年100回超の「飲みニケーション」より断然効果的…コクヨの宴会部長が立ち上げた"社内サークル"の中身
2025年4月7日(月)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock
※本稿は、川田直樹『シン・サウナ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■年齢も性別も違う部下とのコミュニケーション
コクヨに入社して9年目、私は29歳でマネージャーになりました。
ありがたいことに、当時の社内では最年少のスピードだったと思います。私はチャンスをいただけたことに、とても感謝していました。
部下を持ったことがある方ならわかるかもしれませんが、人生初めての部下はとにかく可愛かった! 部下がトラブルを起こしてしまったとしても、私自身の経験を活かしてなんとか解決しようと奔走しました。そんな、チームで目標に向かって戦略を立てチャレンジする毎日でした。
こうして大きなやりがいを感じていたのですが、同時に壁にもぶつかっていました。それは、年齢も性別も異なる部下とのコミュニケーションです。私のチームは50歳くらいのベテラン社員から、21歳の若手社員まで、年齢もキャリアもバラバラ。そんな多様なメンバーをまとめあげ、一丸となってプロジェクトを進めていく必要がありました。
■年100回以上の「飲みニケーション」
マネージャーになるまで私はとにかくストイックに仕事をしてきました。同じやり方をそのまま教えるだけではダメだとわかっていながらも、私はずっと戸惑っていました。
「一体、どうしたらいいんだろう……」
そこでまず私が考えた解決策は飲み会、いわゆる「飲みニケーション」でした。同じ部署のベテランや若手だけでなく、営業や設計といった他部署のメンバーもどんどん巻きこみ、宴会を企画する。
写真=iStock.com/kuppa_rock
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歓送迎会やプロジェクト打ち上げ、さらには誕生日会や慰労会まで。宴会を通して、人と人がつながっていく様子に感動し、そしてただの飲み会ではなくちょっとしたサプライズ企画を通して、その効果が最大化される幹事の面白さにやりがいを感じていました。
気がついたら、私のあだ名は「永久宴会部長」。年間なんと100回以上もの飲み会の幹事をしていたのです。
■部下を趣味のサウナに誘ってみると…
こうして、みんなが笑顔で楽しむ姿に手応えを感じていたのですが、その中に、お酒を飲まずに隅に座っている子が一人。
同じチームの頭脳明晰でクールな若手社員です。ここでは彼のことを「シャイ君」と呼びますね。
シャイ君はお酒が苦手でした。飲み会には来てくれましたが、みんなと飲んで騒ぐタイプでもない。また、普段の仕事も着実にやってくれるものの、どこか受け身のようにも見えました。
もしかしたら、チームに馴染めてないのではないか。そもそも、シャイ君は仕事を楽しめているのかな……。
彼との距離を縮めるネタがないか、ずっと探していたある日のこと。日課のサウナに行こうとしたタイミングで、私は思い立ちました。
「シャイ君、このあと『スカイスパ』っていうサウナに行くけど、一緒に行く?」
「えっ……行きたいです」
それぞれがサウナを楽しみ、レストランで一緒にご飯を食べていると、いつもより自然と会話が続いていました。
「ここ、チゲ鍋が人気なんだよね。あとサウナもいいけど、その前にアカスリするとめっちゃ気持ちいいよ」
「肌、痛くないんですか?」
「意外と調整してもらえるから大丈夫だよ」
■心理的な距離がグッと縮まった
シャイ君の表情はどことなくほぐれ、笑顔がとても増えていました。
そして私がなにを言うわけでもなく、シャイ君は自分のことを話し始めてくれたのです。
「川田さん。最近、実は僕、好きな子ができまして……」
私はシャイ君の話を聞きながら、心底驚いていました。
(あの受け身のシャイ君が……。いま、なにが起きてるんだろう?)
