相場展望5月5日号 米国株: NYダウは戻り歩調だが、トランプ就任直後の高値には「道半ば」 日本株: 日経平均はトランプ関税の打撃から回復、気になる兆候が散見
2025年5月5日(月)14時24分 財経新聞
●1.NYダウの推移
1)5/1、NYダウ+83ドル高、40,752ドル
2)5/2、NYダウ+564ドル高、41,317ドル
【前回は】相場展望5月1日号 米国株: NYダウは重要な位置まで戻り、上昇・下落の転換点に到達 トランプ関税の緩和発言で一喜一憂してはいけない 日本株: 海外短期投機筋の先物主導で上げてきたが、胸突き八丁
●2.米国株:NYダウは戻り歩調であるが、トランプ就任直後の高値には「道半ば」
1)上昇基調も、強・弱まちまちの米国株式市場
・弱
・トランプ関税に端を発した貿易取引の見通しが急変し深刻な打撃を受ける恐れが米国株式市場を直撃し4/上旬の株価指数を下回る可能性。
・チャートをみると、小刻みな上昇が続いており「上昇力に疲弊」のサイクルが見受けられる。
・アップルがコスト増や中国販売不振で不安が再燃。
・強
・米国株式市場の反発をみると、力強い上昇が続く余力を示唆している。
・中国が貿易協議の可能性を示唆。
・トランプ氏の関税措置次第で株式の強弱が決まる
・トランプ氏が関税で強硬な姿勢を改めれば、投資家は買いに走る。強硬な姿勢を継続すると、投資家は再度売りに走る。そのような転換点が迫っていると思われる。
2)金価格の急伸は、米国の信頼が揺らいでいる証拠
・金価格の推移
4/02 3,146ドル
4/08 2,990
5/02 3,257
・米国のトリプル安を招いた「米国売り」の資金は「金買い」に走った。リスク回避の結果である。「金」の下落は、「米国買い」につながるが、その兆候は今のところみえない。この段階での、米国株高・日経平均回復は信頼してよいのだろうか。
3)原油先物価格の下落は、世界経済の悪化を示唆
・WTI原油先物価格の推移
4/02 71.71ドル
4/08 59.58
5/02 58.29
4)米国株式相場の上昇の要因
・決算発表が続くが、好業績銘柄が相場を明るくしている。
・トランプ関税に関する発言が、緩和的。
・ドル高。
・金利低下。
・雇用統計と米国・中国貿易摩擦の緩和期待を好感
失業率4.2%と前月から横ばい
・NYダウは5/2、41,317ドルと9営業日連続の値上がり(5/2)
・NYダウは4/9の40,608ドルと、4/14の40,524ドルという2つの壁を突き抜けて上昇した。直近の壁であった4/14比で+793ドル高となった。
・4/09 40,608ドル
4/14 40,524
5/02 41,317
・トランプ氏のFRB議長「解任」発言が引き起こしたトリプル安、つまり「米国売り」で急落して付けた4/21のNYダウ38,170ドルから、+3,147ドル高を演じた。
4/21 38,170ドル
5/02 41,317
上昇幅 +3,147
この上昇要因は、
(1)トランプ氏のFRB議長の「解任否定」
(2)トランプ関税の相次ぐ緩和発言
(3)中国の米国への歩み寄り発言
がある。
5)株価は戻り歩調であるが、トランプ就任直後の高値には「道半ば」
・NYダウの推移
1/30 44,882ドル トランプ大統領就任後の高値
4/08 37,645 相互関税発表で下落
4/09 40,608 相互関税の「上乗せ関税」一時停止を好感
4/21 38,170 FRB議長「解任」発言で、米国売り
4/30 40,669 上乗せ関税の緩和発言が相次ぎ好感
決算発表を好感した買いが押し上げた
5/02 41,317
・トランプ就任後の高値比、4/21はNYダウは▲6,712ドル安・▲14.95%安。5/02は4/21比で戻り幅は+3,147ドル高だが、下落幅の+46.88%戻りで道半ば。なお、トランプ就任後の1/30高値から比べると、5/02は▲9.3%安である。
・「調整局面入りとされる▲10%」から抜け出てきた。今後の推移に注目。
6)米国の金利が反転し上昇に転じた
・米国債利回りの推移
2年債利回り 10年債利回り
4/9 3.702% 4.411%
