そりゃお金貯まるわ…「裕福なのに3週間ヨーグルトだけですごす」ドイツ人の尋常ではない節約術
2025年4月17日(木)7時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ajr_images
※本稿はサンドラ・ヘフェリン『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)の一部を再編集したものです。
■ドイツのおばあちゃんの元気の源は「ケチケチ活動」
「僕が10歳ぐらいの頃、おばあちゃんは夜になると毎日のように、卓上カレンダーに何かを書き込んでいてね。ある時ふと見たら、そこには『今日もお金を使わなかった』と書かれていたんだ。それでよく見ると、何日か連続で『今日もお金を使わなかった』と書いてある! それにしても、あの時のおばあちゃんは本当に満足そうな顔をしていたなあ」
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あるドイツ人男性は笑いながら、「祖母の節約」について話してくれました。なんだかほのぼのしてしまう話ですが、ドイツ人の節約はとにかく筋金入りなのです。
■家は裕福でお祭りなのに…、オクトーバーフェストでも節約
ミュンヘンに住む60代のエフィ(Evi)さんから、「高齢のいとこの節約」について聞きました。
「予め言っておくと、いとこはお金には全く困っていないの。ドイツのなかでも裕福と言われているミュンヘンでも、かなり裕福なほうだと思うわ。高級住宅地に大きな持ち家もある。ところがいとこは昔からそれは徹底した節約ぶりなの。常識を逸脱した節約をするものだから、彼女と親戚付き合いをするのは本当に大変なのよ!」
86歳になるこのいとことエフィさんは、毎年秋に地元ミュンヘンのオクトーバーフェスト(Oktoberfest)に一緒に行くことが慣例となっているのだとか。
1810年から続くオクトーバーフェストは世界最大のお祭りで、戦争やパンデミックの時期を除けば毎年開催されてきました。ミュンヘンでは9月中旬から10月上旬にかけて約2週間、ドイツのビール会社各社が出店し、ビアツェルト(Bierzelt)〔註:テント式ビアホール〕のなかでお酒や食事が楽しめます。会場には観覧車やジェットコースターなどもあります。
「毎年、いとこからお誘いの電話があってね。それはとても嬉しいのだけれど……」
いとこはかつて大手ビール会社に勤めていました。だから引退した今もオクトーバーフェストで使えるクーポン券が送られてきます。
「いとこが調べた結果、一番多くの割引があるのは『火曜日の15時まで』らしくて、そのタイミングで行くことにこだわるの。私は毎年休みを取って彼女に付き合っているのよ!」
■「半額だから!」と1リットルのビールを飲み干す86歳
エフィさんは自分に呆れたように笑います。
「まあ、子どもの頃からの付き合いだし、一年に一度だからいいかなと思って、火曜日のお昼にオクトーバーフェストに行くでしょ。でも、とにかく『せわしない』のよね。『テントAはプレッツェルがタダ』『テントBは鶏の半身焼きが半額』『テントCはビールが半額』とクーポンに書いてあるから、いとこに急かされながら大急ぎでお得なテントを全部まわらなくっちゃいけないの。普通のオクトーバーフェストはね、テントに座って、ゆったりビールを楽しむものなのに、彼女の『お金を使いたくない』モードに付き合わされて、もう忙しいったらありゃしない。
極めつけはね、『プレッツェルがタダ』でも、ほかの物も食べたいでしょ? でもいとこは、定額の物は絶対に買わないの。毎年、テントAでタダのプレッツェルをもらって、前のベンチで『家から持参してきたチーズとソーセージ』と一緒に食べるの。
その後は『鶏の半身焼きが半額のテント』に急ぐんだけど、クーポンは一人分だからね。私が『自分の分を買いに行くわ』と席を立とうとすると、すごい勢いで引き留めるのよ。『いいじゃない、いいじゃない。私のを半分食べればいいじゃないの?』って。広い一軒家に住んでいる人が、なぜそこまでタダや半額にこだわるのか……」
写真=iStock.com/kamisoka
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■高級住宅地に住んでいる人が、なぜタダや半額にこだわるのか
世代的な要素が大きいかも、と言いつつ、エフィさんは話を続けます。
