新居をテレビで晒した時と全然違う…大谷翔平の長女誕生で「マスコミのバカ騒ぎ」が起きなかったワケ

2025年4月23日(水)18時15分 プレジデント社

ドジャースタジアムで行われたチャリティーイベントに出席したドジャースの大谷翔平選手と妻の真美子さん=2024年12月5月、ロサンゼルス - 写真=ゲッティ/共同通信社

大谷翔平選手の長女誕生を、マスコミはどう報じたのか。ネットメディア研究家の城戸譲さんは「国民的スターの第1子誕生は格好のネタのはずだが、報道は過熱しなかった。読者・視聴者のニーズよりもあるものを優先した可能性がある」という——。
写真=ゲッティ/共同通信社
ドジャースタジアムで行われたチャリティーイベントに出席したドジャースの大谷翔平選手と妻の真美子さん=2024年12月5月、ロサンゼルス - 写真=ゲッティ/共同通信社

■「第1子誕生」で騒がなかったマスコミ


大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手と真美子夫人との間に、第1子となる長女が誕生した。SNS上では祝福の声が飛び交っているが、メディアの報道が控えめに感じられる。これまでの「大谷フィーバー」とは若干異なる雰囲気に思えるのだ。


大谷選手といえば、日本を代表するアスリートだ。当然ながら国民の関心度も高く、その一挙手一投足が注目されている。だからこそ、報道も過熱するはずだが——。「なぜ“大谷長女”は、注目されながらも、あまり深く報道されないのか」を考察すると、メディアの今が見えてきた。


■「国民的スターの子供」は大ニュースのはず


大谷選手は2025年4月20日(日本時間)、インスタグラムで長女の誕生を公表した。「大谷ファミリーへようこそ!」などと祝福(投稿は英文)しながら、第1子を迎える喜びを文章画像で投稿。左下には長女と思われる両足の裏、右下には愛犬「デコピン」の顔の写真をあしらい、新たな家族を迎えたことを報告した。


出産に先がけて、大谷選手は「父親リスト」と呼ばれる、大リーグの産休制度を利用していた。2試合の欠場を経て、すぐさま復帰した様子に、日米両方から驚きと祝福の声が上がっている。


真美子さんの妊娠が公表されたのは、2024年12月末だった。この際も、大谷選手はインスタで、寝そべるデコピンのかたわらに、胎児とみられるエコー写真を添えて、「もうすぐ我が家に“リトルルーキー”が加入するのが待ちきれない!」(こちらも元は英文)と伝えていた。


そんな国民的スターの第1子誕生となれば、あらゆるネタを押しのけてまで、報じたいニュースのはずだ。これまでのスタンスで行けば、妊娠発表の段階から「予定日はいつか」「男児か女児か」と予想が飛び交い、出産後も「どんな病院で生まれたか」「命名はどうなる」といった話題で盛り上がっていただろう。そして、今後もベビーシッターや幼稚園など、ことあるごとに「あの子の今」を報じるように思える。


■「有名税」は過去の遺物


しかしながら、報道各社は「第1子誕生」そのものは大きく取り上げたが、あまり踏み込んだ内容は見られない。父親リストにからめて、日米の球界の違いや、産休・育休に触れるものはある。ただ、これらは大谷選手そのものの話題ではなく、あくまで周辺情報に過ぎない。


では、どうして、メディアの報道が抑制的になったのだろうか。


ひとつ考えられるのが、プライバシー保護の観点だ。近年では、アスリートのような著名人でも、ひとりの人間として守るべきだとの考え方が一般的となり、「有名税」は過去の遺物になりつつある。


著名人自身がプライベートを確保すべく、メディアに立ち向かう場面はこれまで少なくなかった。


たとえばフィギュアスケーターの羽生結弦さんは、2023年8月の結婚時に、相手の詳細に触れなかったことから、詮索する報道やSNS投稿が続出。そして3カ月後、本人のみならず親族にも誹謗中傷やストーカー行為があり、「お相手と私自身を守り続けることは極めて難しく、耐え難いもの」だったとして、離婚を発表した。