5/1 3.699 4.218 金利低下と株高が連動
5/2 3.826 4.313 金利上昇が定着するか注目
・5/2に金利上昇の兆しがでてきたため、株価の変調に影響するか注意。
7)トランプ氏2026年度予算(25年10月〜26年9月)国防費+13%・非国防費▲23%
・国防予算は、+13%増の1兆100億ドル(約147兆円)で+1,750億ドル増。非国防費は、▲23%減の5,570億ドル(約80.56兆円)で▲1,630億ドル減。
・マスク氏登用で政府効率化省(DOGE)主導の下で予算▲2兆ドル削減を公約したが、その後▲1兆ドル減と目標を低下させた。しかし、強圧的な手法で削減できたのは、わずか▲1,600億ドルにとどまる。トランプ関税で金利上昇したため国債の利払い費が膨らみ、政府機関の予算と人員削減では赤字削減の限界が露呈した。そのため、削減できるのは▲150億ドル程度まで縮小するとみられる。なのに、マスク氏の月・火星探査計画には+6.47億ドルの予算を追加した。
・トランプ氏主導の下で、共和党が進める大型減税が成立すれば、財政赤字は▲5兆8,000億ドル規模まで膨らむと見込まれるという。
・最終的な歳出計画は議会の承認を必要するため、野党・民主党の協力を得るため妥協せざるを得なくなる。
・関税収入の大幅な歳入をもくろんでいるが、その関税に伴う価格転嫁分は消費者である米国民が負担することになる。トランプ氏は関税収入増分で所得税減税に充当するというが、その構想の実現は困難だろう。なぜならば、米国債発行金利の上昇で食われてしまうからだ。トランプ関税は、米国の財政赤字をさらに膨らませ、物価高で苦しむ米国民を増やすことになる確率が高まっている。特に、トランプ関税で所得税減税という恩恵を受けられるのは一定以上の所得税を支払っている層である。一定以下の所得税の低負担層にとって、関税による価格転嫁による物価高が直撃することになる。現在、トランプ関税への抗議デモが増加しているが価格転嫁は始まったばかり。物価上昇とともに数カ月後には抗議デモは大規模に拡大、過激化するだろう。トランプ氏の岩盤支持層にも次第に波及していくと思われる。
●3.米国アップル、トランプ関税で4〜6月期▲9億ドル(▲1,300億円)のコスト増加(CNN)
1)米国で販売されるiPhoneの大半がインド製になる。
2)米国向け製品のiPad、Mac、AppleWatchなどベトナム製品が大半となる。
3)米国以外の自社製品は引き続き中国生産となる。
●4.トランプ氏、公共放送への政府資金打ち切り大統領令に署名、圧力強化(NHK)
1)公共ラジオNPRと公共放送PBSに対する政府資金5億ドル(約720億円)を停止する大統領令に署名した。
2)トランプ氏は政権の見解と異なるメディアに対し、「偏向している」などと非難して圧力を強めている。
●5.米国・国務長官、独・極右政党AfDの「過激派」指定を非難、方針転換求める(ロイター)
●6.創業者ベゾス氏、アマゾン株を48億ドル(7,000億円)売却、関税に備え(時事通信)
1)トランプ政権の高関税政策がもたらす不確実性に備え、現金化しておく狙いがあるもようだ。
2)米国証券取引委員会(SEC)への提出書類によると、売却は約1年間かけて実行される。
3)ベゾス氏は2021年にアマゾンの最高経営責任者(CEO)を退任している。
4)ベゾス氏はアマゾンの筆頭株主で約8.6%(約9億株)を保有し、今回は2,500万株を売却する方針だが、段階的な売却を進めている。(読売新聞)
●7.米国4月ISM製造業景気指数48.7、関税の影響で5ヵ月ぶりに低水準(ロイター)
●8.GM、通期利益予想を引き下げ、関税の影響は最大▲50億ドル(ロイター)
1)通期純利益は従来112〜125億ドル⇒引き下げ後82〜101億ドルに下方修正した。
●9.米国新規失業保険申請件数+1.8万件増の24.1万件、予想以上に増加(ロイター)
1)トランプ大統領が打ち出すレイオフの増加を示唆している可能性がある。
●10.イーロン・マスク氏、米国政権に「別れ」か、閣議であいさつ(CNN)
