「酒、タバコ、高ランクの牛肉を極端に節約する」は絶対ダメ…限られた年金で楽しく暮らす"1週間節約法"

2024年5月13日(月)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hana-Photo

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限られたお金で賢く生活費をやりくりする方法は何か。精神科医の保坂隆さんは「少しでも生活費を切り詰めたいという気持ちがあるのなら、今日からすべてのレシートを持ち帰り品目や金額を読み取ってくれる便利な『家計簿アプリ』でそれを撮影し、『必要だったもの』と『ほしかったもの』の2種類に分類するといい。『ほしかったもの』なら半分程度に減らしても、それほど生活の質や満足度は落ち込まない。ただし、極端に減らすと生活に潤いがなくなり暗い気持ちになるから、やりすぎない方がいい」という——。

※本稿は、保坂隆『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。


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■節約とは「低く暮らし、高く思う」こと


「南海泡沫事件」をご存じでしょうか。


1720年、イギリス(グレートブリテン)で、南海会社を舞台に起こった株価の急騰と暴落、そしてそれに続く混乱を指します。この混乱こそがバブル経済の語源となった事件です。


そう、イギリスでもかつてバブル経済は経験済みなのです。


その当時はバブルに浮かれ、派手さを好んで暮らしていたようですが、賢明なイギリス人はバブル崩壊とともにすぐに派手さや豪華さを求める物質本位の暮らしの空(むな)しさを知ったようです。


イギリスの代表的ロマン派詩人、ワーズワースの『ロンドン1802年』という作品のなかに、「Plain living and high thinking(質素な暮らし、高遠なる思索)」という一節があります。


この詩が書かれた19世紀に、イギリスは産業革命をいち早く成し遂げ、工業化による圧倒的な経済力と軍事力を誇り、世界一の繁栄を謳歌していました。


その繁栄は国民にも浸透し、当時はイギリス人も「バブリーな暮らし」に惹かれていた人が少なくなかったのでしょう。


ワーズワースの詩は、それを鋭く批判しています。


「強奪、貪欲、消費……。これぞわれらが偶像。
われらはこれを崇(あが)むる。
質素なる暮らし、高遠なる思索はすでになく……」

貪欲な態度や消費に走る暮らしからは、高遠な思いは消えてしまう……。


そう詩に詠むことで、ワーズワースは「低く暮らし、高く思う」という精神性の高さを取り戻そうと訴えかけたかったのでしょう。


「Plain living」は直訳すると、「シンプルな暮らし」となります。余分な飾りや余計なものを省いて無駄がなく、でも必要なものは過不足なくしっかりあるという暮らしです。そうした生活のほうが、「人の思い」は高まっていくのではないでしょうか。


ワーズワースの詩の拡大解釈になりますが、バブル経済を経て、過剰なくらい贅沢な消費文化にどっぷりと浸かってきた現在の日本の高齢者は、本格的な老後のただ中にいる今こそ、「Plain living and high thinking」という精神を心に刻み込む必要があるのではないでしょうか。


■定年後は住宅ローンを支払い続けない


国土交通省の「令和3年度 住宅市場動向調査報告書」によると、分譲マンションの平均取得年齢は44.3歳、分譲戸建て住宅の場合は38.4歳となっています。


わかりやすいように、この2つの平均年齢のほぼ中間である42歳で住宅を取得したとして、話を進めさせてもらいます。


月々の返済額が最も少なくて済む35年ローンを組むと、完済年齢は77歳になります。


2021年に改正された高年齢者雇用安定法によって、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務になりましたが、ローンの完済年齢がその7年後というのは無謀な設定と言わざるを得ません。


写真=iStock.com/takasuu
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なぜ、こうした設定をする人が多いかというと、「退職金で住宅ローンを完済する」という腹づもりがあるからでしょう。


しかし、その退職金は減り続けているようです。


そもそも民間企業の退職金の額は、法律で定められているものではありません。経営者の一存や会社の経営状態で増減できるものです。経営が絶好調だったバブル時代と比べると、現在はほとんどの企業で大幅に減っています。


ちなみに厚生労働省の「就労条件総合調査」(令和4年)によると、大卒・大学院卒者が受け取った定年退職金額は、2007年には平均2491万円でしたが、2022年には平均2037万円に激減。つまり、15年間で400万円以上も減ってしまったのです。


その結果、予想していたほど退職金を受け取れず、住宅ローンが払いきれなくなったというケースが増えています。「下流老人」や「老後破産」が増えている原因の多くも、ここにあるといわれています。


では、下流老人になったり、老後破産に見舞われたりしないためには、どうしたらいいのでしょうか。


定年後は、住宅ローンを払い続けずに済むようにすることです。


ローンほど余計といえる荷物はありません。あなたがもし60歳前後なら、それが可能な最後のタイミングだと思います。


多くの企業が定年を65歳まで引き上げています。今後は70歳まで延長される可能性が高いでしょう。


■生活費を削って繰り上げ返済


もし定年の延長が5年だったとしても、すでに子供が独立している可能性は高いでしょうし、若い頃と比べたら食費も減らせるはずです。


こうして生活費を削って繰り上げ返済をしていけば、退職金で住宅ローンを清算できる可能性が高くなります。少なくとも、定年後の返済額を大幅に減らせるはずです。


それでも厳しい場合は「リバースモーゲージ」という手段があります。


これは、金融機関や自治体が自宅を担保にしてお金を貸してくれる金融サービスです。条件はいろいろありますが、不動産評価額の最大7割程度のお金を借りられるため、たいていの場合、これで住宅ローンの完済が可能となります。


