ヨボヨボ予備軍の40~50代が狙われている…和田秀樹「いつの間にか病人にされてしまう行ってはいけない場所」

2025年4月19日(土)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hikastock

健康的に老いるために気をつけるべきことは何か。高齢者専門の精神科医である和田秀樹さんは「健康診断や検査で老化現象にも病名がつけられてしまうと、不安の連鎖から人は薬を飲みつづけてしまう。しかし高齢者の方々に限って見れば、検査で病人にされた健康な人たちかもしれない」という——。

※本稿は、和田秀樹『患者の壁 [ベルトコンベア医療]には乗るな!』(エイチアンドアイ)の一部を再編集したものです。


■「法定健診」と「任意健診」に分けられる健康診断


日本の健康診断の目的とは何か。その法的な根拠はどこにあるのでしょうか。


「健康診断」は「健診」とも呼ばれ、体の健康状態を総合的に調べる検査のこと。病気の早期発見や予防を目的としています。健康な人が受ける診察や検査のことを指しています。


それに対して「検診」は、特定の病気の早期発見を目的として、集団で行なわれる検査のことです。「健診」と「検診」には厳密な違いがあります。


健診は就職や入学に際して、あるいは職場や学校で定期的に行なわれているので、誰もが経験しているはずです。血圧測定や身体計測から、血液検査、尿検査、心電図検査、胸部X線検査などが行なわれます。中高年になると、さらにがん検診などが入ってきます。


これらの健康診断は、法律で実施が義務付けられた「法定健診」と、個人が任意で受ける「任意健診」の二つに分けられます。


法定健診には、定期健康診断や雇用時健康診断などがあり、「労働安全衛生法」などにより、年1回以上の実施が義務付けられています。事業者(企業など)は労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない、と法律に定められています。労働者ではなく、経営者側に義務があるわけです。違反者には罰則も課せられます。


任意健診には、人間ドックやがん検診があり、任意なので自分の意思で受けるものです。


がん検診の対象となっているがんは、胃がん、子宮頸(けい)がん、肺がん、乳がん、大腸がんです。受けるかどうかは任意となっているので、健康診断の際は案内が配布されるだけです。


■「健診を受けなさい」を断われない日本人


また、幼稚園から大学までの学校には「学校保健安全法」があり、各学年で定期的に、児童・生徒・学生等の健康診断を行なわなければならない、と定められています。


高齢者には、「高齢者の医療の確保に関する法律」などがあります。「特定健康診断(メタボ健診)」は、メタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)の予防や早期発見を目的とし、「高齢者の医療の確保に関する法律」によって行なわれているものです。対象は公的医療保険に加入している40歳から74歳までの中高年や高齢者の方々。日本では法律により、すべての人が公的医療保険に加入しています。つまり、メタボ健診は中年以降の日本人ほとんどが対象ということになります。


職場などで行なわれてきた健康診断との違いは不明確で、なぜこのメタボ健診が行なわれているのかも、いまだ不明です。


写真=iStock.com/hikastock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hikastock

ほかにも、「健康増進法」「感染症法」など、健康診断に関する法律はさまざまです。先ほどのがん検診は、「健康増進法」に基づいて市町村が実施する健康増進事業です。厚生労働省が定める「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」に基づき行なわれています。


このように日本では、会社で「健康診断を受けなさい」と言われれば断われないような状況になっています。病院へ行って、医者から検査をすすめられれば受けるしかないのです。


■老化現象が出はじめる40〜50代は“金の成る木”


本来、健診や検査は患者さん自身が体調の悪いときや、病気になったのではないかと感じたときに本人が判断して受ければいいものです。毎年定期的に受ける健康診断は、実際に意味があるのでしょうか—— 。絶対に受けなければならないものなのか、疑っている方々も増えてきていると思います。


住民に受診義務があるわけではありませんが、自治体でも受診率が一定以上にならないと、組合や自治体に対するペナルティ、つまり補助金の減額が課せられるので、組合や自治体は受診を一生懸命呼びかける仕組みになっています。皆さんのご自宅に市町村から届く「がん検診」のお知らせハガキには、こういった背景があるのです。


日本の健康診断の対象者の中心は40〜50代の現役世代になっており、特に念入りに行なわれています。さまざまな老化現象が出はじめるこの年代は、医療業界から見ると“金(かね)の成る木”だからです。


