モンスタークレーマー化する大統領…「売れる日本車」を逆恨みする"トランプとアメ車"の悲しい現実

2025年5月1日(木)7時15分 プレジデント社

バージニア州のリーズバーグエグゼクティブ空港で、出発前に携帯電話を使用するドナルド・トランプ大統領 - 写真=AFP/時事通信フォト

ドナルド・トランプ米大統領は日本車ばかりアメリカで売れる現状を嘆き、貿易の不公平があると主張している。本当にそうなのだろうか。アメリカの主要紙までもトランプ氏の矛盾を指摘している——。
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バージニア州のリーズバーグエグゼクティブ空港で、出発前に携帯電話を使用するドナルド・トランプ大統領 - 写真=AFP/時事通信フォト

■トランプ氏「日本は米国車を締め出している」


「彼ら(日本人)は、我々が日本で車を売ることを不可能にしている」


トランプ大統領による、第1次政権時代のコメントだ。日本が米国車を締め出していると繰り返し主張しており、アメリカ企業経営者らとの会合でも同様の発言をした。当時の米ニューヨーク・タイムズ紙は、トランプ氏は日本が規制障壁を設け、日本ブランドに有利になるよう為替市場を操作していると主張している——と報じていた。トランプ氏の姿勢は、第2次政権を発足した今もまったく変わっていない。


だが、数字が物語る現実は厳しい。日本の自動車市場における米国車のシェアはわずか1%未満だ。米CNBCは2019年時点で、「フォードなどアメリカ車が日本で売れない理由」との動画を公開。最大手の米自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM)がその前年、日本でわずか700台しか販売できなかったと指摘している。フォードに至っては2017年に日本市場から完全撤退している。


対照的に日本車は、アメリカで絶大な人気を誇る。日本の自動車メーカーはアメリカで非常に多くの車を販売し、人気のSUVはもちろんのこと、複数のセグメントで販売台数と評価の両面で好調だ。CNBCは、日本の自動車メーカーがアメリカで販売される車の3分の1を現地生産し、多くのアメリカ人労働者を雇用していると報じ、米経済への寄与を強調している。


だが、トランプ氏はあくまで貿易の不均衡を問題視し、日本側に非があるとの立場だ。日本側はこの主張に困惑するばかりだ。ニューヨーク・タイムズ紙は、日本の自動車業界関係者からすれば、トランプ氏の貿易障壁についての非難は奇妙に映ると指摘している。


■「ボウリングボールテスト」発言の真相


トランプ氏の奇妙な主張は、今年4月にも繰り返された。もはや恒例となった誇張や虚偽発言だが、注目を集めたのが「ボウリングボールテスト」についての持論だ。米MSNBCによると、トランプ氏は「日本では『ボウリングボールテスト』と呼ばれるものがある。それは20フィート(約6メートル)の高さから車のボンネットにボウリングボールを落とし、へこんだら車は不合格になる」と述べた。


この珍説は2018年の資金調達イベントで初めて飛び出し、今年も記者団に対して同様の主張を繰り返したものだ。MSNBCのスティーブ・ベネン記者は、この発言の後、当時のホワイトハウス報道官が「明らかに冗談を言っていた」と弁明したと報じている。


しかし実態は、そう単純ではない。米ワシントン・ポスト紙元記者で現在はウォール・ストリート・ジャーナルで働くジョッシュ・ドージー記者はXの投稿で、ホワイトハウスの関係者によるとトランプ氏は会議で「頻繁に」このボウリングボールテストについて言及していたと明かしている。MSNBCは、このテストが実際には存在せず、日本の自動車規制の実態を全く反映していないと断言している。


事実確認を行ったニューヨーク・タイムズ紙によれば、日本の自動車規制は確かに米国とは異なるが、トランプ氏の描写するような奇妙なテストは存在しない。そればかりでなく同紙は、日本が米国車に対して関税を課していない一方、米国は日本車に2.5%の関税(第1次政権時代)を課していると指摘している。貿易の不均衡があるとすれば、それはアメリカが一方的に課している関税にあるというわけだ。


石破首相と握手をするトランプ大統領(写真=The White House/PD-USGov-POTUS/Wikimedia Commons

■日本の狭い道路ではアメリカ車は運転困難


関税だけを比較すれば有利なはずのアメリカ車が、なぜ日本人にそっぽを向かれるのか。敬遠される最大の理由は、単純に車のサイズが日本の道路事情に合わないことだ。


英BBCはYouTubeの日本語版チャンネルで、日本の狭い路地を実際に大型のアメリカ車で走行して検証している。同局のルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ記者が生活道路の通過に挑んだが、電柱や壁との間をわずかな隙間を通り抜けようとするたび緊張の面持ちを浮かべた。


「日本ではほとんどの住宅が狭い路地に面していて、駐車スペースもわずかです」。映像のナレーションはこう説明する。BBCはまた、別の記事を通じ、イタリアなどの古い町や都市と同様、日本の古くからある市街地には狭い道路が多く、大型のSUVで走行するのは非常に困難だとの事情を取りあげている。