1)マスク氏は連邦政府のために▲1,600億ドル(約23兆円)節約したと述べたが、この額は当初の目標の▲2兆ドルを大きく下回る。マスク氏はここ数ヵ月で目標を大きく後退させ、1月には▲1兆ドル削減できれば「素晴らしい成果」となると述べていた。
●11.トランプ大統領、米国GDPマイナス成長は「バイデンのせい」と主張(テレ朝)
1)米国1〜3月国内総生産の伸び率が3年ぶりに年率換算でマイナス成長の▲0.3%となったことを、トランプ大統領は「バイデン政権の責任」だと主張した。
2)トランプ政権が進める関税政策への警戒から、「駆け込み需要」で輸入が大幅に増加したことや、個人消費が減速したことが主な原因。
●12.世界3大投資家ロジャーズ氏、トランプ氏に警告「数年で深刻な問題に」(テレビ朝日)
●13.トランプ氏が貿易関係の再構築に取り組むが、米国の優位性は疑問が生じている(ブルームバーグ)
1)今年に入り、投資家は世界の国・地域に資金を動かしている。ストップ欧州600指数は年初来約+3.4%高、香港ハンセン指数は+9.7%高。一方、米国S&P500種指数は▲5.5%下落している。
2)米国は、トランプ関税で株式市場での「特別待遇」を失う恐れがある。
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)5/1、祝日「労働節」のため休場
2)5/2、祝日「労働節」のため休場
●2.中国商務部、対米国通商協議を検討中と表明、雪解けの可能性示唆(ブルームバーグ)
●3.米国の「高関税」で、中国は輸出にブレーキ(読売新聞)
1)中国「国内消費」を奨励、ネット通販やスーパーに特設コーナー設置。
●4.米国・中国貿易戦争で中国航空会社の「機材調達」に影を落とす(ブルームバーグ)
1)ボーイング機の引き取り延期で、既存機材の温存も。国有3大航空会社の1社である中国南方航空は4/11、10機のボーイング787-8型機と2基のエンジンの売却計画を停止した。
2)中国の航空会社がボーイングに発注し、3月末時点で納入待ちの機材は合計109機に上る。
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)5/1、日経平均+406円高、36,452円
2)5/2、日経平均+378円高、36,830円
●2.日本株:日経平均はトランプ関税による打撃から回復、気になる兆候が散見
1)日経平均はトランプ関税による打撃から回復
・日経平均の推移
3/26 38,027円 トランプ関税発表前の高値
4/02 35,725 トランプ関税発表の前日
4/07 31,136 相互関税発表で下落
5/02 36,830 トランプ関税の緩和発言を好感し上昇
・日経平均はトランプ関税で4/02⇒4/07に▲4,589円下落した。緩和発言などが相次ぎ好感して4/07⇒5/02に+5,694円上昇した。下落幅を上回る反発となり、3/26の直近高値の回復が見えてきた。
・トランプ関税の株価への打撃という点において、米国NYダウとは比較できないほど力強い日経平均である。
回復率の比較(4/02⇒4/07vs4/07⇒5/02)
NYダウ +80.17%の戻り率
日経平均 +124.07%の戻り率
一方、気になる兆候もみられるため、その事項を下記する。
2)日銀の政策金利据え置き決定で、円相場146円まで円安、しかし戻り率は45.3%
・5/2の145円90銭は4/10以来となる3週間ぶりの安値を付けた。
・円相場の推移
3/27 151.00円
4/22 140.36 10.64円の円高、米国トリプル安の影響
5/02 145.18 4.82円の円安、米国関税緩和で円安が進行
・円安に進展したことで、採算改善を見込める自動車株などに買いが入った。
・しかし、円安に振れる率よりも、日経平均の戻り率の方が大きいのが気懸り。円安への戻り率は45.3%に対し、日経平均の戻り率が124.07%と高い。この観点から、日経平均の揺り戻しで下落リスクを懸念する。
3)日本・米国第2回関税交渉が波乱なく通過したことで、買い安心感
・日経平均上昇の要因になった可能性がある。
