トランプ再登板を選んだツケ…春なのに"クリスマスプレゼント"を買い漁るアメリカ人の異様な現実
2025年5月12日(月)7時15分 プレジデント社
2025年4月27日、アメリカ・メキシコ国境でのトランプ大統領(写真=ホワイトハウス/PD-USGov-POTUS/Wikimedia Commons)
2025年4月27日、アメリカ・メキシコ国境でのトランプ大統領(写真=ホワイトハウス/PD-USGov-POTUS/Wikimedia Commons)
■米誌は「無能の100日」と酷評
2期目のトランプ政権が発足100日を数え、政権に対する批判はかつてなく激しいものとなっている。米ニューヨーカー誌は最新号で「無能の100日」と題した記事を掲載し、トランプ政権の2期目を厳しく糾弾した。
同誌は「失敗は明らかだった」と断じ、トランプ氏が「明確な目的もなく、欧州、日本、メキシコ、カナダとの関係を悪化させ、NATOをさらに弱体化させ、プーチンへの好意をより鮮明にした」と批判している。無計画な関税の実施で世界を敵に回し、軍事面ではロシアに歩み寄ったとの厳しい指摘だ。
当選直後に好調だった支持率も、わずか数カ月で失速した。米ワシントン・ポスト紙の世論調査では、トランプ氏の支持率はわずか39%にまで落ち込んでいる。同紙コラムニストのフィリップ・バンプ氏は、「トランプが選挙後に味わった短いハネムーン期間は終わり、粉々になって風に吹き飛ばされた」と表現した。
ワシントン・ポスト紙はさらに、トランプ政権の現状を厳しく評価している。同紙によれば、トランプ氏の支持率下落は「歴史的に見ても異例」で、「就任から同じ時期にこれほど否定的に見られていた唯一の大統領は、2017年(1期目)のトランプ本人だけ」だという。バンプ氏はトランプ氏の支持率下落が「異常なほど急速」だとも指摘した。
加えて、「トランプの2024年選挙での勝利は、彼が強い米国経済を実現できるという期待に依存していた」と指摘。現状、経済政策への米国民の評価は、移民政策よりも低い水準に留まるとしている。
■支持率急落を「マスコミのウソ」と言い放つ
ワシントン・ポスト紙はさらに踏み込み、トランプ氏に「現実無視」のきらいがあると批判している。
記事は「トランプが現実を無視する姿が最も鮮明になるのは、世論調査結果が発表される時だ」と言及。都合の悪い世論調査の結果ともなれば、「彼は支持者に向け、世論調査も調査実施者も不誠実だと訴え、数字そのものさえ怪しいと言い出す」と指摘する。
実際、トランプ氏は最近、米ニューヨーク・タイムズ紙や米ABCとワシントン・ポストによる世論調査を「フェイクニュース組織によるフェイクの世論調査」と呼び、「選挙詐欺で捜査されるべきだ」とまで発言した。記事はトランプ氏のこうした発言を「明らかに馬鹿げている」と一蹴した。
国内メディアを敵に回すトランプ氏だが、国際政治の舞台でも失態が目立つ。ニューヨーカー誌はトランプ政権を象徴する出来事として、ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領との会談を挙げた。
記事は「トランプは道徳的英雄(ゼレンスキー氏)を恩知らずな悪党であるかのように扱」ったと述べ、信頼を失墜した瞬間を振り返る。
その6週間後、トランプ氏はエルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領と会談している。ニューヨーカー誌はこの場でトランプ氏が、「サディスティックな独裁者(ブケレ氏)を魂の友のように扱った」と指摘。ブケレ大統領はギャングを大量に収容するため厳格な刑務所政策を推進していることで知られる。
会談では笑みを浮かべたトランプ氏が、「刑務所をあと5つ建設してほしい。うちの国のやつらが次に入るから」とジョークを飛ばす場面があった。トランプ氏は3月、ギャング組織のメンバーとされるほとんど犯罪歴のない人々を、エルサルバドルの厳重警備の刑務所に国外追放している。
ニューヨーカー誌は、「(ホワイトハウスの)オーバルオフィスで、これほどまでに吐き気を催す光景を思い出すのは難しい」と酷評している。
