都心に手が出ない人はどこに住めばいいか…エコノミストが推す「空き家900万戸超時代に勝てる町」の名前

2025年4月19日(土)8時15分 プレジデント社

出典=総務省「令和5年住宅・土地統計調査」

公示地価が示す不動産のトレンドとは何か。エコノミストの崔真淑さんは「どこに住むかは、どう生きるかと同じ意味を持っている。だからこそ、人口の動きと地価のトレンドから未来を選ぶ目を養える」という——。

■公示地価は4年連続の上昇傾向


2025年の公示地価が3月19日に発表されました。何よりも注目すべきは、4年連続でこの指標が上昇したことです。


公示地価とは、簡単に言えば「国が定めた“土地の参考価格”」のこと。毎年1回、国土交通省が全国の標準的な土地の価格を調べて公表している数値で、不動産の売買や相続、税金の算定などの基準として使われています。地域ごとの景気や都市の成長、人口動態の変化などを読み解く重要な指標でもあり、いわば「地価のトレンドを知るバロメーター」として、ニュースや投資家、不動産業界からも常に注目されている価格です。


今年の公示地価は全国平均で前年比2.7%の上昇となり、バブル崩壊後では最も高い伸び率になりました。報道によれば、東京・阪神・名古屋といった主要都市圏では平均4.3%の伸びを示し、特に都心部では住宅地で2.1%、商業地で3.9%、工業地で4.8%と、力強い上昇を見せました。


さらに、札幌・仙台・広島・福岡といった地方中核都市では5.8%の伸びとなり、調査対象地の約6割でコロナ禍前の水準を上回りました。交通の利便性や再開発、そしてインバウンド需要の高まりといった背景が、これらの伸び率を導いたといえるでしょう。


■20年間で1.4倍に膨らんだ全国の空き家数


一方、中核以外の地方では事情が異なります。少子高齢化による需要減少に加え、空き家の増加が供給過多を招き、地価の上昇率は限定的、あるいは下落を見せています。


総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は2003年の659万戸から、2023年の900万戸に増加。この20年間で約1.4倍に膨らんでいる状況です(*1)。


出典=総務省「令和5年住宅・土地統計調査

実際、地方都市でも地域ごとの差は大きく、成長の持続性は不透明です。この地域格差は、経済活動、人口動態、都市計画などの違いから生じていて、今後の不動産市場が二極化していくことを示しています。投資や人口流入が地価の上昇を支えている都市部に対し、地方は住民や土地のニーズ、すなわち“需要の確保”自体が難しくなっていくということです。


*1 総務省「令和5年住宅・土地統計調査


■上昇を維持する超都心3Aエリアの平均地価


ところで地価が上昇しているエリアには、3つのポイントがあります。「都心」であること、「インバウンド需要が高い」こと、そして「根強いブランド力がある」という特徴です。


まずは「都心」のなかでも「超都心」から見てみましょう。東京の麻布・青山・赤坂(通称「3Aエリア」)は、以前と変わらず高い地価を維持しています。この区域である港区の平均地価は「487万6790円/平方メートル(坪単価1612万1620円)」で、前年から11.59%上昇しています(*2)。


3Aエリアに属する地域では、北青山が「2900万円/平方メートル(坪単価9586万円)」、赤坂が「511万円/平方メートル(坪単価1689万円)」、麻布台が「420万円/平方メートル(坪単価1388万円)」となっています。いわば、都心の一等地でありながら低層住宅街も多く、新たに供給できる土地が限られているため希少性も非常に高い。そのため少子高齢化社会でも価格上昇を維持しています。


地方都市でも先述の通り、札幌、仙台、広島、福岡などが好調です。特に福岡は、外国人観光客の増加や地価の相対的な安さを背景に、アジアからのスタートアップ企業も集まる注目エリアになりました。名古屋のように、大企業が本社を構える産業都市も強く、周辺の子育て政策が手厚いエリアは特に人気です。


■「新陳代謝」と「女性」が地価上昇のキーワード


インバウンドの観点からは、京都市内や山科、札幌、小樽、富良野などが注目されています。京都ではマンション建設の規制があるため供給が限られますが、一棟あたりの価格が上昇傾向にあります。ただし、京都や北海道全体がおしなべて上がっているわけではなく、やはり地域差は見られます。


そしてブランド力のある場所は常に健在です。軽井沢や富良野、神戸など、昔ながらの別荘地や、一定の価値を常に維持してきた地方都市は、安定した人気を保っています。たとえば軽井沢の平均地価は「10万1116円/平方メートル(坪単価33万4269円)」。前年比10.52%の伸びとなり、特に軽井沢駅周辺では最高価格地点が34万円/平方メートルに達し、過去最高値を記録しています(*3)。


