35期連続で増収増益、過去最高益をたたき出すヤオコーの売上高営業利益率は、なぜ業界平均より高いのか?
2025年4月14日(月)4時0分 JBpress
ビジネスや投資に欠かせない「会計指標」。うまく使いこなすことができれば、決算書からビジネスの成果や課題が見えてくる。本稿では『見るだけでKPIの構造から使い方までわかる 会計指標の比較図鑑』(矢部謙介著/日本実業出版社)から内容の一部を抜粋・再編集。実在する会社の決算書を比較しながら、会計指標とビジネスの結びつきをさまざまな視点で分析する。
関東を中心に展開する食品スーパー大手ヤオコーは、なぜ高い収益性を実現できるのか。B/S(貸借対照表)やP/L(損益計算書)を元に、同社の戦略を読み解く。
B/SとP/Lを組み合わせて分析する
「まったく違う」業務スーパーとヤオコーの儲け方
ここでは、これまでに取り上げたB/SとP/Lを組み合わせて、食品スーパーの決算書を読み解いてみましょう。
コロナ禍の巣ごもり特需で業績好調だった食品スーパー業界ですが、その後の反動減を経て再び業績が回復してきました。
人件費や電気代などの光熱費や商品の原価が高騰している一方で、商品販売価格の値上げの影響もあって客単価が増加していることも好業績に寄与しているといわれます。
消費者の節約志向が強まっている中での値上げには、買い控えを招くリスクがあるものの、2023年度の決算においてはプラスに働いた格好です。
ここでは、そうした食品スーパー業界から、2023年度決算で最高益を更新した大手の神戸物産とヤオコーの決算書を取り上げます。
神戸物産(兵庫県加古川市)は、業務用食品などの販売を手掛ける「業務スーパー」を主力業態として展開しています。神戸物産の2023年10月期連結決算では、売上高が4620億円、営業利益が310億円で前期比増収増益となり、それぞれ過去最高を記録しました。
ヤオコーは、埼玉県川越市に本社を置き、関東地方で食品スーパー「ヤオコーマーケットプレイス」を展開しています。ヤオコーの2024年3月期連結決算は、売上高(営業収入を含む)が6200億円、営業利益が290億円で、こちらも前期比で増収増益です。それだけでなく、ヤオコー単体としては35期連続での増収増益となり、売上高、営業利益ともに過去最高を更新しています。
主に食品スーパー事業を手掛ける両社ですが、じつはそのビジネスモデルは大きく異なります。ここでは、それぞれの決算書から両社のビジネスモデルの違いについて読み解いていくことにしましょう。
■ ヤオコーの収益性が高い理由
下図は、ヤオコーにおける2024年3月期の決算書を比例縮尺図に図解したものです。
まずは左側のB/Sから見ていきましょう。B/Sの左側(資産サイド)で最大の金額を占めているのは、有形固定資産(2050億円)です。ここには、ヤオコーが展開している店舗の建物や土地が計上されています。
次いで大きいのは、流動資産(860億円)です。ここには、現預金が480億円計上されているほか、棚卸資産(商品及び製品、原材料及び貯蔵品)が110億円計上されています。なお、売掛金も110億円計上されていますが、これはキャッシュレス決済に伴うものだと推測されます。
B/Sの右側(負債・純資産サイド)には、流動負債が830億円、固定負債が920億円計上されており、有利子負債(社債、借入金およびリース負債)が流動負債に80億円、固定負債に700億円含まれています。純資産は1680億円で、自己資本比率(=純資産÷総資本)は49%となっています。
続いて、P/Lについて見ていきましょう。売上高(営業収入を含む)が6200億円であるのに対し、売上原価は4470億円(原価率は72%)、販管費は1430億円(販管費率は23%)です。その結果、営業利益は290億円計上されており、売上高営業利益率(=営業利益÷売上高)は5%という水準です。スーパーマーケットにおける売上高営業利益率の平均値が3%前後であることを踏まえると、ヤオコーの収益性は業界の中でも高くなっています。
ヤオコーでは、消費者の節約志向に対応するために価格訴求が求められる商品の低価格対応を強める一方で、惣菜やこだわり商品などの付加価値の高いカテゴリーにも注力して利幅を確保する「二極化対応」の商品戦略をとっています。こうした戦略が高い収益性に結びついているといえます。
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筆者:矢部 謙介