「ただの肩こり」と思ったら心臓病が見つかった…整形外科医が「すぐに心電図検査を」と説く肩の痛みの種類

2025年4月11日(金)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pocketlight

肩や腰の痛みに悩まされる人は多い。日本整形外科学会認定スポーツ医の歌島大輔さんは「肩の痛みの中には単なる肩こりではなく、病気の『関連痛』も含まれている場合がある。これまで経験ないほどの強い痛みを感じたら、迷わず♯7119(救急相談)に電話してほしい」という——。

※本稿は、歌島大輔『じゃないほうの肩こり』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/pocketlight
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pocketlight

■肩こりの陰に隠れた危険な病


本稿は「“じゃないほう”の肩こり 第2群」として、なるべく早く適切な検査・治療をすべき、やや深刻な病気が原因の「肩こり」についてご紹介します。


なかには「なるべく早く」ではなく、「早急に治療が必要」という病気も含まれますから、アクセスすべき診療科もご紹介しましょう。


そして拙著『じゃないほうの肩こり』(サンマーク出版)の冒頭で述べたとおり、ここで言う「肩こり」には首や、肩甲骨周囲も含めた背部のこりや痛みも含めます。


患者さんのこりや痛みの表現は多彩で、「肩こりがひどい」と言う人に、「いちばん痛い部分を触ってください」と言うと、背中や腰に手を当てる人が往々にしていらっしゃいます。その人にとっては、普段の肩こりと連なって、背中や腰の痛みが感じられているのでしょう。


「“じゃないほう”の肩こり 第2群」の病気はいのちに関わる場合もあるので、特に肩・首にこだわらず、背部痛があるときは可能性を考えてみるのがいいです。


深刻な病気が原因で肩こりが起こっていることは、数としては稀ですが、緊急性が高い状態もあるので、知識をもっておくことが本当に大切です。


いざというときに適切な医療にアクセスするタイミングを逸しないために、記憶に留めておいてください。


■「ただの肩こり」と侮ると命取りに


このような肩こりには、病気の関連で起きているため「関連痛」と呼ばれるものを含みます。まず、シンプルな判断基準で、なるべく早く、または早急に受診が必要な肩こりか、否かを見分ける目安をお伝えし、その後、肩こりを起こすことがある病気についてご紹介しましょう。


最低限の知識として、緊急度が高い肩こりを見分ける判断基準を知っていれば、肩こりと同時に、いくつかの症状を確認した際、ひとまず医療にアクセスすることを思いつくでしょう。受診先でこれらの症状があると伝えれば、医療者なら緊急度を理解することができる判断基準です。


なお、肩こりを起こすことがある病気を知っても、自己診断はやめましょう。あくまで予備知識としてお役立てください。


いずれの病気も、医師が必要な検査などを行ったうえでしか、診断はできません。


自己診断や、周囲の人の診断は、ときに適切な治療が遅れるリスクとなることもあります。受診した際、医療者に伝えるべきことは「症状」や「困っていること」で、「自己診断結果」ではないとご理解ください。


■「何かおかしい」と感じたらどうする?


「いつもの肩こりだと思うけれど……。なんかヘン」。肩こりなど慢性疼痛のある患者さんは、ときには症状が普段より重い気がして、病院に行くべきか、家で休んで様子を見るか、迷うことがあるとよく言います。


そのような自分の「変化」に対する感覚は大切で、かかりつけ医がいるなら、ひとまず相談してみるのがベターです。


一方、そのように迷ってもいられないほど具合が悪く、「おかしい!」とは思うものの、どうしたらいいかわからない。そんなタイミングもあると思います。


かかりつけ医もいない。何科に行ったらいいかも判断がつかない。それで迷うこともあるでしょう。


「いつもの肩こり」ではなく、急激に悪化したように感じて、次のような症状があったら、近くの総合病院または内科に電話をして、指示をもらいましょう。


星印(★)のついている症状があるときは、「♯7119」に電話をかけ、救急相談をしてください。


■救急相談が必要なレッドフラッグとは


見逃しNG 緊急! レッドフラッグサイン


痛み止めの薬が効かない
夜間、症状がつらくてまったく眠れない
安静にしていても痛みが強く、止まらない
38℃以上の発熱
喉も痛い
顎を胸につけられない
これまで経験したことがない体調不良
手足の感覚がおかしい、しびれる
全身がだるく、自力で動けない
1日以上、水分や食事が摂取できていない
近頃、原因不明な急激な体重減少がある
嘔吐または下痢がある
意識がない(★)
突然の、これまで経験ないほど強い頭痛または胸痛(★)


■「たかが肩こり」と思ったら深刻な病気が…


ここから肩や首のこりや痛みを伴うことがあるとエビデンスが示されている病気を紹介します。あくまでも参考で、自己診断をしていただくためのものではないので、病気の概要とエビデンス、診察や治療を担当する専門科と事例の紹介に留めます。


「たかが肩こり」と思っていたら、その陰にこれほど病気があるとは! 読んでいただくと、多くの診療科にまたがるさまざまな病気があって驚かれるかもしれません。


私は、臨床の場で腰痛を訴えてきた患者さんが実は、生命に危険がある人が医療を受けるICU(集中治療室)ですぐにも処置が必要な状態であり、肝を冷やした経験が何度かあるのです。


