「ナッツを愛しすぎた担当者が独断と偏見で決めた」超長文のパッケージでヒットを生むドンキ秘伝の「How3カ条」とは
2025年4月18日(金)4時0分 JBpress
型破り、というか、正直ちょっと変…35期連続増収増益という圧倒的成長力を誇る総合ディスカウント店「ドン・キホーテ(ドンキ)」。流通・小売業を代表する一大カンパニーへと飛躍した原動力は、「顧客最優先主義」と「権限委譲」という独特の企業風土にあった——。本稿では『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』(吉田直樹、森谷健史、宮永充晃著/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集。ドンキやパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)のキーパーソンの話を通じ、ユニークで大胆な経営やマーケティングの手法の本質に迫る。
顧客の心を揺さぶるパッケージの秘密とは? 大人気のプライベートブランド(PB)商品のリニューアルの舞台裏を明かす。
パッケージの命運を握る「商品ニュース会議」
パッケージの文言を決めるために、宮永さんと始めたのが「商品ニュース会議」です。ドンキには商品の仕様や数量を決める「商品起案会議」がありますが、これとは完全に別です。
商品ニュース会議では、パッケージに書かれている長過ぎる「ニュース」文言だけしか議論しません。情熱価格のリニューアル当初は1〜2週間に1回程度開いていましたが、今は商品起案会議の前後に開いています。
まずは商品ニュース会議用のフォーマットを宮永さんと一緒につくりました。そこには「この商品の何が、どのお客さまの気持ちを動かすのか?」を起点に、読みたくなる情報を書かなくてはいけないというルールにしました。
そのためには、お客さまのニーズを発掘しなければなりません。開発者は、自分の直感に加えて、SNSに転がっているユーザーの感想や実際に人気の商品群などから、ニーズの仮説を立てます。
例えば「20代のキャンプ好き」といったターゲットを設定したとします。それに対して、今、開発中の商品のどこをニュースとして押し出すのか。ターゲットニーズを満たす商品特徴を、生産委託先の工場と相談した上でフォーマットに記入し、商品ニュース会議に臨みます。
「How3カ条」で顧客への刺さり具合をチェック
商品のセールスポイントを、どう顧客に伝えるかについてまとめたのが「How3カ条」です。これは(1)顧客のメリットを表現できているか、(2)アイキャッチ力があるか、(3)ストーリーに納得感があるか、の3つによって構成されています。
年間14億円を売り上げ、今なお売り上げを伸ばし続けている大ヒット商品「素煎りミックスナッツDX」を例に、「How3カ条」を解説しましょう。
(1)顧客のメリットを表現できているか
「アーモンド・カシューナッツ・くるみの黄金の究極比率」の言葉で、それぞれのナッツがベストなバランスで配合されていることを、「食塩・油を使わないこだわり」の言葉で体に良いことを、「10億円」という明確な年間売上金額を入れることで、多くのお客さまに支持されているという安心感を表現しています。
(2)アイキャッチ力があるか
「10億円突破」「独断と偏見」「黄金の究極比率」というインパクトのある言葉を大きな赤字にしました。お客さまが最も欲しい情報を、大きくシンプルに表現するためです。お客さまがベネフィットを感じることを大きな文字にして、ふわっとした表現や商品名はどんどん端に寄せていきました。普通はあり得ないかもしれませんが、極端に言えば、商品名はどうでもいいんです。
(3)ストーリーに納得感があるか
「年間売上10億円突破」「ナッツを愛しすぎた担当者が独断と偏見で決めた」というように、商品の開発秘話や裏話を載せ、お客さまに「買う理由」を先回りして提供します。
「素煎りミックスナッツDX」は以前から人気商品でしたが、パッケージをリニューアルしてから、さらに売れ行きが伸びました。
他にも商品ニュース会議からは、「ヤバ旨」「軽っっっっう」「理性を食欲に変えてしまう」「鼻から抜ける異常なまでのガーリックの存在感」といったHow3カ条に沿ったフレーズが飛び出しています。
このHow3カ条と、次の第5章で説明する「What3カ条」を合わせた6カ条こそが、いわばドンキ流「秘伝のタレ」。PBでヒット商品を生み出す源泉なのです。
担当者の常識はお客さまの非常識
商品ニュース会議では「驚きのインパクトは強いのか?」「本当にお客さまを驚かせることができるニュースなのか?」といったことを、商品スペックを含めてとことん議論します。お客さまが「おー、すごいじゃん!」と驚くポイントを起点にして、ニュースの文言を考えていきます。
驚きのスペックをお客さまに伝えるために、どういうニュースの文言にすべきか。プロである博報堂のコピーライターを交えて、コトバを磨き合っていきます。会議では、毎回10人くらいの商品開発担当者の案件を検討しますが、他の商品カテゴリーの担当者も参加して議論するのが特徴です。
自分の担当外の、いろんな商品カテゴリーの担当者が集まって、お客さまの立場になって議論していると新たな発想が生まれます。
「僕らにとってはそれって普通だけど、お客さまからしたら驚くような内容じゃないの?」
そんなニュースについて、一つ一つ深掘りしていきます。
例えば、食品の開発担当者から「この商品って、千葉や茨城の港のサバなんですよ」という説明があったときのこと。
「それって何がすごいんですか?」
「この時期に千葉や茨城の港で水揚げされたサバって、こういう理由で脂が乗っていておいしいんです」
「それ、何でパッケージに大きく書かないの?」
「業界では常識です」
「そんなことないでしょ。知ってる人いる? ここに誰もいないじゃん」
こうした話し合いの末に、このサバが千葉や茨城の港(千葉県銚子港・茨城県波崎港)で水揚げされたことを、きちんとパッケージに書こうという話になるんです。開発者ですら気が付かないところにニュースが隠れていることが、多々あります。
もう一つ例を出しましょう。「とろけるミックスチーズ」という商品があります。当初は「何キログラム入っています」とグラム表記していましたが、それでは初めて買うお客さまは多いのか少ないのかわからないですよね。
そこで「ピザトーストに換算すればたくさん入っていることがわかりやすい」という話になり、ピザトースト1枚当たりチーズを何グラム使うかを調べて、1キログラム入りの商品の表現を「ピザトースト50枚分!」に変えました。
商品ニュース会議を通して、お客さまが見たときに、商品の価値が瞬時にわかる表現に変えるという作業を続けていきます。
「売れる商品には、何かしら心を揺さぶる要素があるよね」
これが私たちの基本スタンスです。突き詰めていくと、どんな商品にも驚くようなニュースが隠れているに違いない。それを探さないのは、開発者の努力不足であり、議論が足りていないのではないか。そう考えて、徹底的にニュースを掘り起こしていきます。
「安いから売れるのではなくて、安いだけではない何かしらの理由があるでしょ?」ということをまず徹底的に追求していくのです。
それでも本当になかったらどうするか? 情熱価格のラインアップには加えません。
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筆者:吉田 直樹,森谷 健史,宮永 充晃