こんな医者には絶対かかってはいけいない…和田秀樹「"なんちゃって医者"から身を守るためにできること」

2025年4月22日(火)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

日常的な医療において大切なことは何か。老年精神科医の和田秀樹さんは「現代の日本の医療界に欠けているのは、医者が『患者さんの人生そのものに関心を持つ』姿勢だ」という——。

※本稿は、和田秀樹『患者の壁 [ベルトコンベア医療]には乗るな!』(エイチアンドアイ)の一部を再編集したものです。


■「総合診療科」をめぐる不都合な真実


「かかりつけ医は町医者のほうがいい」というのが持論ですが、昔ながらの「いつでも、誰でも、どんな病気でも」診てくれる、昔ながらの「町医者」を探すのは至難の業となってきました。


そんな「町医者」に代わって最近注目されているのが「プライマリ・ケア」です。


プライマリ・ケアとは、日常的な健康問題を臓器別ではなく総合的に診療する医療のこと。風邪や高血圧、ひざ痛、ぎっくり腰などの日常的に起こる症状全般に対応するだけでなく、検査結果や体調の急変などに幅広く対処します。


病院にもこうしたプライマリ・ケアを担う「総合診療科」が増えてきましたが、全体から見ると、まだまだ少数です。プライマリ・ケアを担う医者を「総合診療医」と言いますが、その数は医者全体の2%程度に過ぎません。


実は、この「総合診療科」を名乗る医者にも、問題があるのです。たとえば、大学病院で循環器内科の医者として働いていた人が、開業するときに「総合診療科」を名乗るケースがあります。現在の日本の医師制度では、医師免許さえ持っていれば、「麻酔科」「歯科」以外の診療科であれば標榜(ひょうぼう)できる(名乗れる)のです。子どもを一人も診たことがなくても「小児科」は名乗れますし、眼科医が「婦人科」を標榜することも可能です。


写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■総合診療医の“ふり”をする医者が多い


もちろん、専門でない診療科を掲げて評判が悪かったり、医療ミスが発生したりすれば病院自体が存続できなくなるので、さすがに専門外の診療科は躊躇(ちゅうちょ)するのが普通です。


かかりつけ医を探すうえでの問題点としては、昔ながらの「町医者」が減っていることだけでなく、総合診療医の“ふり”をする医者が多いことです。総合診療科はそれほど専門性が高くないと誤解している医者が少なくないため、ほかの診療科と比べて標榜するハードルが低い傾向にあるようです。


総合診療に関する勉強・訓練をしていないにもかかわらず、「総合診療科」を名乗る医者だけが問題ではありません。名乗らないものの、開業した途端に総合診療の“ふり”をする医者が少なくないのです。


たとえば、町の開業医で内科を標榜し「往診もします、小児科もやります」と掲げているクリニックはけっこうあります。しかし、診察室に入ると「循環器内科専門医」の認定証書が貼ってあったりします。大きな病院にいたときは循環器内科医や呼吸器内科医だった医者が、総合診療について学んでいなくても、開業したとたんに総合診療ができる“ふり”をしているわけです。


■「医者の壁」を破る力とは


総合診療ができる“ふり”をする医者は、自分の専門外の治療に関してはマニュアルに頼りがちで、結果として多くの薬を処方する傾向があります。これを「多剤併用」と言います。詳しくは本書(『患者の壁 [ベルトコンベア医療]には乗るな!』)の第三章で説明しますが、端的に言うと薬を多く処方する医者は良い医者とは言えません。


実は、こうしたことは、私の専門である精神科でも大きな問題になっています。カウンセリングをほとんどやったことがない医者が、「心療内科」を名乗ったりする事例です。


日本では、医者になればどのような診療科でも名乗れてしまいます。そのため、クリニックによって総合診療科の質の差は大きく、“月とスッポン”以上になります。総合診療科を名乗るのであれば、せめて1年でもいいので、総合診療科のある病院で修行なり、研修をするシステムが必要でしょう。


