


「いえ、全く違う異業種に転職することが決まっているそうです。帰国子女ですし、かねてから海外に関わる仕事への憧れも話していたので、得意の英語力も生かせる職に就くのではないでしょうか」(同)


さらに象徴的なことがあると新潮(4月3日号)が報じている。


かつて「カトパン」といわれフジの超人気アナだった加藤綾子氏(39)が、育休明けの復帰番組をテレビ東京にしたというのだ。


前途多難としかいいようのないフジの現状だが、週刊新潮(4月10日号)は、「フジに第二の日枝」が出てくると報じている。その根拠は、第三者委の報告書が出る前の3月27日に、突然、日枝氏を辞めさせる「刷新人事」を発表したからだという。


企業ガバナンスに詳しい青山学院大学の八田進二名誉教授がこう話す。


「数日後に第三者委員会の報告書が出るというのに、なぜ急いで日枝氏の退任を含む新人事を公表せねばならなかったのか。早期の信頼回復につながっていません。そもそも、第三者委員会は問題の原因を究明し、それを踏まえた上での再発防止策を提言するものです。新人事はその策を実現するために、どのような新執行部が望ましいかを考えて行わなければならなかったわけで、これでは筋が違います」


■これでは視聴者もスポンサーも戻ってはこない


新潮によれば、日枝氏はギリギリまで退任しようか逡巡していたという。それを、金光修フジHD社長らに押し切られる形で「権力の椅子を手放した」(新潮)というのである。


フジの元重役は、「これは金光のクーデターですよ」といい、「金光氏は今度の人事で日枝氏と同様に、まわりに子飼いを配しました」と付け加えるのだ。


日枝氏は、グループの実権を持っていた鹿内家を追い出すクーデターで権力を掌握し、長年にわたってグループに君臨してきた。 その“ドン”を追い出すためのクーデターが、この混乱する中で起きたというのである。


あり得ない話ではないだろうが、今や「ドロ船」と化しつつあるフジテレビを乗っ取ってどうしようというのだろう。そんな内部の権力闘争に明け暮れていれば、早々に、視聴者からもスポンサー企業からも、愛想を尽かされるに違いない。


第三者委が提起しているさまざまな問題は、フジテレビだけのことではない。どのテレビ局も多かれ少なかれ、抱えている問題でもあるはずだ。


「楽しくなければテレビじゃない」という時代は終わった。業界全体、メディア全体でフジテレビ問題を考えるべきだと、私は思う。


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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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