・売り方の買い戻し。
・海外短期投資家の買い上げ。
・日経平均は4/23からの7連騰で+2,610円上昇しており、海外短期投機筋による売り転換のリスクがある。
4)日本株指数の中で、日経平均だけが突出し、相場全体が盤石ではなく弱さを露呈
・日本株指数の5/2の状況(前日比)
日経平均 +1.04%高(+378円高)
TOPOX +0.31
JPX日経 +0.45
グロース250 ▲0.16安
・東証規模別指数(5/1比の5/2の状況)
大型 +0.39%増
中型 +0.21
小型 ▲0.08
・騰落レシオ(6日)は高値警戒圏(5/2)に位置する。
ストキャストFAST 96
SLOW 95
・株価上昇・下落銘柄数(5/2)では、全体強気でなく、少数銘柄依存の上昇。
値上がり銘柄数 817
値下がり銘柄数 766
5)トランプ政権、自動車部品にも25%の関税を4/3に発動、日本への影響が懸念
6)投資主体者別でみると、海外投資家の買い転換・個人の売り転換が鮮明
・海外投資家の現物株買いは、4月1週から買い越しに転じ、累計1兆1,978億円。
海外投資家の先物買いも、4月3週から買い転換している。
海外投資家の現物・先物買いが、日経平均の上昇を主導している。
・自社株買いを含めた事業会社は、年初からの累計で+2兆9,148億円の買い。
・個人投資家の現金は、3月4週から買い・4月3週から売り転換している。個人(現金)は日経平均が大きく売り込まれた時は「買い」、上昇局面入りで「売り」と素早い対応をしている。
7)日経平均はトランプ関税で大下落⇒完全回復したが、関税交渉は一歩も前進せず
・赤沢大臣がトランプ閣僚と関税交渉をしているが、米国の壁から跳ね返されている情報でしかない。米国というマナ板の上に、ただ乗っけられているようにしかみえない。各国の関税交渉の中でトップだったが、インドや韓国から遅れをとっている。EUは米国に関税ゼロ提案をしている。
・日経平均がトランプ関税交渉から得られる合意形成がないまま日経平均が回復したのには違和感がある。このままでは、
(1)相互関税の基本税率10%
(2)上乗せ14%
(3)自動車・部品25%
(4)鉄鋼・アルミ25%
のすべてが課せられる可能性がある。米国側は(2)の14%を交渉対象とし、日本側は(1)(2)(3)(4)のすべてが対象と主張したバラ色を日本国民に見せている。
・石破首相の胆力と赤沢大臣の企画・交渉力に期待が集まる。
・関税交渉が一歩も見えない状況の中、日経平均だけが上昇したバックボーンが見えない苛立ちを感じる。日経平均の回復が、海外短期投機家にもてあそばれていないことを祈る。
●3.2回目の閣僚交渉で、米国は車・鉄・アルミを除外、日本は反発(時事通信)
●4.米国、自動車部品関税は5/3発動へ、日本の輸出メーカーに打撃 (共同通信)
1)2024年の自動車部品の対米国輸出額は前年比+14.4%増の約1兆2,000億円。自動車は+3.1%増の約6兆円で、自動車と部品の合計額は対米国輸出全体の3分の1を占めた。
●5.トランプ政権が「寄港料」の方針、海運・自動車メーカーに警戒感、実質的に関税(読売新聞)
1)米国トランプ政権が、米国製以外の自動車運搬船が米国に寄港する際に、手数料を徴収する方針を示し、海運会社や自動車メーカーが警戒感を強めている。
2)日本勢は自動車船による運搬で世界の約4割のシェアを持つ。
3)寄港料が徴収されれば実質的に関税と同じ措置となり、価格転嫁せざるを得ない。日本の自動車メーカーの競争力低下につながる恐れがある。
●6.村田製作所、2026年3月期純利益は前期比▲24%減の1,770億円予想(日経新聞)
1)予想は米国の関税政策の影響を十分織り込んでいない前提で、さらなる悪影響も。
■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)
・2175 エス・エム・エス 業績順調
・4004 レゾナック 業績回復期待
・4107 伊勢化学 業績堅調
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