こんなマンションは絶対買ってはいけない…駅近で住環境が良くても"実はヤバい"中古物件の見抜き方
2025年4月20日(日)16時15分 プレジデント社
秀和幡ヶ谷レジデンス、東京都渋谷区 - 写真提供=毎日新聞出版
写真提供=毎日新聞出版
秀和幡ヶ谷レジデンス、東京都渋谷区 - 写真提供=毎日新聞出版
■渋谷区のヴィンテージマンションの価値が下落した理由
東京・渋谷区の秀和幡ヶ谷レジデンスは、かつては管理組合の理事会の独裁を揶揄して「渋谷の北朝鮮」とも呼ばれた物件です。大量の謎ルールや不透明な独裁体制を強いる理事会が一因で、住民の暮らしは阻害され、資産価値も大幅に下落。こうした状況は、有志の住民たちが4年間の苦闘の末にマンション自治を取り戻すまで続きました。
理事会の横暴ともとれる言動や住民たちの勝利の要因などは、前回の記事で紹介しました。こうしたトラブルは、建物の老朽化や住民の高齢化が進んでいるマンションならどこでも起きる可能性を秘めています。
近年、東京23区では新築マンションの平均価格は1億円を超えています。なかなか手が届く金額ではないですよね。そのため、マイホームの購入に当たっては中古マンションを検討する人も多いでしょう。その際、“やばい物件”をつかまないためにはどうすればいいのか。
■売り値を相場の30〜40%にしてもまったく買い手がつかなかった
私が秀和幡ヶ谷レジデンスの取材を通して学んだのは、「不当に安い物件には何かある可能性が高い」ということです。マンション価格の高騰を受け、もう都心では、アクセスも住環境もいい激安物件なんてほぼ存在しないと言っていい。そんな状況なのに相場より大幅に安かったら、何らかのマイナス要因があると疑うくらいでよいかもしれません。
実際、秀和幡ヶ谷レジデンスも、住民たちが政権交代を果たすまでは周辺の相場より格段に安く売り出されていました。現在は3000万円以上ですが、私が見たときには1000万円台のときも……。ある不動産会社の経営者は買い手がつかないため懇願されてやむなく購入しましたが、転売しようにも、売り値を相場の30〜40%に設定してもまったく買い手がつかなかったそうです。「理事会の存在を伝えると買い手がスーッと引いていってしまう」とも話していました。
相場よりも安いと思ったら、まずはマンション口コミサイトなどで事前に評判を調べてみることをおすすめします。ネット上の大きい掲示板は、都心部のマンションはだいたい網羅しています。口コミなのですべてが正しいとは限りませんが、「住みにくさを感じる」「こんなルールがある」といった情報は参考にできる部分もあるでしょう。
■管理組合が独裁体制、ネットでは「渋谷の北朝鮮」と呼ばれる
私が秀和幡ヶ谷レジデンスの取材を始めたとき、最初に行ったのはマンション名でネット検索することでした。すると、関連ワードに「やばい」「北朝鮮」「理事長」などの言葉が表示された上、付近の相場よりずいぶん安く、不動産サイトにも辛辣(しんらつ)な口コミがたくさん書き込まれていました。専門家でもない私ですら、「ヴィンテージマンションで知られる秀和レジデンスの中でも、幡ヶ谷には何かあるのでは」と違和感を持つ要因となりました。
次におすすめしたいのは、不動産のプロに聞くことです。やはり餅は餅屋ですから、マンション探しで相談している不動産屋があれば、なぜあんなに安いのか、何か問題があるのか、単刀直入に聞いてみてください。
何か知っていれば「管理人さんが面倒くさい人で」「管理体制がおかしくて」など背景を教えてくれるでしょう。
理由があるから安いのか、それともめったに出ない掘り出し物なのか。そこを見極めるには、不動産屋とのコミュニケーションを怠らないことが大事かなとは思います。
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg
■不動産屋に情報を聞く、管理費・修繕積立金もチェック
加えて、管理費や修繕積立金が不自然に安くないかどうかも確認したほうがいいでしょう。この二つは月々出ていくお金なので安いにこしたことはないと思いがちですが、あまりに安すぎる場合は「何かある」こともあります。
仮に“安すぎる”場合、三つほどの理由が考えられます。築浅だからまだそれほど管理や修繕に備えなくていいか、戸数が多いから1世帯当たりの金額が安く済んでいるか、管理を真面目にやっていないかです。
最悪なのは最後のパターンです。管理会社がいい加減か、もしくは管理組合の自主管理になっている可能性が出てくる。前者は建物の劣化や資産価値の下落に直結しますし、後者は秀和幡ヶ谷レジデンスのケースそのものです。
■マンション管理が住民による自主管理になっているのはリスキー
いずれも、地方のリゾートマンションではすでに散見され、『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』で取り上げた千葉県白子町のマンションもそうでした。