幸い、痛みの陰にあった病気を見逃さず、専門科につなぐことができ、いのちが助かったことに安堵したものの、異変に気づくための知識の普及が必要と感じてきました。読者のみなさんにも概要を知っておいていただきたいと強く思います。


「狭心症」は、心臓に血液を送る冠動脈の一部に異常が起きることが原因で血流が滞り、心臓の筋肉(心筋)が弱る病気です。「心筋梗塞」は、冠動脈に血栓が詰まって血流が途絶え、心筋が壊死してしまいます。


病気の背景(リスクとなること)として高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、加齢があるとされています。


画像=iStock.com/Lars Neumann
※画像はイメージです - 画像=iStock.com/Lars Neumann

■心筋梗塞は胸だけが痛むわけではない


狭心症と心筋梗塞は、どちらも初期症状として「胸痛」が起こるのをご存じの方が多いかもしれません。


狭心症の場合は数分から15分程度「胸痛」が持続し、心筋梗塞の場合は15分以上、多くの場合30分以上「強い胸痛」が持続するとされ、確かに、胸が締め付けられるような強い胸痛が起き、異変に気づく人が少なくありません。


ただし2つの研究で、女性や高齢者、糖尿病患者では「典型的な胸の痛み」以外の症状としてアゴ、喉、首、肩、腕、手、背中の痛みが表れることがある(※1、※2)などと示され、「※1」の論文で男性には「吐き気」も多く見られたと報告されています。つまり、「狭心症・心筋梗塞=胸痛」とだけ思い込んでいると、病気の発見が遅れてしまう可能性があるということです。


この「※2」の論文では、心筋梗塞と診断された全患者のうち33%に、来院時の胸痛は認められなかったとしています。


※1:Kosuge M, Kimura K, Ishikawa T, Ebina T, Hibi K, Tsukahara K, et al. Differences between men and women in terms of clinical features of ST-segment elevation acute myocardial infarction. Circ J. 2006 Mar;70(3):222〜6


※2:Canto JG, Shlipak MG, Rogers WJ, Malmgren JA, Frederick PD, Lambrew CT, et al. Prevalence, clinical characteristics, and mortality among patients with myocardial infarction presenting without chest pain. JAMA. 2000 Jun 28;283(24):3223〜9.


胸痛以外の痛みは、病気に関連して起こる「関連痛」の1つです。


狭心症・心筋梗塞は、「胸痛」とは限らない。この知識があれば、異変に気づいたときに、病気のリスクに目が向きます。


「ただの肩こりではないかも」と感じるなど、狭心症・心筋梗塞の可能性を疑うときは「♯7119」に電話で救急相談をするか、循環器内科のある病院を受診しましょう。


かかりつけの内科がある人は、かかりつけ医にまず連絡をするのもOKです。


■「いつもと違う肩痛」で狭心症発見


Case Presentation 【55歳・女性】

長年、営業職として働いてきたKさんは、慢性的な肩こりに悩まされていました。特に左肩のこりが強く、デスクワークの影響だと思い、マッサージやストレッチを試していました。しかし、まったく改善しないどころか、最近では左肩から腕にかけて重だるさが増していました。


さらに、階段を上ると息切れを感じ、胸に軽い圧迫感を覚えることもありました。とはいえ、加齢や疲れのせいだろうと深く考えていなかったそうです。


ある日、取引先へ向かう途中で左胸と左肩に強い痛みが走り、冷や汗が出てきました。さすがにこれはただの肩こりではないと感じ、近くの病院に駆け込みました。



歌島大輔『じゃないほうの肩こり』(サンマーク出版)

医師に症状を伝えると、すぐに心電図やカテーテル検査を受けることになりました。結果は「狭心症」という診断でした。心臓の冠動脈が狭くなっており、十分な血液が供給されていない状態とのこと。左肩の痛みや違和感は、心臓からくる「痛み」だと説明がありました。


その後、カテーテル治療を受け、生活習慣の見直しも行いました。運動不足や食生活の乱れ、ストレスが狭心症の原因になっていたようです。治療後は症状も改善し、左肩の痛みも消えました。


私のYouTubeチャンネルにご意見と、狭心症と肩痛の顛末を投稿してくれたKさん。「肩こりだと思っていた症状が重大な心臓の病気から来ていたことに驚きました。よく“身体のサイン”と言うけれど、本当ですね。早めに医療機関を受診することの大切さを痛感しました」と伝えてくれました。


----------
歌島 大輔(うたしま・だいすけ)
日本整形外科学会・日本専門医機構認定整形外科専門医/日本整形外科学会認定スポーツ医
1981年生まれ。山形大学医学部卒業。肩関節、肩関節鏡手術、スポーツ医学の専門家として、フリーランスの立場で複数の整形外科でさまざまな肩治療を行う。肩関節鏡手術は年間約400件と全国トップクラス。診療のかたわら、「医学的根拠のあるセルフケアを」との信念からYouTube開設、登録者20万人と人気を呼んでいる。
----------


(日本整形外科学会・日本専門医機構認定整形外科専門医/日本整形外科学会認定スポーツ医 歌島 大輔)

プレジデント社

「肩こり」をもっと詳しく

「肩こり」のニュース

「肩こり」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