この問題は欧州でも同様だ。BBCは欧州の自動車業界アナリスト、ハンプス・エンゲラウ氏の「イタリアで大型SUVを運転してみてください。私はやったことがありますが、非常に難しいです」という証言を紹介している。


加えて記事は、日本の道路事情に適応しているのが、英語でも「ケイ・カー」として知られる軽自動車だと紹介。幅が1.5メートル以下、エンジンは660cc以下と非常にコンパクト。2017年には日本の自動車販売台数の40%を軽自動車が占めていた。実用性で人気の軽自動車だが、当然ながら米国メーカーは一切製造していない。


■右ハンドルで日本の道路を走ろうとは思わない


アメリカ車が売れない理由の2点目として、ハンドル位置の違いが大きな障壁となっている。日本は左側通行の国であり、右ハンドル車が標準だ。前掲のYouTubeの映像では、左ハンドルのアメリカ車が日本の道路では「逆になってしまう」と指摘されている。


だが、本来であれば米メーカーが付け替えて提供していれば、大きな問題にはならない。この問題に関して、欧州と米国のメーカーの姿勢に明確な違いがある。


米シアトル・タイムズ紙は、欧州の自動車メーカーは日本市場向けに右ハンドル車を積極的に製造しているが、アメリカのメーカーはこの点で消極的だと指摘する。欧州ブランドは日本でも積極的に広告を展開し、右ハンドル車を提供するなど日本市場に合わせた製品カスタマイズを行っているが、アメリカのメーカーはそうした努力が不足している——。こんなコメントが日本国内の専門家からは聞かれる。


こうした中、例外的に成功しているのがジープだ。CNBCによると、ジープは2018年の米国車販売台数の約半数を占めており、右ハンドル車を提供している。シアトル・タイムズ紙は、ジープが右ハンドル車を提供できる理由として、かつて米国郵政公社向けに製造していた配達車両が右ハンドルだったという歴史的背景を挙げている。


欧州メーカーに追いつくためには、アメリカの自動車メーカーは相当な投資が必要だ。だが、人気のドイツ車を中心とする欧州ブランドや、近年EV開発で勢いを増す中国ブランドに比べると、日本市場にマッチした車種を展開する努力が米企業には欠けている。


■燃費効率が決定的に違う


燃費効率の差も、日本人がアメリカ車を避ける重要な理由だ。


この差は両国の燃料価格の違いに起因している。欧州の自動車アナリストは、英テレグラフ紙に対し、「アメリカ人は私たちがリットルあたりに支払う金額をガロンあたりで支払っている」と指摘している。1ガロンは約3.8リットルであることを考えると、おおむねガソリン価格は4分の1ほどであるとの表現だ。アメリカでは、日本や欧州ほどには燃費効率が気にされていない事情がある。


これに対し、高いガソリン価格を背景に、日本人消費者は燃費効率の高い車を好む傾向がある。CNBCによると、日本のコンパクトな国土と高い燃料価格を考えると、コンパクトで燃費の良い車が好まれるのは自然なことだという。一方、アメリカの自動車メーカーは大型車、特にピックアップトラックやSUVの製造を得意とする。


この違いは両国の売れ筋車種に明確に表れている。テレグラフ紙は、アメリカで最も売れている車種がフォードのFシリーズのピックアップトラックであることを指摘している。全長5.3メートル(英国ブランドのレンジローバーと比較してもさらに30センチ長い)から6.1メートルまでの大きさで、エンジンは2.7リットルから5.0リットルと大排気量だ。燃費についても控えめではないという。


対照的に、英国で最も売れている車はフォード・ヨーロッパ製のプーマで、Fシリーズとはボンネットの青い楕円形のバッジ以外に共通点はほとんどないと同紙は報じている。


フォードのFシリーズ(写真=Gold Pony/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

■「壊れやすい」という根強いイメージ


品質へのイメージも、あまり良いとは言い難い。「アメリカ車は壊れやすく、燃費が悪い」とのイメージが日本では根強い、とニューヨーク・タイムズ紙は述べている。


この否定的なイメージはどこから生まれたのか。CNBCは、1960年代から1980年代にかけて、日本ブランドが台頭する一方で、アメリカの自動車メーカーはシボレー・ベガ、AMCグレムリン、フォード・ピント、シボレー・コルベアなどの車種に関する批判やスキャンダルに悩まされていたと説明している。品質にまつわる悪評は、かなり前から根付いていたようだ。


実体験に基づく証言もある。BBCの映像では、日本人ドライバーが「アメリカ車を持っていたこともあるんですよね。でも運転し始めたら安っぽいと感じました。安全だとも思えなかった」と語っている。


時は流れ、品質は向上したが、イメージは簡単には変わらない。CNBCは、アメリカの自動車メーカーが近年、はるかに燃費効率の良いエンジンを製造するようになり、品質も向上しているが、日本の消費者の間では古いイメージが根強く残っていると指摘している。


