平均400円弱の商品で年間売上2兆円を叩き出すドンキは、数億円でも社長の決裁不要 想像を絶する「権限委譲」とは?

2025年4月11日(金)4時0分 JBpress

 型破り、というか、正直ちょっと変…35期連続増収増益という圧倒的成長力を誇る総合ディスカウント店「ドン・キホーテ(ドンキ)」。流通・小売業を代表する一大カンパニーへと飛躍した原動力は、「顧客最優先主義」と「権限委譲」という独特の企業風土にあった——。本稿では『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』(吉田直樹、森谷健史、宮永充晃著/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集。ドンキやパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)のキーパーソンの話を通じ、ユニークで大胆な経営やマーケティング手法の本質に迫る。

 ドンキの社長には「他社の社長のような権限はない」と言うPPIHの吉田直樹CEO。現場への「権限委譲」がいかにして会社の成長につながったのか、吉田氏の言葉を通して探る。


ドンキでは、管理はしない

 僕が入社してから、一番たくさん受けると言ってもいい質問が「あんなに大量の商品をどうやって管理しているんですか?」です。会う人、ほぼ全員に聞かれたかもしれません。正直言うと、一番困る質問でもあります。苦笑っぽい感じでしょうか。

 なぜかというと、「ドンキでは、管理はしない」というのがその答えだからです。

「管理」というのは、チェーンストア的な発想だと思います。しかし、僕たちドンキでは、何か本部とかエライ人が管理する…とかではなく、担当者が必死に棚を確保した商品ですから、各人が責任を持って在庫を管理する、従って、会社としては管理しない…というのが正解なんですね。

 大量の商品(小規模の店で5万アイテム、大規模な店で10万アイテムというイメージでしょうか)を少数の人が管理するチェーンストアを前提に質問を受けると、この答えはなかなか納得されないんじゃないかと思います。

 その代わり、当社では管理はしませんが、厳しい評価はあります。会計上の在庫の期限は1年と定められていますが、当社では、6カ月を超える在庫は「不稼働在庫」、そして、3カ月を超える在庫は「興味期限切れ」、という評価をされるので、管理はしなくても、売れなくてもいい、ということにはならない、ということです。


社長も知らない億単位の稟議書を前に…

 僕がドンキに入って驚かされたことは数えきれませんが、その中の一つがこうした「権限委譲」でした。その度合いが想像をはるかに超えていたのです。本書のストーリーであるPBのリブランディングプロジェクトで、こんなことがありました。

 あるとき、森谷健史(本書の共同執筆者)が稟議書を持って僕のところにやって来ました。ニヤニヤして(笑)。「はじめに」で、稟議のことについて書きましたが、当社に稟議がないわけではありません。ただ、権限が大胆に委譲されているため、年度の予算を決めると、それぞれの管掌の役員が全権を持って最終判断する仕組みになっています。

 例外として、社長の僕のところに来る稟議というのは、金額で言うとX億円以上とかいくつかのルールがあり、かなり数は限られているんです。

 森谷が持ってきた稟議書には、数億単位の金額が記されていました。それは俳優を起用するテレビCMを中心とする広告企画の稟議書でした。そういえば、予算会議でこういうの言ってたなあ。

「この人(コマーシャルに出演する俳優さん)、誰なの?」

「今、人気の若手俳優です(吉田さん以外はみんな知ってますよ)」

(そっか、有名なんだ、この人…)と心の中で自分の発言を後悔しながらも、金額の大きさと、テレビCMという当社っぽくない企画に対し、ここは社長として一言言っておこうと思い、「こんなにお金を使って大丈夫なの?」「そもそも、CM効果ってこの場合、どうやって数値化するの?」

 などと突っ込みを入れ始めました。すると、森谷は平然とこう言い放ったのです。

「吉田さん、別に決裁を取りに来たんじゃないんですよ。情報を共有しに来ただけです」

 稟議書を見ると、予算で承認されており、かつ確かに僕の決裁を必要としない結構ギリギリの金額になっていました。「うちっぽい話だな」と思いました。正直、笑っちゃったんですね、森谷に。うまいことやったよね、この金額で収めるなんて、と。

 こうした話を書いていいのかわからなかったのですが、こういうエピソードを書かないと当社をうまく説明できないんですね。


社長の仕事は「任せきる」リスクを取ること

 社長がしっかりしてないんじゃないか、とか、会社として大丈夫なのか?と言われるかもしれません。実際、ネットで、僕が会社で起きたあることについて「知らない」と投稿したところ、「社長が事情わからずって、ダメダメじゃん」「重大事項把握してない社長の会社とかヤバいw」とお叱りを受けたこともあります(実話です)。