駅周辺の地価が過去最高値を記録した軽井沢(写真=くろふね/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

ここで注目したいのは、これらの背景に浮かび上がってくる2つのキーワードです。それは、「新陳代謝」と「女性」。「新陳代謝」がある地域とは、住民の出入りが活発で、若い世代やファミリー層が継続的に流入する地域のことです。年配の住民が高齢になっても、新たに子育て世代が入り、平均年齢が下がる。結果として税収も増え、インフラの維持もしやすくなります。


三世代で住み続けられる町も、まさに新陳代謝のある地域といえるでしょう。「うちは三世代、青山です」というような方も珍しくなく、青山はまさに“住みながら勝てる町”の典型です。


*2 港区の土地価格相場・公示地価・基準地価マップ・坪単価(東京都、2025年[令和7年])
*3 軽井沢駅の公示地価・基準地価・土地価格相場・坪単価(長野県北佐久郡軽井沢町、2025年[令和7年])


■若い女性がいないと若い男性も来ない


そして最も注目したいのが、「女性」というキーワードです。人口の流出入が活発であることに加え、その地域に若い女性が暮らしているかどうかも、非常に重要なポイントになります。


日本経済新聞の調査「ふるさとクリック 地図で見る15〜29歳の女性割合〈2022年〉」によると、15〜29歳の女性比率は東京都49.9%、大阪府50.2%、福岡県50.4%。つまり、女性が地方から都会へ流出している傾向が示されています(*4)。


さらに、ニッセイ基礎研究所の調査では、2022年の東京都は「男性の1.6倍の女性増」、しかも男女減少格差が27倍のエリアが存在することも指摘されています。そのうえ転出超過が起きている36エリアのうち83%が、男性減より女性減が多いとも報告されているのです(*5)。


都会は人が多すぎる反面、ジェンダー差別が少なく、女性にとって暮らしやすい。だからこそ若い女性が集まり、その結果、男性も集まり、地域としての活気が生まれています。


地方創生においてカギを握っているのは、やはり女性の存在だった——。そう考える自治体も増えてきました。実際、兵庫県豊岡市は、2018年に自治体で初めて「ジェンダーギャップ解消」を掲げて注目を集めました。若い女性が静かに減っていく状況を、豊岡市の市長は「女性達の静かな反乱」と表現しています(*6)。


しかし、まだまだ多くの中小企業は気づいていません。


若い女性がいない町には、若い男性も来ない。魅力度の低い地域は、概して男性比率が高いのが現実です。いま人気の地方都市も、女性政策を軽視すれば、その魅力は長続きしないといえるかもしれません。


*4 日本経済新聞「ふるさとクリック 地図で見る15〜29歳の女性割合
*5 ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー・天野 馨南子「東京一極集中、女性主導で復活へ−2022年・東京都は男性の1.6倍の女性増、男女減少格差27倍のエリアも
*6 NHKクローズアップ現代「ジェンダーギャップを町ぐるみで解消・試練の先に


■東京の国分寺は住みやすく価値ある町


では、総じて住みやすく今後の資産価値も見込めるのは、どのような町でしょうか。


ポイントは、地価がじわじわ上がっている一方で、過熱感はなく、若者やファミリー層、女性の流入が続いている地域。さらには犯罪率が低く、子育て支援が手厚いことも大切です。


東京でいえば、国分寺市を推したいと私は思います。他にも三鷹市、狛江市、千葉県の栄町なども注目すべき地域です。


逆に避けたほうが望ましいのは、この局面で地価が下がっている場所です。若い人、ファミリー層、女性が背を向けているエリアは、今後の成長も見込みづらいでしょう。


国分寺市の公示地価の動きを見てみましょう。


2025年の平均地価は「44万円/平方メートル(坪単価147万円)」で、前年比5.3%の伸び率を記録しています。最高価格地点は国分寺駅から130mの商業地で、「185万円/平方メートル(坪単価612万円)」となり、10.1%の上昇です。新宿まで約20分という利便性に加え、国分寺駅周辺の再開発により、資産価値がさらに高まっていくと思われます。


2025年に開庁した国分寺市新市役所庁舎(写真=Nishifutsu/CC-Zero/Wikimedia Commons

私は「どこに住むか」は、「どう生きるか」と同じだと考えています。だからこそ、人口の動きと地価のトレンドから、未来を選ぶ目を養いたい。そしていま、街に蓄積される人の流れ、ブランド力、暮らしやすさといった“無形資産”の余白こそが、地価を左右する。そんな時代が来ているのではないでしょうか。


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崔 真淑(さい・ますみ)
エコノミスト
2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。
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(エコノミスト 崔 真淑 構成=池田純子)

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