他方、高齢の患者さんは一昔前に比べて格段に“賢く”なっています。たとえば、団塊の世代はITリテラシー(理解力・操作能力)が高く、70代の高齢者でも当たり前のように、スマートフォンやパソコンを使いこなします。


IT機器を駆使して、真剣に医者を選ぶ人が増えました。その知識を生かして、総合診療ができる“ふり”をする医者や、多種類の薬を処方する開業医を選ばない、というのも「医者の壁」を破る力になります。


■「在宅診療医」も選択肢の一つに


いま日本では、高齢者がすさまじい勢いで増えており、90歳以上だけで280万人を超えています(24年9月)。要介護5の人でも65万人はいると言われています。


要介護認定を受けた患者さんたちのなかには、自分で歩いて病院に行けなかったり、車椅子を押してくれる人がいなかったりで、通院できない患者さんもいます。そのような事情を抱える患者さんの増加に伴い、「在宅診療所」の必要性が高まっています。


在宅診療所とは病気や障害など、自宅療養中で通院が困難な患者さんに、医師や看護師が定期的に訪問する医療機関のことです。


患者さんが人生のラストステージに近づいていくなかで、信頼できる「かかりつけ医」を持ち、死ぬまでその医者に診てもらいたいというニーズは確実にあります。特に自宅で最期を過ごしたい(在宅死)という要望が増えてきており、「在宅診療医」もかかりつけ医の選択肢の一つとして考えなければいけません。


写真=iStock.com/recep-bg
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■ケアシステム機能の地域格差


厚生労働省は2025年を目途に「地域包括ケアシステム」を構築する、と派手なアドバルーンを上げてきました。


地域包括ケアシステムとは、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的に、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最期まで続けることができるように、介護サービス、在宅診療、訪問看護、リハビリテーションなどのサービス・支援を、包括的に提供する体制のことです。


現実的には、地域包括ケアシステムは機能している地域もあれば、あまり機能していない地域もあります。


ここでも在宅診療医の質が問題になります。在宅診療の経験やトレーニングをちゃんと積んだ医者が育っていないことが原因です。「ここまでできて初めて在宅診療と言えるのだ」という指針がないといけないのです。


■“なんちゃって在宅診療医”の正体


現在、24時間体制で在宅診療や訪問看護が可能な体制を整えている「在宅療養支援病院」は全国に1400以上、「在宅療養支援診療所」は1万4000カ所以上登録されています(ちなみに、病院は入院ベッド数が20床以上、診療所は入院ベッド数が19床以下の医療機関のこと)。



和田秀樹『患者の壁 [ベルトコンベア医療]には乗るな!』(エイチアンドアイ)

ところが、以前対談させていただいた東京都江戸川区のしろひげ在宅診療所院長の山中(やまなか)光茂(みつしげ)医師は、「実は年間に10件も緊急往診に行っていないし、看取りも4件未満という医療機関が7割以上です。逆に言うと残りの3割のところでも、10件の緊急往診、看取りも4件の条件を満たせば、厚労省の基準では『機能強化型』となって診療報酬が優遇される」といった指摘をされていました。山中医師はこういった診療報酬泥棒のような在宅診療医のことを“なんちゃって在宅診療医”と呼んでいます。


現代の日本の医療に欠けていて、実は大事だと思うのは、医者が「患者さんの人生そのものに関心を持つ」ことです。在宅診療を謳(うた)いながら、患者さんを担当する医者がコロコロ変わるのではなく、担当の医者の顔を見たら安心できるような信頼関係がすごく大事だと思うのです。


写真=iStock.com/recep-bg
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もちろん、医者も一人で診るのは大変ですから、二〜三人で手分けして患者さんに対応するのは仕方のないことです。でも突然、今まで診てもらったことのないアルバイトの医者が夜間の往診時に現れ、表面的に対応・診察されても、患者さんは困惑するだけです。


ちなみに、良い在宅診療医を見つける方法について、山中医師は「介護職員からの評価が高い医師は、在宅診療医として良いお医者さんが多い」と言っていました。


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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)

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