私にとってこれまでサウナとは、リラックスやリフレッシュ、つまり自分自身のためにありました。ですが、シャイ君とのサウナで、私は大きな発見をしてしまったのです。
「一緒にサウナに行くと、相手は自然と心を開いてくれる」と。
翌日、会社でシャイ君に会うと、彼の様子がいつもと違います。
「川田さん、昨日はありがとうございました! スカイスパのサウナ、気持ちよかったです。僕、また一緒にサウナ行きたいです」
満面の笑みを浮かべるシャイ君から、私は次のことに気がつきました。一つ目は一度心を開いてくれると、心理的な距離がグッと近くなること。
そしてもう一つは、いままで自分一人のライフワークだったサウナを、仕事の領域とまぜてみてもいいんじゃないか、ということ。
私は思いました。この経験をもっと持続させていったら、めちゃくちゃ面白いことになるんじゃないか—。
2016年。私とシャイ君ともう一人で、コクヨサウナ部はまずサークルとして静かに産声をあげました。
■「会社以外のつながり」があるほうが面白い
「この人、めっちゃ面白いなあ」
人生を楽しく、イキイキと過ごす人たちとたくさん出会う中で、その要因はなんなのかを、ずっと考えていた時期がありました。
私が行き着いた答えの一つ、それは参加するコミュニティの多さです。
例えば、会社の仕事でトラブルがあったとしましょう。業務上は上司と解決できたとしても落ち込みますよね。解決する手段も相談先も、会社のつながりしかない場合、そこへの期待値は100%になってしまうからです。
するとトラブルを起こしてしまった自分に過度にショックを受けますし、トラブルが解決されない限り、悩みや不安はどんどん蓄積されていきます。
一方で、会社以外につながりがあったらどうでしょうか。
気軽に相談できる他社の先輩や、趣味のラーメン好きの会、アイドルの推し活のオフ会など。全く違うコミュニティの人たちと触れあう中で、「ちょっと考え方を変えてみてもいいかもしれない」と、解決の糸口が見えてくるかもしれません。
あるいは「自分の悩みなんて、意外とちっぽけなものだなぁ」と、捉え直せるかもしれません。
参加するコミュニティが多ければ多いほど視野が広がり、人生はポジティブに、そして豊かになっていくと私は思うのです。
だから、新しいコミュニティに思いきって参加してみる。
あるいは、自分でコミュニティをつくってみる。もちろん、関わり方の深さは調整してみてください。ただそこに自分にとっての居場所があることが大切です。
そこにぜひ、「サウナ」を取り入れてみてほしいのです。なぜなら「サウナコミュニティ」が持つ心地よさは、唯一無二だと思うから。
写真=iStock.com/SimeonDonov
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■リフレッシュだけじゃない「サウナ部」のメリット
コクヨにはテニス部やフットサル部、華道や茶道部など、10以上の部活動がありますが、実は最も部員が多いのが「サウナ部」です。新入社員から役員まで部員は増えて、いまや180名を超えました。
また一般的にサウナ好きは男性が多いと言われていますが、部員の女性比率が高いというのも周りから驚かれる特徴です。
「部活」といってもメインの活動は、「みんなでサウナについて情報交換する」「行きたい人でサウナに行く」。これだけ(笑)。
そんなある日のサウナ部活動の帰り道。部員のある女性がこんなふうに話してくれたのをいまでもよく覚えています。
「カワちゃんさん、私、今日部活に来て本当によかったです」
そうかぁ、よっぽどサウナがよかったんだなぁと思いながら話を聞いてみると、どうやらサウナ以上に嬉しい発見があったと言います。
「私の部署は社内の情報システム系で、10人くらいの小さなチームです。社内に知られる機会も少ないし、普段仕事で会話をする相手は、上司くらいで……。けど今日は皆さんとサウナに入って食事をして、コクヨってこんなにユニークな人がいて、みんなが本当に面白いことやってるんだって、初めて知れたんです。知り合いが増えるとオフィスにより出社したくなります。だから私、コクヨのサウナ部に入って、本当によかったです」
サウナ部の活動の中心は「サウナ」。ですが部活に参加することで得られるメリットは、サウナで自分がリフレッシュすることにとどまりません。
■「ゆるいコミュニティ」は企業を成長させる
コクヨサウナ部の基本理念は、「組織のたて(上下関係)・よこ(同僚)・ななめ(他部署)をととのえる」です。役職や部署に関係なく、興味を持った人ならだれでも参加できる、オープンな活動を目指しています。
コクヨは約7000人が在籍する企業のため、たこつぼ化するリスクも併せ持っています。
コロナ禍を経てリモートワークが普及したいま、オフィス環境は「単にリアルで顔を合わせるだけの場」ではなくなりました。特にリモートワークでは、「ちょっとした相談がしにくい」「気軽に話せる人がいない」といった声も多く、仕事を抱え込みがちになる人も増えています。
ほかにも、「自分の担当以外の人の顔も名前もわからない」「今日は社内のだれとも話さずに仕事が終わった」といった状況に共感する方も少なくないでしょう。