■「行動派大統領」と称える熱心な支持層も
批判の声が上がる一方で、トランプ氏の「実行力」に熱狂する支持者も少なくない。米アトランティック誌によると、多くの支持者はトランプ氏の就任初期100日間を「公約実現の過程」と捉え、「全ての政策には賛同できなくとも、少なくとも行動している。何もしないよりはマシだ」という見方が広がっているという。
写真=iStock.com/Alexandre Tziripouloff
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Alexandre Tziripouloff
国境近くの小都市の市長も、移民政策の変化を実感している。米ニューヨーク・タイムズ紙が取材したテキサス州ローマ市のハイメ・エスコバー・ジュニア市長は、「トランプの100日間は良い面と悪い面が混在していた」としながらも、「全体として前向きだった。トランプへの投票は正しかったと今も思う」と語った。
トランプ氏はアメリカの「パイロット」であると例え、信頼を寄せる市民もいる。ペンシルベニア州レディングのハミド・チョードリー氏は同紙に、「彼は飛行機のパイロットだから支持する」と述べ、「たとえパイロットが嫌いでも、飛行機が墜落することは望まない」と説明。パキスタン出身の移民で現在は米国籍を持つチョードリー氏は食料品店を経営しており、「アメリカは一人の政治家より大きい」と国の将来を信じているという。
■悪化する経済指標、海運の新規予約はマイナス45%に
その一方で、経済界には確実に不安ムードが広がっている。トランプ政権の経済政策、特に対中高関税は、すでに市場に混乱をもたらし始めた。
英エコノミスト誌によると、4月9日の関税実施前からすでに、世論調査では消費者と企業の懸念が読み取れたという。同誌はダラス連銀の調査を引用し、経済指標の一つである「製造業の生産量(manufacture's output)」が4月、記録的水準にまで低下したと報じている。
国際物流の状況を示す海運データも、関税の発表に敏感に反応した。エコノミスト誌の分析では、4月14日の週には早くも、中国・アメリカ間の新規航海予約が前年比マイナス45%と大幅に減少。船舶が寄港をキャンセルする「ブランク・セーリング」も全航海数の40%に達している。
企業は関税の回避に必死だ。エコノミスト誌は「多くの企業が関税前に在庫を積み増し」しており、「保税倉庫の需要が急増」していると伝えた。さらに記事は、企業が投資・採用計画を凍結しており、仮にトランプ氏が厳しい関税措置を撤回しても、経済活動の復調には時間がかかると警告している。
■野菜もコーヒーも…買い溜めに走る米消費者
関税への懸念から、市民の間で商品の買い急ぎの動きが広がっている。ニューヨーク・タイムズ紙によると、トランプ政権による対中貿易摩擦の激化を受け、多くの人々が値上げを警戒し、海外製品の購入に走っている。
写真=iStock.com/halbergman
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消費統計がこの傾向を裏付けている。同紙が伝えるアーネスト・アナリティクス社の調査では、カード決済データの分析から、4月2日から7日のアップルでの消費が、直近の平均と比べ20%増加した。同様に、ホームデポでは10%、デパートチェーンのベルクでは18%増加した。
高額商品のみならず、食料品の買いだめも加速している。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、コンシューマー・エッジが集計したデータから、4月2日のトランプ氏の関税発表から5日間で、保存食品の需要が急増。缶詰や瓶詰め野菜は前週同期間比23%増、インスタントコーヒーは20%増、ケチャップは16%増となった。
同紙は「計画的に購入する消費者がいる一方、どの商品が関税の影響を受けるか、企業が実際に値上げするかの不透明さから、備蓄に走る人々も出ている」とするアナリストの見解を伝えている。インフレの加速がようやく和らぎかけたタイミングで、トランプ政権による関税政策が国民の生活を直撃する形となった。
