利益度外視で超リアルなオブジェを制作…沖縄のドンキが「ドンペン」よりもプッシュする“ある動物”

2025年5月9日(金)7時10分 文春オンライン

 手書きPOPに所狭しと豊富な商品が並ぶジャングルのような店内。店舗によって異なるユニークすぎる外観——「ドンキ」の愛称で親しまれ、今や「国民的ディスカウントストア」とも呼べるドン・キホーテ。そのド派手かつ人を楽しませる店舗デザインはどのようにして生まれているのか。『 ドンキ式デザイン思考 セオリー「ド」外視の人を引き寄せる仕掛け 』(二宮仁美著、イースト・プレス)から一部抜粋し、お届けする。(全3回の1回目/ 2回目を読む / 3回目を読む )



個性的すぎる「ドンキのデザイン」に迫る ©Nobuyuki_Yoshikawa/イメージマート


◆◆◆


沖縄初出店で「絶対に避けたかったこと」


 浅草店と同様に、色濃く「地域性」を意識してデザインしたのは「MEGAドン・キホーテ宜野湾店」です。2012年の初出店時以前には、沖縄への出店実績がなく、宜野湾店が、沖縄への“初上陸〞を飾る旗揚げ店だったからです。


 とりわけ避けたかったのは「本土から、自分たちの知らない企業が乗り込んできた」と受け取られ、ネガティブな印象を持たれてしまうシナリオでした。


 店舗を作るからには、ずっと親しまれ、愛されるお店にしたい。そういう強い願いがあったからこそ、私にとっては絶対に成功させたい案件でもありました。


 この時も、自分が沖縄に住んでいる方々になったつもりで「主語の転換」を試みました。そして、「どんなお店だったら、長く通いたくなるだろう?」という視点で、徹底的に考え抜きました。


 そこで出した一つの結論が、沖縄の方々になじみ深い建材、オブジェ、モチーフをふんだんに取り入れることでした。外観には、沖縄の琉球赤瓦を取り入れ、屋根の部分には一対のシーサーを据えました。


シーサーだけではなく「ガジュマルの樹」も


 シーサーの選定の際には、窯元へお邪魔して、サイズや表情を実際によく見て、外観に合うものを探しました。サッシの枠のカラーには通常のドンキ店舗で使われる赤色ではなく、首里城の赤に近い朱赤を使用。沖縄には、ドンキのことをよく知らない方もいると考え、限られた看板面積の中で、店名を覚えていただくことに専念しようと、ドンペンは前面に出さずに店名ロゴだけのサインに絞りました。 


 さらに、店内には、長寿や幸福を運ぶ樹として、古くから沖縄の方々に愛され続けている「ガジュマルの樹」をFRP(繊維強化プラスチック)で作りました。そして、樹の下には、休憩スペースも作りました。


 現場のトップである当時の沖縄エリアの支社長には「買い場が広いからお客さまが迷子になってしまうのではないか? 店内の中央に大きな目印を作ることで自分がどこにいるかが、わかりやすくなるのでは?」という要望をもらいました。話を進めていくうちに、「ガジュマルの樹を作ってほしい!」ということになりました。


 そこで、そのアイデアを具現化する意匠として、ガジュマルの樹をモチーフにすることを提案しました。造形にあたっては、隆々と四方八方に枝葉を広げ、生命感あふれる姿になるように作り込みました。


 このように、随所に沖縄の地域性が感じられる意匠をふんだんに盛り込んだ結果、オープン直後も歓迎ムードの中、順調なスタートを切ることができました。


重さ2トンで「超リアル」! 等身大の「牛」がいる店舗


 また、沖縄にある「MEGAドン・キホーテうるま店」には、沖縄、特にうるま市で盛んな伝統の「闘牛」からインスピレーションを受けて、牛のオブジェを作りました。


 うるま市の文化を知るために闘牛大会を見に行ったのですが、ガツン! とぶつかり合って闘うド迫力の牛同士の真剣勝負はまるで格闘技のようで、学生時代に空手をやっていた私はすっかりその魅力にハマってしまったのです。大会には何度も足を運ぶくらい闘牛のファンになりました。そこで「店内に牛も置こう!」という話になり、FRP(繊維強化プラスチック)で等身大サイズの2トンもある牛を作るに至ったのです。


 牛の像を製造する時には、牛舎にお邪魔して、牛を間近で見て、触らせてもらいました。そして、瞳の大きさや筋肉のつき方などもじっくりと観察しました。毛皮は、実物を使うことで、極限までリアリティを追求しました。


 半分、遊びのようなノリにも感じられるかもしれませんが、私たちは至って真剣です。直接的に利益を生むわけではない造形物を作ることを許可する支社長も、店作りを真剣に、かつ楽しんでいる方だなと思いました。一番大変だったのは、サインパートナーさん(看板工事の協力会社さん)だったと思います。なんせ、牛なんて作ったことはなかったのですから……。


 一人ひとりが、自分に与えられた役割に真剣に取り組み、互いに知恵を振り絞りながら熱中して作り上げた店舗には、目には見えないけれども、熱気を帯びたオーラのようなものが漂うものです。そのオーラが、ドンキらしい世界観に欠かせないものなのです。

〈 巨大な顔が「ウーッ」とうなりながら、鼻から煙が…世にも奇妙な“海底神殿ドンキ”が生まれた意外なきっかけ 〉へ続く


(二宮 仁美/Webオリジナル(外部転載))

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