巨大な顔が「ウーッ」とうなりながら、鼻から煙が…世にも奇妙な“海底神殿ドンキ”が生まれた意外なきっかけ
2025年5月9日(金)7時10分 文春オンライン
〈 利益度外視で超リアルなオブジェを制作…沖縄のドンキが「ドンペン」よりもプッシュする“ある動物” 〉から続く
「ドンキ」の愛称で親しまれ、今や「国民的ディスカウントストア」とも呼べるドン・キホーテ。中には、水槽が設置してあったり、30分に一度うなりながら煙を噴射する“巨顔”があったりと「買い物」以外でも楽しめる要素が詰まった店舗も数多く存在する。『 ドンキ式デザイン思考 セオリー「ド」外視の人を引き寄せる仕掛け 』(二宮仁美著、イースト・プレス)から一部抜粋し、お届けする。(全3回の2回目/ 前回を読む / 続きを読む )

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「水槽があるドンキ」「水槽がないドンキ」の違い
安田が「ビビビ!」と来た旗艦店には、店舗の入り口付近に水槽を設置するのが、ドンキの伝統になっています。
特大サイズの巨大水槽が鎮座しているのは「ドン・キホーテ梅田本店」のほか、「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」「ドン・キホーテ浅草店」「ドン・キホーテ中目黒本店」「MEGAドン・キホーテ大森山王店」などです。店舗によっては、迫力満点の大きなウツボやパラオに生息する珍しい熱帯魚が優雅に泳ぎ、水族館さながらの迫力があります。
私たちが店舗前に巨大水槽を置くのは、水槽にお客さまの「気分の揺らぎ」をキャッチし、立ち止まらせる魅力があるからです。より機能的な説明をすれば、「たまり場」を作ったり、人々の「待ち合わせ場所」になるものだからです。
ビルなどの人工物が立ち並ぶ雑踏の中に、真っ青な巨大水槽があり、その中をビビッドな熱帯魚が優雅に泳いでいたら、「なんだろう?」とつい足を止めて見入ってしまうはずです。
先ほどお伝えした通り、ドンキの場合には、最初から明確な来店動機があっていらっしゃるお客さまばかりではありません。
暇つぶしがてら水槽を眺めていたら「お茶を買っておこう」「ストックが切れていたマスクを買おう」といったシチュエーションでお買い物をするお客さまが多いです。そんなシチュエーションの中で、気軽な気持ちで、お店に立ち寄っていただきたいと考えています。
ドンキの水槽は、とてもわかりやすい目印なため、「あの水槽前に待ち合わせね!」などといった具合に、待ち合わせスポットになることもあります。いずれにせよ、水槽前が、街ゆく人々の「たまり場」となれば、一定の集客効果が期待できるものと考えています。だからこそ、私たちは水槽を置くのです。
「一度見たら一生忘れない」大阪・梅田のドンキ
梅田本店では、店舗前を「たまり場」にするために、巨大水槽以外にも、待ち合わせの目印になるようなものをデザインしたいと考えていました。いわば、渋谷の「ハチ公」のような、一度見たら一生忘れられないようなインパクトのあるものです。
それは、刺激的でエキサイティングな梅田の街を歩く中で、おのずと生まれた課題でした。また、水槽の横に大きな壁面ができる予定がありました。私は、その壁が無機質にならないよう、デザインの力で解決する方法がないか、悶々と考えを巡らせました。そうした中で、ふと、カンボジアに海外旅行で行った時に見たアンコール・トムの像がリンクしました。
「アンコール・トムのような遺跡感のある造形物が都会の中にあったら、ものすごい違和感を生み出すはず……」
直感的に、奇想天外なアイデアが降ってきました。決して、都会にあるはずのないものを置いたらおもしろいに違いないと考え、水槽の隣に、石造風の顔を大きくあしらった壁面をデザインすることに決めたのです。
人の顔は、小さな赤ちゃんでも認識できるため、本能的に多くの人が見てくれるだろうという見立てもありました。決して“常識的〞ではない、型破りなアイデアでしたが、支社長に、想いを込めた手描きのイメージを見せたところ、「おもしろいね!」と気に入ってくれました。そのため、この奇抜なデザインで進めることになったのです。自分がおもしろいと思ったものは、無理だろうと思っても、ダメ元で一度は推してみるものです。
まるで海底神殿のような店舗に
アンコール・トム風のデザインで進めることが決まった後に気になったのは、「水槽とアンコール・トムをどのように一体化させたらいいのか?」ということでした。私の頭の中で、その二つが一体感を持って、一つのデザインに収れんされなかったのです。
あれこれ考えるうちに、ふとひらめいたのが「海底神殿が浮き上がってきた」というストーリーでした。
古代文明が、深い海の底に沈み、遺跡と化した。そして何百年、何千年の時を超えて、朽ち果てた過去の遺跡が、何らかの拍子に浮上してきた……。そんなファンタジーを空想したのです。この空想にリアリティを持たせるために、アンコール・トム風の壁には、エイジング加工を施しました。また、古びた雰囲気をまとわせた本物のフジツボやサンゴ、ボロボロにした木片、水草なども貼り付けて、海底神殿さながらの雰囲気を演出しました。
壁の造形とエイジングのクオリティが低いと、このアイデアは一気に陳腐化してしまうため、現場での打ち合わせの後には、京都にあったFRP工場へと足を運び、入念にチェックをしながら制作を進めました。
この顔は、30分に一回、目が開き、ウーッとうなりながら、鼻から煙が出るという一風変わった仕掛けも搭載しています。それを見られた人は「ちょっとラッキー♪」という、観光地にありそうな話題作りを狙ってのものです。
おかげさまで、梅田本店も2012年のオープン以後、多くのお客さまに愛される店舗の一つになっています。
〈 店舗外観に「ドンキイエロー」が使えない、それでも目立ちたい…ドン・キホーテが景観に厳しい京都で見せた“奇手” 〉へ続く
(二宮 仁美/Webオリジナル(外部転載))