ここの理事長は、秀和幡ヶ谷レジデンスの理事長と同じ人物です。私が現地へ行くと、建物はあちこちで劣化が進んでおり、明らかに管理が行き届いていない様子でした。調べるとマンションは1984年に竣工し、1991年に前出の人物が理事長に就任したのち、2004年には外部の管理会社への委託をやめて自主管理に移行しています。
住まいとして利用している住民が少ないこともあって、区分所有者が不具合に気づいたのはずいぶん後になってからでした。その後、このマンションでも管理組合と所有者たちの闘争が繰り広げられています。
リゾートマンションは別荘として利用する人が多い分、管理を真面目にやっていなくてもバレにくい。だから管理組合による自主管理が進んでしまったわけですが、今後は都心部でも同じケースが増えてくるのでは、と思います。建物の老朽化や住民の高齢化が進んでいくと、「管理会社にお金を払うのがもったいないし、自分たちで管理しちゃおうか」という結論になってもなんら不思議ではない。
取材を通して、私は「自主管理はハイリスク」と感じた面もあります。委任状を盾に理事会が好き勝手できてしまうため、トラブルを誘発する可能性が高まります。秀和幡ヶ谷レジデンスも、形式上は管理会社を置いていたものの、途中から管理組合の自主管理に移行しています。これが、のちに住民闘争を引き起こす大きなターニングポイントになりました。
写真提供=毎日新聞出版
秀和幡ヶ谷レジデンス、東京都渋谷区 - 写真提供=毎日新聞出版
■建物が老朽化し住民が高齢化し、管理がずさんになる
多くのマンションは、管理全般をマンション管理専門の会社に委託しています。仮に委託先がコンプライアンス意識が低く、不真面目な会社の場合、そのうち価値の下落や理事会の独裁へとつながるリスクも生じる。
こうした点を見極めるには、住んでいる住民に聞くのが手っ取り早いです。実際、管理組合と闘った秀和幡ヶ谷レジデンスの人々は白子のマンションの件を知って住民に会いに行き、そこで得た情報が武器の一つになりました。手間がかかる方法ではありますが、マンションは大きな買い物ですから、できれば住民にも聞いたほうがいいと思います。
一方、購入して実際に住んでからリスクやトラブルに気づいてしまった場合はどうすればいいのでしょうか。
■住民運動の顧問弁護士「トラブっていたら売ってしまうほうが早い」
マンション管理に詳しく、秀和幡ヶ谷レジデンスの闘争で住民側の顧問弁護士を務めた専門家は、「売ってしまうほうが早い」と話していました。私もまったく同じ考えです。
暮らしていてストレスを感じるのなら、その大元を何とかしようとするより売ってしまったほうが断然早い。秀和幡ヶ谷レジデンスほど問題がこじれていなくて、少し管理組合と揉めているぐらいのレベルだったら、売ってしまう方が楽でしょうね。
もう一つの解決策としては、自分が理事長や理事になるという手もあります。自ら内部に入って、おかしなルールや不透明な部分を中から変えていく。熱意さえあれば、これはとても有効な手になります。
実は私も今、中古マンションの購入を検討しているところです。
購入に当たっては、売りやすいこと、次に管理会社がしっかりしている点を重視します。その意味では、大手の管理会社が入っているマンションを選びたい。大手ならコンプライアンス意識が比較的高く、トラブルに至るリスクが軽減されるからです。
■マンション管理のトラブルは解決するのが難しい
秀和幡ヶ谷レジデンスでは、最終的には住民側が総会で過半数の委任状を獲得したことで勝利し、理事長や理事を交代させることに成功しました。謎ルールも撤廃されて住みやすくなったことから、売り値も周辺の相場と差異のない価格に戻っています。
栗田シメイ『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(毎日新聞出版)
しかし、いまだに管理業務の引き継ぎなどの問題は残っており、完全な解決には至っていません。マンション管理に関するトラブルはそれほど解決が難しいのです。
住民が管理組合と闘うことは非常にハードルが高く、勝利したケースはかなり少ない。秀和幡ヶ谷レジデンスの場合は、住民の熱量や知識量、専門家との出会いなどさまざまな要因が重なって奇跡的に解決に向かいましたが、その過程には大変な苦労が伴いました。
中古マンションを購入するなら、トラブルなく安心して暮らせるところを選びたいもの。そのためにも、購入前にできる限りの手を尽くして、リスクの有無をしっかり見極めることが大事だと思います。
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栗田 シメイ(くりた・しめい)
ノンフィクションライター
1987年、兵庫県生まれ。広告代理店勤務、ノンフィクション作家への師事、週刊誌記者などを経てフリーランスに。南米・欧州・アジア・中東など世界40カ国以上でスポーツや政治、経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。
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(ノンフィクションライター 栗田 シメイ 構成=辻村 洋子)