■4月なのにクリスマスプレゼントを買う親
現在はまだ春だが、驚くことに一部の親たちは、今年のクリスマスプレゼントの購入にすでに乗り出しているという。ニューヨーク・タイムズ紙は4月、関税による価格高騰を避けようと、クリスマスプレゼントを8カ月も前から確保しようとする親の事例を報じた。
サンフランシスコ地域の家族向けグループには、「年末に14歳になる息子にiPhoneをあげるつもりだったが、今買っておくことにした。誕生日まで隠しておかなければ」という親の書き込みがあるという。例年9月に新型が出ることを考えると、クリスマスに旧型を受け取る子供の気持ちは察するに余りある。
少しでも節約しようと、親たちはソーシャルメディアで活発に情報交換しているという。同紙によると、フェイスブックのグループやメッセージボードでは親たちが、子どもの希望がクリスマスまでにどう変化するかを苦労して読みながら、現時点でできる買い物について話し合っている。
「年末になっても子どもたちはまだイッカクやユニコーンのおもちゃに興味を持っているか、それともレゴセットのような定番ギフトがいいか」など、移り気な子供たちの8カ月後の希望を先読みしたプレゼントの購入を迫られている。
プレゼント以外に、生活用品への影響も無視できない。最も値上げの影響を受けるのは、これまで安価に購入できた中国製品だ。
米CNNの調査では、テムで販売されているパティオチェア2脚セットが、4月24日から25日までのわずか1日間で61.72ドル(約8900円)から70.17ドル(約1万100円)に値上げされたことが確認された。シーインでは水着セットが4.39ドル(約630円)から8.39ドル(約1210円)へと実に91%も値上がりしている。
専門家らは社会的弱者に対してより負担が大きいと警鐘を鳴らす。最も所得が低い層の家庭は所得比で、標準的な家庭の3倍以上を衣料品に費やしているためだ。UCLAとイェール大学の経済学者の研究でも、関税免除廃止で低所得世帯がより大きな打撃を受けると結論づけている。すでに格差社会といわれるアメリカで、低所得層に厳しい現実がのしかかる。
写真=EPA/時事通信フォト
2025年4月30日、米国カリフォルニア州サンリアンドロ「ターゲット」の玩具コーナー - 写真=EPA/時事通信フォト
■目先の功名心を捨て、腰を据えた政策が望まれる
トランプ政権2期目の船出で、アメリカ社会の溝は一段と深まっている。就任から100日間で、国民の評価は完全に二分された。「無能の100日」から「行動する指導者」まで、評価は鮮明に分かれている。
100日目を過ぎたばかりの現在、まだ政権の出だしに過ぎないものの、歴史的に偉大だった過去の大統領との比較において劣るとの見解もある。ニューヨーカー誌は、「フランクリン・ルーズベルトとバラク・オバマは国家的危機の時代に就任し、全く新しい道筋を切り開く規律と準備、厳格さを備えていた」と振り返る。
2期目最初の100日間は、成果を急ぐあまりの粗が目立った100日間でもあった。ウクライナ戦争を1日で終わらせるとする就任前からの宣言に始まり、それまで友好的だったはずの各国を瞬時に敵に回した関税政策、そして政府機関を混乱に陥れた政府効率化省(DOGE)など。
そんな中、すでにイーロン・マスク氏が政権を去る意向を示し、プーチン氏との信頼関係もまやかしだったことが露呈しはじめるなど、周囲との関係にもほころびが目立つ。熱心な支持層はそれでも、たとえ関税による物価上昇が起きようとも、国のリーダーを信じ甘んじて現状を受け入れている。まだ人々の忍耐が続いているあいだに、今後の政策を立て直せるか。
早急に目先の成果を追ったこれまでの100日間は、功名心に突き動かされた100日間であった。メディアから厳しい評価も飛び出した今、より腰を据えた実のある施策が求められている。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)