もちろん、リバースモーゲージも借金に変わりはありませんが、月に10万円だった返済額が3万円に圧縮できたという例もあります。これなら負担もずいぶん軽くなるはずです。


■買い物のレシートを使って節約する方法


テレビを見ていたら、家計についてのベテラン評論家が、「レシートを必ず持ち帰る習慣をつけましょう」と話していました。


自営業者や個人事業主の場合、確定申告があるので、レシートの持ち帰りが習慣になっていますが、これまで何十年もサラリーマンだった人は、レシートにそれほどこだわりがなく、どうしても「受け取ったら、クシャクシャにしてゴミ箱へポイ」という習慣が抜けないようです。


とくにポイしがちなのがコンビニのレシートだそうで、ある調査によると、コンビニでレシートを持ち帰らない人は、45%近くに上るそうです。


これでは自分が購入したものを改めて確認しようがなく、生活費のやりくりもうまくいかないでしょう。少しでも生活費を切り詰めたいという気持ちがあるのなら、今日からすべてのレシートを持ち帰るようにしましょう。


レシートを持ち帰ったら、使った金額を書き出したり、表計算ソフトに入力して管理するのですが、今までそんな管理をしたことがない人にとっては苦痛かもしれません。


そんなときは、スマホのカメラ機能を使ってレシートを撮影するだけで、品目や金額を読み取ってくれる便利な「家計簿アプリ」があるので、それを利用するといいでしょう。


写真=iStock.com/Eleganza
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eleganza

■「ほしかったもの」なら半分程度に減らせる


品目と金額の入力が終わったら、あとひと手間加えて、買ったものを2種類に分類します。


「2種類の分類」とは何かといいますと、「必要だったもの」と「ほしかったもの」です。


お米や野菜、飲料などは「必要だったもの」、それに対し、お酒やタバコなどの嗜好品や、ワンランク上の牛肉のような贅沢品、さらに衝動買いしてしまったものなどは「ほしかったもの」に分類します。


このように分けてみると、「ほしかったもの」が意外と多いと気づくはずです。「ほしかったもの」というのは、基本的に「我慢しようと思えば我慢できる」ものですから、生活費をやりくりする際にはこちらから減らしていきます。


「必要だったもの」を少しでも減らすと、生活の質や満足度は急激に落ち込みますが、「ほしかったもの」なら半分程度に減らしても、それほど生活の質や満足度は落ち込まないでしょう。


ただし、ここで注意していただきたいことがあります。


それが何かというと、「ほしかったもの」でも極端に減らすのはやめることです。生活には潤いも必要です。無理のない範囲で心がければいいと思います。


第二次世界大戦中には「贅沢は敵だ!」「日本人なら、贅沢はできないはずだ!」「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」などといったスローガンが流布(るふ)しました。これは戦争が長期になると予想され、生活物資が不足したために起きたことなのです。


現代のように物資が潤沢にあるなかで、「ほしかったもの」を削りすぎると、「なんのために生きているのかわからない」「こんな生活をあと何年続ければいいのか……」などという暗い気持ちになってしまうかもしれません。やりすぎには注意しましょう。


■「ホーソン効果」を応用した生活費のやりくり法


日常の生活費を抑えるのはかなり大変なことです。日々苦労しているという人も少なくないでしょう。そんな人に紹介したいのが、「ホーソン効果」という心理を応用した生活費のやりくり法です。


ホーソン効果とは「監視や観測をしていると、その人の行動が改善される」という心理現象で、以前流行した「レコーディング・ダイエット」がその典型例です。


レコーディング・ダイエットは、「○○の摂取を控える」などといったこれまでのダイエット法とはまったく異なり、食べたものと体重を毎日ノートにメモするだけというシンプルなものでした。


簡単ではありますが、「クッキーを食べたら体重が1キロ増えたから、やはりお菓子はやめておこう」「野菜中心の食事に変えたら、体重が2キロ減った」といったように、原因と結果の関係が明確になるので、自然と食生活(行動)が改善されるというわけです。


これを生活費のやりくりに当てはめると、「支出を抑えるためには、買ったものや光熱費をメモしておく=家計簿をつける」のが大切になります。


これが「監視や観察」に当たり、その結果、無駄な買い物をしていると、そのことに気づきやすくなるし、節約もしやすくなる(行動の改善)というわけです。


写真=iStock.com/adamkaz
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■生活費のやりくりはなぜ、1週間単位がおすすめなのか


それに加えて、私は「生活費をうまくやりくりしたければ、週単位で家計簿をつけるといいですよ」とアドバイスしています。


ほとんどの人が、「どうして月単位ではなくて、週単位なのか?」と思うはずです。日本では給料が月単位で支払われることが多いため、「収入・支出も月単位で計算するもの」と思い込んでいる人が多いのでしょう。


