机でできる「時給1800円」のバイトが急増中…「AIとロボットに仕事を奪われる」と煽る人が知らない新たな職業

2025年4月16日(水)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MTStock Studio

これからの未来、ロボットは人間の仕事を奪うのだろうか。ロボット開発者の安藤健さんは「決してそうとは言えない。なぜならロボット導入の加速により、時給1800円といった高額な求人も増えているからだ。技術の活用によって、新しく生まれる職業や働き方の可能性について紹介したい」という——。

※本稿は、安藤健『ロボットビジネス ユーザーからメーカーまで楽しめるロボットの教養』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/MTStock Studio
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■遠隔操作がもたらす価値


遠く離れた世界的な専門医の手術が近所の病院で受けられる。そんなSFのようなシーンが実現するかもしれません。


このような取り組みは意外と古く、2001年にはアメリカのニューヨークとフランスのストラスブールをつないだリンドバーグ手術という有名な手術がおこなわれ、ストラスブールにいる患者の胆嚢摘出術に成功したのです。


国内でも日本と海外をつないだ手術や日本の国内の拠点をつないだ遠隔手術も昔からおこなわれており、最近でも2021年には弘前大学医学部附属病院から150キロメートル離れたむつ総合病院の手術支援ロボットを遠隔操作しています。


このような取り組みは、特に地方で外科医が不足している現状において、地域格差を是正する大きな意義があります。遠隔操作技術は医療や他の産業において劇的な進化を遂げており、その影響は私たちの生活のあらゆる側面に及んでいくことになります。


遠隔操作技術が注目される理由は多岐にわたりますが、便利さを提供するだけではありません。


まず、遠隔操作により、物理的な距離を無視して知識や技術を活用できます。これにより、作業するほうもされるほうも場所によらず世界中のどこからでも、いつでもタスクを実行できるようになります。逆に、時差などを利用することで24時間サービスの提供を容易にすることもできます。


また、危険な環境での作業をロボットに任せることで、人間は安全な場所から操作が可能です。たとえば、災害現場や放射線管理区域での作業がこれに該当します。


■遠隔操作の最大の強みは「人間の脳を使えること」


そして、遠隔操作の最大の強みは「人間の脳を使える」という点にあります。ロボットはまだ完全無欠ではなく、変動する環境や予測不能な状況での判断に迷うことがあります。


しかし、人間がリアルタイムで状況を把握し、理解し、適切な判断を下してロボットを操作することにより、これらの問題は解決されます。そうしたときに、人間の指示によってロボットが適切に動くことは大きなメリットです。


このような人間とロボットの協働は、多くの分野で新たな価値を生み出しています。


たとえば、冒頭の手術ロボットはその一例です。手術という複雑でケースバイケースの判断が必要な状況では、人間の判断が有効です。


遠隔操作である手術支援ロボットを使用することで、状況の判断やロボットの操作などは人間がしながらも、ロボット制御により人間の手の震えを排除した精密な動作が可能になり、より安全かつ効果的な治療を実現しています。


■通信環境が整えば、暮らしや働き方が大きく変わる


しかしながら、このような遠隔操作技術にはいくつか解決すべき課題も存在します。


まずは通信インフラの整備が挙げられます。最近では4Gなどのすでに普及した通信方式で安定した作業ができる技術も増えてきていますが、遠隔操作をおこなうには高速かつ遅延の少ない安定した通信環境のほうがよいことは間違いありません。


特に、災害時や過疎地ではインフラが整っていないことが多く、これがひとつのボトルネックとなる可能性もあります。


また、遠隔操作にはデータ通信が伴うため、サイバー攻撃などによる情報漏洩やシステム障害への対策も重要です。信頼性と安全性を確保するためには、高度なセキュリティ対策が求められるのです。


そして、これらの課題を解決しながら、私たちの生活はもっと便利で安全なものになると期待されます。


たとえば、5Gやその先の6G通信技術が普及すれば、より高速かつ安定した通信が可能となり、遠隔操作の精度と信頼性が大幅に向上します。


医療分野だけでなく、教育や労働現場でも遠隔技術の応用が進み、多くの人々がその恩恵を受けることとなるでしょう。遠隔操作技術は、私たちのくらしや働き方の未来を変える大きな力を秘めているのです。