一方で、企業としてこれからの成長を目指すためには、既存の領域を超えた新しい活動や、異なる価値観の発見が欠かせません。
こうした課題を解決するために、サウナ部のような「社内のゆるいコミュニティ」の役割が今後ますます重要になってくると私は考えています。
それはまさに担当や役職、業務の垣根を越えて、会社の仲間とつながれるチャンスになるからです。
コクヨサウナ部では、フィンランドのある格言を大切にしています。
「サウナでは皆が平等である」
サウナの中では、社会的な地位や職業などの違いは関係なく、すべての人が対等な存在という、フィンランドの民主的な精神を反映した言葉です。
そして私はこうも考えます。
「サウナの前では服も肩書きも脱ぐ」
部署や役職などの肩書きだけでなく、サウナにたくさん行く人が偉いわけでも、サウナに行けてない人はダメだというわけでも決してない、という意味も含まれています。
■ゆるいつながりが会社を深く知るきっかけに
社内にゆるいつながりができると、次第に他組織の業務にも興味が湧いてきます。
例えば、社内掲示板を想像してみてください。掲示板などで、定期的に社内ニュースを発信している企業は多いかと思いますが、通常業務と比較するとどうしても優先度が低く、なかなか社員が見てくれないという課題感もあるのではないでしょうか。
一方で、流れてきたニュースの発信源が同じサウナ部員からだったら……。
「サウナで仲よくなった、ステーショナリーチームの○○さん。スパでご飯を食べながら、いま取り組んでいる仕事のことを話してくれていたな。それがとうとう発売したんだ……!」と、ニュースの見え方も一変すると思います。
■ゆるいコミュニティが新しい会話や関心を生む
ほかにも、クライアントさんとの会話の中で、サウナ部員が教えてくれた商品の裏話をアイスブレイクに使ってみたり。
営業先へお土産を渡すとき、「実はこの商品、社内のサウナ部員がつくっておりまして……」とサウナ部トークを交えるのも活路が広がり効果的です。
さらには、部活から派生して、新たなコミュニティが生まれることもあります。例えば、サウナ部の全体活動とは別に若手社員同士がサウナに行ったり、「サウナ女子会」が開催されたり。
そのコミュニティは、普段一緒に仕事をしているメンバーではないからこそ、関係性もラフなもの。ちょっとした悩みも相談しやすいようです。
自分のちょっとした悩みを受け止めてくれる人が、社内にいる——。それだけで、会社で過ごす時間もより前向きになっていくと思います。
サウナ部の部員は、サウナで心を開いた仲間たちです。仲間の活動が身近に感じられると、自然と応援したくなるものです。サウナを通じて生まれたご縁は強く、社内の興味や関心が広がるきっかけになります。
■ゆるければサウナじゃなくてもいい
私はサウナ部以外にも様々なコミュニティ運営を経験してきましたが、これからの時代のコミュニティが成功する秘訣は、こうした「ゆるさ」にあると感じています。厳格な決まりや段取りが増えると、活動が業務のようになり、自然と足が遠のいてしまうことがあります。
そのため、コクヨサウナ部では、サウナの持つ「癒し」や「安心感」のように、疲れたときに心が休まる、心理的安全性の高いオアシスのような場所を目指して運営しています。
川田直樹『シン・サウナ』(KADOKAWA)
自由で気軽に参加できる雰囲気を大切にし、メンバーにとってリラックスできる場であり続けることを意識しているのです。
日常の業務でももちろんですが、サウナ部でも、部員のみんなには、いつも気持ちよく活動してほしいと願っています。そこで、チャット上でしっかり基本スタンスを明示するなど、私が普段から意識している「ゆるいコミュニティでも大切にしたいポイント」をご紹介します。
サウナ部以外でも、これからコミュニティづくりをしたい方、あるいはすでにコミュニティを運営しているけれど、イマイチ盛り上がらずに悩んでいる方に参考にしていただけると幸いです。
出典=『シン・サウナ』(KADOKAWA)
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川田 直樹(かわた・なおき)
コクヨサウナ部部長
1984年奈良県生まれ、大阪育ち。フィンランドサウナアンバサダー(フィンランド政府観光局公認)。一級建築士。東京のコクヨ株式会社で働き、働く空間の価値向上に携わる会社員。29歳で課長に就任し、その後部長や社長室長を歴任。サウナ愛をビジネスとかけ合わせ、コクヨ社内でサウナ部を立ち上げたのを機に、他社のサウナ部も巻き込んだ「JAPAN SAUNABU ALLIANCE」を共同設立。ビジネスとサウナの可能性を探求し、国内外を飛び回り施設構築や情報発信を行い、多数のメディアに出演。新たなカルチャーを「つくる」と「ひろげる」領域でサウナプロデューサーとしても活動している。プライベートではチャーハンとお笑いとネコが好きで、泳ぎや早起き、コーヒーが少し苦手。
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(コクヨサウナ部部長 川田 直樹)