羽生結弦さん(写真=David W. Carmichael/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

■読者・視聴者のニーズよりも優先したもの


大谷選手もまた、プライバシーをめぐって、メディアと因縁がある。2024年春には、大谷選手の新居購入が話題となり、一部メディアが近隣住民にまで取材を敢行。これに大谷選手が激怒し、フジテレビや日本テレビがドジャースから「出禁(出入禁止)」となったのでは、との報道が流れた。両局は「出禁」そのものは否定するような発言をしたものの、新居をめぐる取材手法については謝罪している。


こうした経緯も受けて、今回の件でも、メディアは自主的に距離を取っている可能性がある。メディアが報道するのは、なによりも「読者・視聴者のニーズに応える」ためだ。


しかしながら、いかにニーズがあろうとも、「取材対象の同意」が前提となりつつある世の中では、その両者をてんびんにかけながらニュースバリューを判断するしかない。言ってしまえば、大谷ネタは「引きは強いが、扱いにくく、失敗した際のリスクが大きい」といった位置づけになっているのではなかろうか。


■読者の関心か、取り上げられたくない権利か


筆者はネットメディア編集者として、10年以上勤めてきた。編集長としてニュースバリューをジャッジする立場も経験してきたが、よく悩まされてきたのが、「取り上げた記事は読まれるが、本人や事務所からの抗議が激しい有名人」の扱いだ。


当然ながら、媒体側としては、読者の興味に忠実でありたい。そして、関心に沿うコンテンツを提供し続けられれば、収益の伸びも目指せる。読者とメディアは、Win-Winの関係だ。


とはいえ、読者の興味に忠実であり続けると、発言者の「取り上げられたくない権利」を侵害する可能性がある。SNS投稿を引き写す、いわゆる“こたつ記事”には、冷ややかな目線を持つ著名人が少なくない。中には、プロフィール欄に「無断転載禁止」や「記事使用時は○万円を支払うように」などと書く人もいる。


時には「影響力ある人間がSNSに投稿した以上、公的な発言ではないか」と反論したくなる。しかし、「取り上げられたくない権利」を著しく上回るほどのニュースバリューでない限り、記者から提案された段階で、泣く泣くボツにすることも珍しくなかった。


■「メディアの成熟」と好意的に捉えたい


大谷選手の件に立ち返ると、メディア側は「長女の話題は取り上げたい。しかしプライバシーをめぐる、これまでの経緯を勘案すると、あまり踏み込まないほうが無難だ」と判断しているのではないだろうか。


また、相次ぐ偉業で忘れられかけているが、元通訳の水原一平被告による不正送金問題から、まだ1年しか経過していない。表向きは気丈に振る舞い、プレーも充実しているように見えても、心の奥深くには耐えがたい精神的ダメージがあるだろう。ここで新たなストレスが加われば、選手生命にも影響が出かねない。


そんな考察を交えつつ、あらためて「抑制的な出産報道」を見てみると、現時点の読者・視聴者としては物足りなさを感じるが、中長期的に見ると「活躍を楽しめる期間が延びる」ようにも感じられる。過剰なプライバシーへの干渉は、いたずらに大谷選手を“消費”しかねない。


今回の報道スタンスの変化は、「メディアが成熟した」と好意的に捉えたい。もしかすると、単に「面倒ごとに巻き込まれたくない」だけの可能性もある。それでも従来型のメディアスクラム(集団的過熱報道)を見直すきっかけにはなるのではないだろうか。


たとえ動機が後ろ向きであっても、それで価値観が変わるのであれば、前向きに評価できる。取材対象の意向をくんだ形でも、十分報道は成り立つ。そんなモデルケースになることを願っている。


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城戸 譲(きど・ゆずる)
ネットメディア研究家
1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ニュース配信会社ジェイ・キャストへ入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長、収益担当の部長職などを歴任し、2022年秋に独立。現在は「ネットメディア研究家」「炎上ウォッチャー」として、フリーランスでコラムなどを執筆。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。
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(ネットメディア研究家 城戸 譲)

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