しかし、たとえば夏の気温が例年に比べて高いと、大都市圏では7〜9月にエアコン代(電気代)が連続してかなりかかるでしょうし、寒冷地なら冬場の数カ月で暖房費が光熱費の予算をオーバーしてしまうでしょう。


こんなことが続くと、「生活費が一定しないから、やりくりしても無駄では……」という気持ちに傾きがちです。


その点、1週間単位でやりくりする習慣をつけると、確認すべき領収書の量も減るし、生活費の変動幅も月単位よりはるかに小さくなり、何が無駄なのか、すぐに把握できるようになります。


「だんだん寒く(暖かく)なり始めたら、次週の予算は1万円プラス(マイナス)しよう」などと予測もつけやすくなります。


■出ていく金額は小さくするに越したことはない


さらに1週間単位のやりくりに変えると、心理的負担も少なくなります。


目標を切り刻んだほうが気持ちの負担を減らせるのですが、その場合の「目標」は、お金を貯めるときだけでなく、お金を使うときにも使える心理テクニックです。


たとえば、「今月の支出は16万円だ」というのと、「今週の支出は4万円だ」というのでは、心理的負担はまったく違ってきます。現実的には、後者のほうが支出額が大きくなる場合が多いのですが、心理的負担は逆に小さくなります。


「家計簿をつけるのが嫌い」という人にその理由を聞いてみると、「支出の多さにストレスを感じる」と答えるケースが多いようです。


定年後に収入が少なくなると、ますます「支出」という言葉に敏感になり、ストレスを感じるようになりますから、出ていく金額は小さくするに越したことはないでしょうね。


写真=iStock.com/Krisada tepkulmanont
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Krisada tepkulmanont

■限られた年金でも赤字にならない暮らし方


本を出している関係でフリーの編集者ともつきあいがあります。フリーの人は組織の縛りがないので、自分のペースで仕事ができ、腕一本で生きている様子はさっそうと映ります。


ただし、年齢を重ねるにしたがい、見えない苦労が増えていくようです。


もちろん、定年はないのですから、いつまでも仕事ができるわけですが、実際はしだいに仕事が減っていくケースが多いようです。あるいは、そろそろゆったりとした時間を楽しみたいと、あえて仕事を減らしている人もいるようです。


公的年金は国民年金だけ。フリーランサーだけでなく、商店や農業、漁業など自営業の人をカバーする国民年金の支給額は、厚生年金の半分にも満たないレベルで、年金暮らしはかなり厳しいのが実情のようです。


フリーの女性編集者のSさんは、数年前から年金を受給しています。シングルを通した人なので、夫の年金という支えもなく、国民年金一本です。そろそろ自分の時間を楽しみたいと考え、仕事を抑えて趣味の活動を楽しむようにシフトしています。


生活費の予算枠は、現役でバリバリ仕事をこなしていた頃の半分ほどに縮めたそうです。でも、ときどきは旅行も楽しめば、割り勘でお酒を飲むというような席にもよく顔を出します。


■ゴムひもみたいに伸ばしたり、縮めたりして暮らす


あるとき、そうした暮らし上手のコツを尋ねたところ、「赤字はできるだけ早く埋め、長く持ち越さないことが大事」と、明快な答えが返ってきました。このあたりにも、彼女の聡明さがよく表れています。


毎月の生活費予算を日割りにすると、一日に使えるお金はいくら、と出てきます。楽しい誘いなどがあって、その出費枠を超えることがあっても、できるだけ積極的に参加すると決めているそうです。


その代わり、翌日からは超節約モード。


たとえば、冷蔵庫のありあわせで1日か2日すごして支出を抑えたりもしています。こうして短期間に赤字を解消していけば、月単位の赤字はめったに出ないとか。



保坂隆『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)

「毎日の予算枠は決まっているけれど、ゴムひもみたいに伸ばしたり、縮めたりして暮らすんです」と、またしても明快な言葉が飛び出します。


毎日、使ったお金を書き出し、今月は今日までいくら使ったか、合計額も書き出します。こうすると、今月は残り何日ある、予算はいくら残っている。


あるいは、もうこれだけしか残っていないから締めていこう、などと自分なりの調整力が働きます。これも、大きな赤字を出さないためのコツだそうです。


月末にはその月の出費を見直し、不要な出費だったと思えるところには赤線を引いて、しっかり自己反省もしています。


■せめて気持ちだけはおおらかに暮らす


ふだんから節約しているので、毎日、出費を書き出すのにかかる時間はせいぜい2、3分。月末のチェックと反省でも数分程度です。こうした時間を持つようにしてから、赤字を出したことはないと自慢していました。


限られた枠内の年金暮らしだからといって、四六時中、倹約ばかりでは疲れてしまいます。人生はまだまだ長いのです。


行きたいところには出かけていく。でも、その後でしっかり締める……。こんな緩急自在の賢いマネー管理術で、せめて気持ちだけはおおらかに暮らしたいものです。


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保坂 隆(ほさか・たかし)
精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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(精神科医 保坂 隆)

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