「やっぱりタフなのよね。最後は決まって、『1リットルのビールが半額になるテント』に行くんだけど、86歳が普通の顔をして全部飲んじゃうんだから、びっくりしちゃうわよ。体質的にお酒が強いっていうのもあると思うけど、とにかく『せっかく半額なのに、食べない・飲まないのは許せない!』という気持ちが強いみたいなの。でも、もしかしたらあれが生きがいかもしれないし、元気の秘訣なのかもしれない。そう考えると、徹底した節約ぶりも、ヘタにやめさせないほうがいいかもしれないわね」
数年前の9月上旬のある日、いとこからエフィさんに電話があったといいます。興奮した様子なので何事かと思って聞いてみれば、「クーポン券が送られてきていないのよ! 毎年この時期には届いているのに!」と立腹していました。エフィさんが「いいじゃない。クーポンなしでもオクトーバーフェストに行きましょうよ」となだめるも、「絶対に嫌だ! クーポン券が届かなければ絶対に行かない!」と頑なだったのだとか。
■常軌を逸した節約ぶりは、親戚づきあいにも影響がある
「いとこの夫がまだ健在で二人とも年金生活に入ったばかりの頃、もともとは技術職だった夫が『鉄道模型を買いたい』と言ったら、いとこは『お金がかかるから、絶対に買ってはダメ!』と許さなかったのよ。結局、いとこの夫は買えないまま亡くなってしまった。裕福なんだし、家が広いんだから、部屋に飾ればいいと思うんだけどねえ。
サンドラ・ヘフェリン『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)
いとこは私を家に招待してくれるのだけれど、『むき出し』の物は何もないの。椅子やソファにはカバーがかかっているし、テーブルにはテーブルクロス、フローリングも『傷がつかないように』と絨毯が敷き詰めてある。ドイツでは家族ぐるみの付き合いをすることも多くて、割とみんな気軽に『パートナーも連れてきて』とか『子どもも連れてきて』と言うのに、いとこは絶対に言わないどころか、電話で必ず念を押すのよ。『あなた、誰も連れてこないわよね?』って。
小さい子どもが来たりすると汚される可能性があるし、子どもが好きな飲み物やらお菓子やら出さなきゃいけないからね。それが15年ぐらい前かな、『一人だったら連れてきてもいいわ』って言ってくれたことがあったんだけど、うちは子ども二人なのよ! さすがにその時は招待を断らせてもらったわ」
度を超した「こだわり」と「節約」は、やっぱり良好な人間関係を築く上でネックになるようです。
写真=iStock.com/golero
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■銀婚式に出席しケータリングの食べ物を袋に入れて持ち帰る
エフィさんのいとこの話は特殊ではありません。別のドイツ人女性は、知人の銀婚式が行われたレストランで、「ケータリングの食べ物を袋に入れて持ち帰る人」を数名、目撃したとのことです。食べきれなかった料理を店員さんに包んでもらって持ち帰る人はたまに見かけるものの、私の印象だとそれほど多くはありません。特にお祝いの会では、あまりやらないことだと思います。彼女は笑いをこらえて言います。
「知り合いの男性もね、近所の乳製品工場(Molkerei)を手伝った関係で、ヨーグルトを大量にもらった後、3週間、ヨーグルトしか食べなかったの。理由は『タダだから』。全然お金に困っている人ではないんだけどね」
このヨーグルトの件のように、毎日の行動パターンが「タダだから」「安いから」が基準となってしまうと、これはもう節約というよりも「宗教」……いえ、「突き詰めた趣味」かもしれません。
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サンドラ・ヘフェリン(さんどら・へふぇりん)
著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など。新刊に『ドイツの女性はヒールを履かない〜無理しない、ストレスから自由になる生き方』(自由国民社)がある。
ホームページ「ハーフを考えよう!」
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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)