歩道を走る自転車は全員「反則金6000円」?…日本の危険な道路で始まる「青切符取り締まり」への最大の懸念
2025年5月2日(金)18時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stevanovicigor
■確かに「危険自転車」は目に余る
4月24日に警察庁から「自転車のルール違反にも青切符を導入し、反則金を徴収する」とのリリースが出された。5月24日までパブリックコメント(意見公募)を実施したうえで、来年4月1日から運用を始める方針だ。
この連載でもたびたび書いていたとおり、私は「導入やむなし」と思う。というより個人的に大賛成だ。自転車のルール違反はこのところ目に余るから。その結果、交通事故の中の自転車事故の率は、このところうなぎ上りとなっている。
今回の警察庁案は113項目の具体例について、反則金の額が提示された。
発表当日は、テレビのニュースやワイドショーで流れ、翌朝の新聞にもかなりの大きさで報じられた。
■「スマホを見ながら」で1万2000円
自転車の「青切符」の反則金額は原付バイクをベースとしたとのこと。違反内容に応じて3000円から1万2000円だという。
いくつか見ていこう。最高額は、スマホがらみだ。
▼ 携帯電話使用等(保持)1万2000円
じつはスマホながら運転は「事故に結びつくような危険な運転」の場合、赤切符が切られるという。赤切符すなわち刑事処分である。この青切符は「そこまでじゃないが、とにかくスマホ見ながらはダメ」ということらしい。
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その他、金額ごとに見ると、こんなところになる。
▼ 信号無視、逆走、歩道走行は、6000円
▼ イヤホン着用運転(必要な音が聞こえない状態で運転する行為)や傘差し運転、一時不停止、車間距離不保持は、5000円
▼ 並んで走る行為や2人乗りは、3000円
……など。
こういうのが113項目ある。私はこれらを見ているうち、次第次第に「あ、ダメだ、これは」と思ってきた。
警察庁「自転車をはじめとする軽車両の反則行為と反則金の額」より編集部作成
■多くの生徒・学生が「違反者」に
テレビ画面の中で多くのキャスターは「これからはこうなります」と、淡々と進行するばかりだった。その後どうなるかがまるでない。このあたり、私は本当に不思議なんだが、普通の想像力を働かせれば、こんなのが有名無実に陥るのはすぐに分かるだろう。
たとえば反則金3000円の「並んで走る行為」。地方の高校生なんかがよくやってて、迷惑といえば迷惑だが(法律でも自転車の並進は違反)、これを全部取り締まるの? と思う。
写真=iStock.com/chris-mueller
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反則金5000円の「車間距離不保持」などは、高校や大学の自転車部なんて全員違反だ。人気マンガ『弱虫ペダル』の登場人物たちももれなく反則金。ことさらに113項目に挙げることが必要だろうか、これ。
警察庁「自転車をはじめとする軽車両の反則行為と反則金の額」より編集部作成
■歩道を走る自転車を全て取り締まる?
一番の疑問点は、反則金6000円の歩道走行だ。
たしかに法律上は「自転車は車道が原則、歩道は例外」ということが決まっている。また歩道はその例外規定においても徐行(時速7.5キロ以下)となっている。
しかしだ。現状は、誰もが知ってるとおり、ほぼすべてのママチャリが歩道を走っているし、徐行なんて誰も守っちゃいない。ということは、全員、青切符の対象なのだ。
これをどう取り締まるというのだろう。だいたい取り締まる側の警察官が圧倒的に足りていない。
おそらく来年4月の施行日には新聞テレビ巻き込んで大キャンペーンで「今日から青切符です」「○○交差点では、次々と違反自転車が止められました」なんて、いつものパターンで報じられるだろう。
で、おおよそ2週間騒いだらおしまいだ。その間、歩道走行するママチャリ同士で「反則金6000円も取られちゃったわ」「運が悪かったわねぇ」なんてことが頻発する。
■そもそも日本の車道は危険すぎる
そもそも車道に出ようにも、車道の左端は違法駐車だらけで、それを避けて走らねばならない。中には自転車専用レーンを塞ぐようにして駐車している車もあり、危なくて仕方がない。まずは違法駐車の取り締まりが先決だろう。
筆者撮影
自転車専用レーンに2台続けて駐車していた - 筆者撮影
さらにいうなら「自転車走行スペース」の整備が欧米他国に較べて貧弱すぎる。ママチャリライダーたちが「恐くて車道が走れない」と感じるのは、今のままでは当たり前なのだ。
筆者撮影
自転車専用レーンが整備されていても、駐車している車のせいで車道にはみ出すしかなく、危険な状態に - 筆者撮影
それに「運が悪かった」などという取り締まりは、最悪最低の取り締まり方だろう。摘発された人は「今後はこうしよう」「安全のために」と思うだろうか。絶対に思わない。
そもそも今回の青切符は「自転車事故を減らす」のが目的のはずなのに、今回の青切符案は、その目的に合致しているとは思えないのだ。
■「絶対ダメなヤツ」から取り締まるべき
今回の青切符導入に際して一番必要なのは、取り締まりのメリハリである。
事故に直結する危険な違反は、厳然としてある。それは「スマホながら」「逆走」「信号無視」「遮断踏切侵入」などだろう。必要なのは、どうしてもこれだけは摘発しないと事故が減らないという「絶対ダメなヤツ」の選別だ。そういうのを、3つ、4つ指定して、そこを重点的に取り締まることだろう。
筆者撮影
自転車専用レーンを逆走する自転車。これは「絶対ダメなヤツ - 筆者撮影
歩道走行や、併走、傘差しなどは「しないに越したことはない」が、今はまだいい。だいたい113項目もの違反行為を誰が覚えられるというのか。取り締まる現場の警察官に、傘スタンド「さすべえ」はどうなのか、イヤホンの解釈はどうか、私の前で説明してみろと言いたい。
そしてなにより「違法モペッド」の問題はどうなのか。街中に電ジャラス自転車が蔓延しているのを放置して「歩道走行の取り締まりです」なんてどうかしているとしか思えない。
刃物を持った殺人鬼が街中で徘徊しているのに、立ち小便を取り締まってる警官がどこにいる。
私が考える青切符取り締まり重点項目はこの5つだ。
1 スマホながら運転
2 逆走(右側通行)
3 信号無視
4 遮断機がおりた踏切侵入
5 一時停止の無視
番外 飲酒(これは論外で赤切符)
番外 違法モペッド(これも論外だが、自転車じゃなくオートバイ問題)
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疋田 智(ひきた・さとし)
自転車評論家
1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。大東文化大学社会学研究所客員研究員。学習院大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。YouTube『芝浦自転車研究所』
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(自転車評論家 疋田 智)