■時給1800円!遠隔操作オペレーターの増加


ロボットは仕事を奪うのでしょうか。決して、そんなことだけではありません。


ロボット導入の加速により、「遠隔操作オペレーター」という新たな職業も登場しています。


この職業は、日本やアメリカなどでも急速に求人が増加しており、日本では時給1500円、夜間は1800円などというアルバイトとしては高い条件で募集されていたりもします。このような状況は、新しい働き方の象徴とも言えるでしょう。


では、この遠隔操作の仕事に向いているのはどんな人々でしょうか。それが意外にも「ゲーマー」なのです。


写真=iStock.com/gorodenkoff
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

ゲーマーは、ゲームで培った反射神経や、複数のタスクを同時処理する能力、そして先を読んで動く力を持っています。


もちろん、想定外のピンチでも動じることはありません。これらの能力は、遠隔操作の仕事にぴったりであり、ゲームの世界で培ったスキルが、新しい職業に活かされるというのは、まさに現代ならではの話です。


実際に、ゲーマーがゲームと同じようにコントローラーを握り、遠隔操作ロボットのオペレーションで活躍しているという話も聞きますし、このようなスキルセットは、今後ますます需要が高まると予想されます。


■ゲーマーによって「ロボット操作」が広がる可能性


しかし、この新しい職業には課題もあります。仮に1名で1台しか操作できない現状では、生産性向上には限界があります。もちろん、地方など本当に人手が集まらない場合においては、遠隔であっても1名確保できることに意味はあります。


ただし、生産性という意味においては、1名で複数台のロボットを操作する必要があるのです。この課題解決にまですべてを遠隔操作でおこなうのではなく、自動化と手動操作を組み合わせる「Shared Control」と呼ばれる技術が鍵となります。


さらに注目すべき点として、遠隔操作から得られるデータがあります。遠隔操作は遠隔操作だけでとどまらないのです。遠隔操作時に得られるデータの分析によって、人間の判断プロセスや操作方法が明らかになり、それを基にAIが学習して、最終的には完全自動化への道を開くことが可能です。


そして将来的には、遠隔操作によって得られたデータが「操作スキル」として抽象化されることで、まるでスマホでアプリをダウンロードするように他の人がネットからその人たちのロボットにダウンロードして、ロボットの操作スキルを活用するということも考えられます。


たとえば、優秀なゲーマーがつくり出した操作データを他のオペレーターがダウンロードし、そのロボットにカスタマイズすることで、効率的にロボット操作がおこなえるようになるという未来が見えてきます。


■「ゲームスキル」は新しい働き方や産業成長に貢献できる


人の動きをロボットの制御のために活用するという流れはすでに見られます。


テスラ社などでは、人間の日常動作データを収集し、それをもとにヒューマノイドロボットが動作を学習していくということにも取り組んでいます。実際に自分の日常生活の動きデータを提供する仕事の求人もおこなわれています。



安藤健『ロボットビジネス ユーザーからメーカーまで楽しめるロボットの教養』(クロスメディア・パブリッシング)

このような取り組みは、人間とロボットとの新しい関係のあり方として興味深いものです。これらを踏まえると、一見趣味のように思われるゲームのスキルが、新しい職業や産業の成長に寄与していくことがわかります。


ロボット活用によって生まれる職業や働き方には多くの可能性があります。ロボット技術を活用した自動化や遠隔化の変革期を経れば、スキルアップやキャリア形成の考え方すら変わってしまうかもしれません。


そして、技術が進化するにつれてロボットの遠隔操作という仕事はさらに広がりを見せるでしょう。ゲーマーが同時に10台のロボットを操る世界は、決して遠い話ではないですし、すでに始まっている現実なのです。


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安藤 健(あんどう・たけし)
ロボット開発者
早稲田大学理工学部、大阪大学医学部での教員を経て、パナソニック(現・パナソニックホールディングス株式会社)入社。ロボットの要素技術開発から事業化までの責任者のほか、グループ全体の戦略構築も行っている。大阪工業大学客員教授など複数の大学での教育活動、日本機械学会・日本ロボット学会などの学会活動、経済産業省各種委員・ロボット革命イニシアティブ協議会WG2副主査など業界団体の委員も積極的に実施。最近では、日本科学未来館ロボット常設展示の監修を務める。文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、ロボット大賞(経済産業大臣賞)、Forbes JAPAN NEXT 100、GOOD DESIGN AWARDなど国内外での受賞多数。[note
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(ロボット開発者 安藤 健)

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