保険医療であれば、私たちが病院や診療所の窓口で払う治療費はそれほど高いものではありません。私たちが払っているのは一般的には全医療費の約3割。残りの約7割は健康保険で賄(まかな)われます。この健康保険の主な財源は、事業主と私たちが納める健康保険料です。40〜50代では病人の割合は高齢者より少ないので黒字が見込めます。一方で、健康診断をすれば何らかの病気が見つかり、病人にしやすい世代でもあります。


写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■いつの間にか病人にされる中高年層


そのため、国は中高年にターゲットを絞っているかのようです。職場健診を義務化し、罰則を厳しくして健診受診者と検査の数を増やそうとしているかのようです。そうすることで、病人は増えます。検査をたくさん受けるほど「異常値」が出る人が増え、病人にされる確率が高まるからです。


また、中高年になって検査項目が増えていけば、新しく調べた検査データが「基準値」よりも少し外れただけで誰もが不安になります。病院で精密検査を受けて、金儲け主義の医者にかかると、必要以上の薬が処方されます。


中高年の皆さんはいつの間にか病名が付けられて病人にされ、薬を飲みつづけながら、いつまでも不安の連鎖から抜けられなくなるのです。


日本の医療業界には基準値を絶対視する「基準値至上主義」がはびこっていますから、臓器の機能や血液成分を検査して、そのデータが基準値から外れていると、患者さんが元気であっても、「基準値から外れる=異常値=病気」と見なします。


健康診断で判明した「異常値」を「基準値」に戻すために、薬は処方されます。その薬の副作用で患者さんの具合が悪くなったとしても、とにかく検査の異常値を基準値に戻すことが優先されます。これが今の医者の仕事になっているとも言えます。まるで、薬で異常値を基準値に収めることを使命にしているかのようです。


■病院の儲けがいいのは「がん検診」


しかし、この基準値自体が“あやふや”なのです。たとえば、「ある病気について大規模調査をしたら、こういう数値のグループがいちばん病気になりにくいことが判明した。だから、それに基づいて基準値を選定した」といった、納得のいく根拠がないのです。


健康診断を受けなければ、病気が見つかることなく自然治癒力でそのまま回復する人もいるでしょう。痛くなったり、体調が悪くなったりしたら病院に行けばいいのです。健康な人が、わざわざ根拠のあやふやな健康診断やメタボ健診を受ける必要はないのです。


健康診断や検査を受けることで、老化現象に対しても病名がつけられ、病人にされてしまいます。高血圧や糖尿病であれば、一生薬とのお付き合いが始まります。病院側からすれば、診察料や検査料が定期的に入ってくる仕組みです。


最も儲(もう)けがいいのは「がん検診」でしょう。がん検診自体はそれほどではありませんが、何か異常が見つかれば、より高度な検査が必要になります。内視鏡検査や組織検査、CTやMRI、PETなどの検査をすれば、高額な診療報酬の請求が可能になります。


写真=iStock.com/DarioGaona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DarioGaona

■がんと診断される年間約100万の人々


また、がんと診断されれば、標準治療の「手術」「抗がん剤」「放射線治療」から、高額な自由診療まで、さまざまなメニューがあります。長期の治療ともなれば、入院や投薬、リハビリなどで医療収入は大幅にアップしますし、治療後にも経過観察として通院してもらい、その都度血液検査やCTによる検査をすれば、安定収入源になるわけです。



和田秀樹『患者の壁 [ベルトコンベア医療]には乗るな!』(エイチアンドアイ)

2022年段階で、年間約100万人もの人たちが新たにがんと診断され、約43万人ががんで死亡したと推測されています。2035〜39年の将来推計では、年間の平均罹患(りかん)数が男性64万人、女性53万人と予測されています。今後もがんは増えていきます。


新規がん患者のほとんどは、がん検診や人間ドックなどでがんが発見された人たちでしょうし、治療に通院している患者さんを含めれば、数百万人に膨(ふく)らむことでしょう。


しかし、高齢者の方々に限って見れば、検査で病人にされた健康な人たちかもしれないのです。医者や専門家たちが、治療の必要のないがんに対しても手術や抗がん剤をすすめている可能性があります。


----------
和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
----------


(精神科医 和田 秀樹)

プレジデント社

「健康」をもっと詳しく

「健康」のニュース

「健康」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