「地球温暖化の被害者」ホッキョクグマは実は増えている…メディアと環境保護団体の"虚偽情報"を検証する
2025年4月13日(日)7時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SeppFriedhuber
※本稿は、杉山大志『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/SeppFriedhuber
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■環境運動家「ホッキョクグマが絶滅する」
環境運動家たちは、何十年もの間、ホッキョクグマ(北極圏に住むシロクマのこと。日本にも住むツキノワグマのアルビノも「シロクマ」と呼ぶことがあるので、区別のために以下では「ホッキョクグマ」と呼ぶ)を地球温暖化による生態系破壊の象徴として利用してきた。
「地球温暖化が起きると、北極の氷が解けてホッキョクグマの生息域が脅かされ、ホッキョクグマが絶滅する」と言った具合である。
しかし、最も信頼できるデータによると、絶滅の危機に瀕しているどころか、その数は増加していることがわかる。
動物学者たちによる公式評価(国際自然保護連合ホッキョクグマ専門家グループ、IUCN PBSG)では、現在の世界全体での生息数を2万2000頭から3万1000頭の間と推定している。これに対し、1960年代には5000頭から1万9000頭しか生息していなかったと推定されていた。つまり、ホッキョクグマは増えている(図表1)。
出典=Bjorn Lomborg, Overall, polar bear numbers up over the past 60 years
■狩猟制限が奏功し、頭数は右肩上がり
このように、ホッキョクグマは、地球温暖化による生態系破壊の象徴的なキャラクターとされ、絶滅の危機にあるとされてきたけれども、実は、ホッキョクグマの頭数は減っておらず、むしろ増えている。
頭数が変化した理由は、気候とは関係がない。1976年に制定された国際協定によって、ホッキョクグマの狩猟が制限されるようになったことが、大きな効果をもたらした。動物学者のスーザン・クロックフォードは、ホッキョクグマの頭数の増加は「動物保護の大成功事例だ」と述べている。
※杉山大志「ホッキョクグマはだいじょうぶ 心配しなくていい20の理由(更新版)」
■メディアは真実を「誤情報」と切り捨てた
地球温暖化の影響が見られなかったことは、別に驚くに値しない。なぜなら、ホッキョクグマは、現在よりもはるかに温暖だった13万〜11万5000年前の最終間氷期や、やはり現在よりも温暖で北極圏の氷も少なかった8000年前ごろから4000年前ごろ(日本で縄文時代にあたる時期)にも生き延びてきたからだ。北極圏の氷が減ると絶滅するということは起きないのだ。
なお、図表1は、デンマーク出身の研究者であるビョルン・ロンボルグがSNSのX(旧Twitter)に投稿したものである。
ところが、フランス通信社のAFPは「ファクトチェック」と称し、この記事は「信頼できないデータを使用した」として「誤情報」というタグを付けた。他のメディアもこれに追随し、例えば、Facebookは、ロンボルグが同様の主張を行った投稿や新聞コラムを「一部虚偽」ないし「誤解を招く可能性がある」とタグ付けした。
これについてロンボルグは、米国のウォールストリート・ジャーナル誌上で詳しく説得力のある反論をしている。
AFPは、代替となる推定値を提示することもなく、単にホッキョクグマが絶滅の危機にあるという自分たちの政治的な主張に合わないという理由から、入手可能な最良の公式データの利用を否定したのだ。
■海面は100年間で20cm上昇している
地球温暖化が進行すると、海面が上昇して砂浜が消失したり、都市が水没したりするという報道もよく見かける。環境運動団体であるクライメート・セントラルは、2300年には英国の国会議事堂が水没するというコラージュ写真をウェブ上で公開している。
それでは、過去の地球温暖化によって、どの程度そのような水没が起きたのだろうか?
