「頭のいい子が育つ家庭」では常識…普通の親は「もう宿題やったの?」と聞く、では一流の親はどうする?
2025年5月1日(木)8時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki
※本稿は、西岡壱誠『なぜ、東大の入試問題は、「30字」で答えを書かせるのか?』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■東大生の親は“聞き上手”
「東大生が育った家庭では、どんな共通点があるのか?」
これは、私たちがこれまで数多くの東大生やその親御さんと接してきた中で、何度も考えさせられてきた問いです。
私たちは、東大生を対象にしたアンケート調査やインタビューを継続的に実施しており、その中で「東大生の親に共通する特徴とは何か?」というテーマについて考察してきました。その中で、私たちの取材で特に浮かび上がってきたのが、「親子のコミュニケーションの質」という要素です。
学力や集中力、思考力を育てるうえで、「親御さんの子どもに対する関わり方」は大きな影響を与えます。しかし、それは単に「勉強を教える」「習い事をさせる」といった支援だけではありません。それよりも、とてつもなく長い「親と子どもの会話の日常会話」の方が重要な時間だと言えます。
今回は、「東大生の親は、話し上手ではなく、聞き上手である」ということについてみなさんにシェアさせていただきたいと思います。
写真=iStock.com/itakayuki
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■勉強をガッツリ教えない
多くの東大生に「親との会話で印象に残っていることはありますか?」と尋ねると、返ってくるのは「よく話を聞いてくれた」「意見を押し付けてこなかった」というエピソードです。
「買い物の時でも、塾から家に帰る時でも、基本的には話を聞いてくれて、こちらから親に話をする時間が長かった」
「受験する学校とか将来について話す時、母親は端的に自分の意見を伝えた後で、『○○(自分の名前)はどう思う?』と聞いてくれることが多かった」
このように、「あなたはどう思う?」という問いかけを重視している家庭が多いのです。多くの人は、東大生の親というと、勉強をガッツリ教えて、「これはこうなんだよ」ということをたくさん語るようなイメージを持っているかもしれません。このイメージは実は現実とは逆で、自分の意見や自分の持っている情報を伝える時間は最小限に抑え、あとは相手の話を「聞く」フェイズにしている場合が多いのです。
東大生の親は、「話す」スキルよりも、「聞く」スキルが高いです。例えば、東大生の親は、日常的な会話の中でも、「はい・いいえ」で答えられる質問(クローズドクエスチョン)」ではなく、「あなたはどう思う?」「どうしたい?」といったオープンクエスチョンを多用する傾向があります。
■“点検”してはいけない
岡山大学准教授の中山芳一先生も、監修した著書『3歳までのカンタンおうちあそびレシピ50』(日本能率協会マネジメントセンター)の中で「子どもの思考力を育てるには、開かれた問い=オープンクエスチョンが有効である」と述べています。東大生の親はこれを自然に実践しており、日常のやり取りの中で、思考を促す“問いかけの技術”を活用しているのです。例えば、帰宅後であれば、次のような会話です。
×「宿題やったの?」
○「今日の勉強で、一番面白かったところはどこ?」
このような問い方によって、子どもは自分の内面を見つめ、言葉にしようとします。もっと言えば、ただ「今日の勉強どうだった?」と聞くのではなく、相手の話に紐付けて話をするのです。ベストな問いかけは次のような内容です。
◎「今日、英語の授業で発表があったんでしょ? どうだったの? うまくいった?」
このように、相手の以前の話に紐付けて、相手からの情報を引き出している場合が多いのです。実際、私たちが指導するご家庭の中にも、「勉強やった?」「模試どうだった?」と“点検のための会話”ばかりになってしまっている家庭がありました。しかし、お子さんにしてみればそれは「監視されている」「信じられていない」と感じさせる一因となり、家庭での会話自体を避けるようになってしまっていました。
写真=iStock.com/Hakase_
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■「沈黙の時間」を設ける
そこで、「宿題やったの?」という問いをやめ、「今日の勉強で、一番疲れたところは?」などと、“感情”や“気づき”に寄り添う問いに変えたところ、親子の会話量も増え、家族の雰囲気も良くなったと伺いました。これは一つ参考になる話かもしれませんね。