なお、購入プロセスにも大きな違いがある。アメリカの買い物客がディーラーの在庫から車を選ぶことが多いのに対し、日本の買い手はカタログから車をカスタムオーダーし、数週間で製造してもらうことが多い。強力な地元のサプライチェーンと地元の工場により、日本の自動車メーカーはこれを実現できるとCNBCは説明している。


写真=iStock.com/Marco_Piunti
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marco_Piunti

■欧州でも苦戦するアメリカ車


トランプ氏は「我々は欧州に車を売ることができない」と述べ、不満を日本だけでなく欧州にも向けた。BBCによると、欧州でもアメリカ車のシェアは低く、トランプ氏は「BMWやメルセデス、フォルクスワーゲンなど、何百万台もの車が入ってくるのに」と不満を表明しているという。


数字が示す不均衡は明らかだ。2022年には69万2334台の欧州製新車が米国に輸出された一方、米国から欧州への輸出は11万6207台にとどまった。この不均衡についてトランプ氏は不公平な貿易ルールが原因だと主張しているが、実際には消費者の好みや実用的な問題が大きい、とBBCは指摘する。


欧州で売れない事情は、日本と非常に似通っている。最大の障壁は道路幅だ。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、多くの欧州の都市の中心部には狭く曲がりくねった道があり、サイクリストや歩行者が車とスペースを争うようにしてすり抜けてゆく。


ドイツの自動車協会ADACの広報担当者カタリーナ・ルカ氏は同紙に、「ミュンヘンにはアメリカ車が通れる広い道もありますが、普通の車でもすれ違いが難しい狭い道もありますから」と事情を語る。


駐車の問題も深刻だ。ニューヨーク・タイムズ紙によると、ラム1500ピックアップトラックは標準的なドイツの駐車スペースより約90センチ長く5センチ幅広いため、駐車場所を見つけることすら非常に困難だという。


燃料価格の差も大きな要因となっており、テレグラフ紙は、ドイツではガソリン1リットルあたり約1.41ドル(約202円)であるのに対し、米国の平均ガソリン価格は1ガロン(約3.79リットル)あたり3.10ドル(約444円)だと報じている。リッター換算ではドイツで202円/L、アメリカでは100円/Lとなる。価格差は実に2倍の開きがあり、欧州で燃費の良い小型車が好まれるのも頷ける。


日本の経済産業省資源エネルギー庁が発表するレギュラーガソリン価格の調査結果は4月21日時点で185.1円/Lと高止まりしており、日本でも燃費の良くないアメリカ車はますます敬遠される傾向となるだろう。


■テスラとジープは例外的に成功している


もっとも、すべてのアメリカ車が日本や欧州で苦戦しているわけではない。ジープは日本市場で健闘している数少ないアメリカブランドだ。CNBCによると、ジープは日本で年間約1万台を販売している。


成功の秘密は独自のブランドイメージにある。同記事は、ジープには「アメリカのタフなアウトドアのライフスタイル」のイメージが定着していると解説する。


欧州では、近年では賛否が分かれているものの、テスラもまた例外的な成功を収めている米国ブランドだ。テレグラフ紙によると、テスラはドイツのベルリン近郊に工場を持ち、欧州市場向けにモデルYを製造している。


ウォリック大学の自動車工学助教授ジョナサン・ソール氏は同紙に、「テスラは車の製造方法や顧客体験、販売から充電に至るまで独自の方法で成功してきた」との見方を示す。他のアメリカブランドが欧州で成功したいならば、こうしたきめ細かなローカライズが欠かせないという。


■消費者が「買いたい」と思える車を造ればいい


トランプ大統領の主張とは裏腹に、実際の問題は貿易障壁ではなく消費者の好みにある。根本的な問題は、日本の消費者が求める車と米国メーカーの車のミスマッチだ。


2025年2月28日、ホワイトハウスでウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談するドナルド・トランプ大統領(写真=The White House/PD-USGov-POTUS/Wikimedia Commons

日本の消費者は小型で燃費効率が良く、安全性と信頼性に優れた車を求めている。一方、アメリカの自動車メーカーは大型車、特にピックアップトラックやSUVの製造を得意とする。米国メーカーが日本市場で成功するためには、日本の消費者の好みや道路事情に合った車を開発し、右ハンドル車を提供し、積極的なマーケティング活動を展開する必要がある。


あるいは、こうした投資に見合うリターンが期待できないために、現状として米メーカーは日本への対応に力を入れていないのかもしれない。だが、いずれにせよ日本車がアメリカで愛されている現状を関税によって変えようとする試みは筋違いと言えるだろう。


欧州車は日本で一定のシェアを獲得している。シアトル・タイムズ紙は、メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲンなどの欧州ブランドが、日本市場の約6%を占めていると指摘する。日本の消費者が真に買いたいと思える車であれば、日本でも売れることが明らかだ。


トランプ氏の貿易不均衡への懸念は一定程度理解できるが、あるべき解決策は関税の引き上げではなく、米国メーカーが日本や欧州の消費者の好みに合った車を開発することだろう。関税策は自国の弱みを正面から受け入れず、他国に責任を転嫁しているだけである——。日本の多くの賢明な消費者は、このような印象を抱かずにいられないことだろう。


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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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