海面上昇については、は国連の科学諮問機関である気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、略称:IPCC)が図表2のようにデータをまとめている。
出典=IPCC「第5次評価第1作業部会報告テクニカル・サマリー」Figure 2を基に筆者作成
過去100年間の世界平均の海面上昇は、累計で20cm程度となっていることがわかる。だが、この程度の海面上昇であれば、他の理由による海面変動によってかき消されてしまう。
■東京・江東区では50年間で4m沈下
海面の高さは、毎日の潮汐(ちょうせき)による満潮時と干潮時に2mぐらい高さが変わることはごく普通で、東京でもそうだ。海外では、フランスのノルマンディー地方など10m以上の潮汐差があるところもたくさんある。
また、低気圧が来ると高潮になり、地震が起きると津波がある。1912年に発生した高潮は、東京湾で3mにも達したという。津波は、東日本大震災のときのように、広範囲にわたって15mを超えることもある。
以上は、短い時間幅における変動であるが、数十年という時間幅でも、地球温暖化による海面上昇をかき消してしまう大きな変動が2つある。
まずは地盤沈下だ。昭和年間には、日本各地で地盤沈下が観測された。東京都の江東区では、50年間の間に4mも沈下した(図表3)。
出典=国土交通省「地下水保全と地盤沈下の現状」
■人為的に「地盤沈下=海面上昇」は起きる
地盤沈下が急速に進んだ最大の理由は、工業用水などのために地下水を汲み上げたことだった。もうひとつの理由は、そもそも関東平野のような河川が砂を運んで形成されている沖積平野では、地面が固まってゆっくりと地盤沈下をすることだ。
人間が居住する以前であれば、河川が上流から常に土砂を運んで堆積したので、地盤沈下してもすぐ埋め合わせていた。だが、人が住むようになり、ダムを造ったりして河川が土砂を運ばなくなると、地盤沈下が観測されるようになった。
地盤沈下への対策としては、堤防を築いたり、あるいはポンプを設置して人間の活動する土地から河川へと排水できるようにした。
このような地盤沈下は、いわば「人為的な事実上の海面上昇」であったが、日本では「自然変動による事実上の海面上昇」も頻繁に起きる。それは地震による土地の沈降だ。
■温暖化による上昇はわずかでゆっくり
日本では、地震のたびに広範囲にわたって土地が隆起したり、沈降したりする。2011年3月に発生した東日本大震災でも、宮城県の海岸沿いでは1m近く沈降した場所があった。
※国土交通省「地盤沈下による被害」
つまり、1mもの「事実上の海面上昇」が一瞬にして起きたことになる。1923年に起きた関東大震災においても、房総半島の南部や神奈川県の海岸沿いでは1m以上も地盤が隆起した。
※岩波書店辞典編集部、関東大震災(1923年)による地盤の隆起と沈降、『科学の事典』、岩波書店、1982年
このときを含めて千葉県の房総半島先端の館山市あたりでは地震のたびに地盤が隆起しており、現地に行くと、その跡を観察することができる。
このように、海面の高さは日々大きく変動するのみならず、地盤沈下によって急速に変動することもあり、また地震によって急速に自然変動することもある。これと比較し、地球温暖化による平均的な海面上昇は、100年で20cm程度と、ゆっくりわずかなものだった。
人類は、これに気づくことすらなく成り行きで対応してきた。何か不都合が起きたということはない。以下で詳しく見ていこう。
■「南の島が水没の危機」という報道
太平洋の島嶼(とうしょ)国というと、地球温暖化によって海面が上昇することで「水没の危機」にさらされているという報道がある。本当だろうか?
サンゴ礁の砂浜にある白い砂は、サンゴの骨格や殻の破片でできている。
貝が動物であり貝殻を作るのと同じように、サンゴも動物であり骨格や殻を作る。海面が上昇すれば、その分、海面に合わせて生息する場所も上に移動するので、水没などしない。
そもそも、海抜の低い平べったい島々が存在するのも、そのようなサンゴの性質によるものだ。海面上昇に追随できないようでは、平べったい島が存在することもない。
■島面積が減ったのはたったの14%
観測データははっきりしている。Webb & Kench 2010の研究では、対象とした27の環礁島のうち86%で面積は増大ないし安定していた。減少したのは14%にとどまった。環礁島では、海岸線の自然変化が大きく、よく島の形が変わるが、全体として面積は増えていた。
その後のDuvat 2019やHoldaway et al. 2021などの大規模な調査でも、島々の面積は減らなかったという結論が確認された。むしろ島の面積が増えた例を図表4に示す。
出典=Michael Daly, The Pacific islands which are growing, despite sea level rise
水没が懸念されていたのは海抜が数mしかない環礁島だった。だが、サンゴは動物であり、海面が上昇するとその分成長するので、水没はしない。
水質汚染などでサンゴが死ぬと、もちろん成長はしなくなるが、そのときは土地を造成し盛り土をすれば水没などしない。それは、多くの島で日常的にやっている土木事業の延長だ。
■土木工事で現状維持は十分可能
杉山大志『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)
筆者が2017年に訪れたキリバスでも、近隣から砂を取ってきて、埋め立てて、住宅地や道路用地を造成するという工事が盛んに行われていた。ツバルの空港近くでは、かつて米軍が滑走路を建設したときに砂を採取したために大きな穴が開いて池になっていたが、今では、そこも埋め立てられて塞がっている。
地球温暖化で海面が上昇するといっても、100年かけて数十cmという話なので、サンゴが成長したり、土木工事で土地を造成する時間はたっぷりある。南沙諸島では中国が人工島を数年で造成したぐらいだから、もともと島があるところを維持するのは技術的にはまったく難しくない。いま盛んに行われている土木工事の延長上で十分に対応可能である。
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杉山 大志(すぎやま・たいし)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
東京大学理学部物理学科卒業。同大大学院工学系研究科物理工学専攻修了。電力中央研究所、オーストリア国際応用システム解析研究所(IIASA)を経て、現職。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価報告書統括執筆者。経済産業省審議会委員、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術委員、慶應義塾大学特任教授、米国ブレークスルー研究所フェローなどを歴任。2020年より産経新聞「正論」欄レギュラー執筆者。著書多数。専門はエネルギー政策、気候変動問題。
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(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山 大志)