「社長」といっても、当社の社長は、他社の社長のような権限はないんです!(笑) 大半の権限はすでに委譲されてますから! 社内中、社長の僕の知らないことだらけです。社長といえども、自分の足で、情報を取りに行かないとおいてきぼりにされます(笑)。ちょっとカッコよく言えば、ドンキの社長の仕事は、任せきってしまうというリスクを取れるかどうか、という仕事です。

 本音ベースで言えば、社長が全部を知っていちいち判断するというルールにして、判断が遅れたら、そっちのほうがはるかにリスクは高いというのが、当社の経営者のあるべき姿なんだとも思います。だいたい、そんなリスクは取れない…と思います。マーケティングの専門家でもないし、何より僕は、会長の大嫌いな(頭でっかちな)MBA(経営学修士)保有者ですから(笑)。


トップの声では動かないけど、「自分事」では動く社員

 ドンキの社員たちは、社長の僕が指示する前に勝手に動いているだけではありません。

 逆もまた真なり(笑)。

 僕が何か指示しても、簡単には動かないのです。こんなことがありました。

 ドンキは「majica(マジカ)カード」という会員カードを発行しています。しかし、カードではサービスの拡張性がなく、アプリに移行する必要がある。僕は経営会議で、マジカカードをアプリ版に移行しなければならないと、何度も訴えました。対外的にも「マジカのアプリ会員数を、現在の350万人から1000万人へと3倍にします!」と宣言していたので、正直、アプリ版に移行してくれないとヤバいと。

 ところが、トップの僕が何度話しても、幹部は誰も積極的に動いてくれませんでした、見事に(笑)。トップダウン型というのは、うちにはあまりなじまないんですね。

 それなのに、1000万人会員をつくる、という僕の考えに共感してくれたマジカアプリの担当者が、いろんな店に足を運んで現場とコミュニケーションを図っていったら、カードからアプリへの切り替えが一気に進みました。アプリ会員は、あっという間に1000万人の目標をクリアし、今では1500万人に達しています。

 社長の僕に言われても幹部も社員も動きませんが、現場が腹落ちしたらみんな徹底的に動いてくれる。それでいいの?と言う方がいるかもしれませんが、僕は、結果が全てだから、それでいいと思ってます。

 もちろん、社長が「これやってくれ」と言ったときに、スッとうまくいくこともたまにはあります。ただし、それは「現場の人たちが納得した場合」という鍵カッコ付きです。なぜなら、ドンキの現場は「自分事」で仕事をしているからです。指示をされたから動くのではありません。自分の心に火が付かないと誰も動かないのです。現場の人が最もお客さまのことをわかっています。

 僕は、安田会長がしょっちゅう社員や役員を説得しているのを見ました。当社の社員も役員も、小売業というサービス業にいますから、基本的にはフレンドリーな人材がほとんどですが、頑固です。安田会長の言葉でも、まず自分が納得したい、と思うわけです(当社用語では、それを「腹落ち」と呼びます)。

 そして、安田会長もそのプロセスをものすごく大切にする。だから、長時間、安田会長は言葉を尽くして、自分の考えを従業員や役員に説明することを大切にしてくれています。

 でも、こんな上司と部下の関係、普通の会社ではあり得ないでしょう。


平均400円の商品を売って売り上げ2兆円

 ドンキを中核とするPPIHは2024年6月期決算で、売上高が初めて2兆円を突破しました。また当社は時価総額も2兆円を超えており、これは日本企業のトップ100に入るくらいの規模です。

 この2兆円をつくっている商品の平均販売価格、いくらだと思いますか?

 実は1商品の平均販売価格は400円に届きません。ドンキは小さな商品を売る、文字通り「小売り」です。400円弱の商品の販売を毎日各店舗でコツコツ積み上げていって、1年間で2兆円になったのです。2兆円を400円で割ると、単純計算で50億個以上、商品を売らなければなりません。

 僕が自分の会社に誇りを持っているのは、まさにこの点です。店舗の最前線で働いている社員やアルバイトのみんなが知恵を絞って魅力的な商品を仕入れ、思わず買いたくなる買い場をつくっていることの証しなのです。

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筆者:吉田 直樹,森谷 健史,宮永 充晃

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