また、もう一つ東大生の親が優れているのは、「待つ」というスキルです。面白いことに、東大生の中には「1つの質問で1時間以上悩んでしまうタイプ」も少なくありません。思考が深すぎて、1つの質問に対して時間をかけて考え込んでしまうのです。これは決して非効率なことではなく、むしろ「考え続ける力」が深く根付いている証拠です。
そんなタイプの子どもに対して、「早く答えなさい」「何でもいいから言ってみて」などと急かすのではなく、じっと沈黙の時間を待ってあげられる親御さんが多いのです。
これは、コミュニケーションという分野に留まる話ではなく、子どもに対する接し方全般に言えることです。勉強を教える、勉強時間を管理する、塾を探す……親の関わり方は多種多様ですね。しかし、東大生の親に共通しているのは、「親が勉強を教えた」というよりも、「考える力を引き出した」という姿勢なのです。「指示」や「助言」よりも、「対話」や「傾聴」を重視した関わり方。そして何より、子どもの思考のスピードを尊重し、焦らせないことを意識しているのです。
■ヒントを与えることが逆効果になる
実際、幼児期から小学生にかけての発達段階でも、「考えている時間」を遮らずに待つことが、深い思考力や持続的注意力を育てるうえで極めて重要だとされます。東大生の親は、子どもが沈黙している時間を「何も考えていない時間」とは見なさず、「思考の種が芽吹いている時間」として見守っていたのです。
親子の関係性の中で生まれるこの「待つ時間」こそが、子どもの中に深い思考の根を育てていくと考えています。
写真=iStock.com/metamorworks
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逆に、相手の話を待つことができず、こちら側からたくさんいろんな話をしてしまう家庭もあるでしょう。「私はこうだと思うわよ」とか「私が小さいときはこんな風に考えていて」とか、良かれと思ってヒントとしてそうした言葉をかける場合もあるでしょう。これが悪いことであるということはありませんが、行き過ぎてしまうと良くありません。相手の話をただ聞いて、それに従えばいいという感覚になってしまい、自分で考える習慣が身に付かないからです。
例えば、お子さんが「志望校どうしようかな」と口にしただけで、「お母さんはこう思う」「やっぱり就職を考えたらこういう学部がいいと思う」と、次々に親御さんの考えを展開してしまっているという家庭がありました。
■話し始めるまで辛抱強く「待つ」
親御さんに話を聞くと、それらの行為は決して悪気があったわけではなく、むしろ“ヒントを与えよう”“選択肢を広げよう”という善意からの言葉だったのです。しかし、お子さんにとっては「どうせ何を言っても否定される」と感じるきっかけになってしまい、それ以降は相談すらしなくなってしまった……という家庭がありました。とても勿体無いことですよね。
このように、相手の話をしっかり聞いてあげる親御さんでないと、そもそも会話自体がなくなってしまう危険性があるのです。
西岡壱誠『なぜ、東大の入試問題は、「30字」で答えを書かせるのか?』(サンマーク出版)
さて、親が子どもの話をきちんと「聞く」ことには、「思考力」を育てること以外にもう一つ、大きな意義があります。それは「自己肯定感」を育てるということです。子どもは「自分の考えには価値がある」と感じるようになります。
すると自然に、自分の意見を持つこと、深く考えること、そしてそれを表現することに対して前向きになります。
「話し上手」な親は、子どもを惹きつける力はあるかもしれません。しかし「聞き上手」な親は、子どもの中にある種(たね)を芽吹かせる力を持っていると考えています。時には自分の意見をあえて言わず、静かに問い、じっくりと待ち、深く耳を傾ける。相手が話始めるまで、辛抱強く「待つ」ということをしていく。このような親子の対話が、思考力と自己肯定感を育てていくと考えられます。ぜひ参考にしてみてください。
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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生 カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。
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(現役東大生 カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)