メールは最初と最後の2行が9割…すぐ商談が決まる人、何も成果が出ない人の文面の一目瞭然な差

2025年5月17日(土)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

スマホの普及に伴い、「年間に1冊も本を読まない」という人が増えている。そんな中、PRを担当した書籍が次々30万部50万部クラスのヒットになる伝説の人物がいる。QUESTO代表の黒田剛さんは「PRといえば商品説明のリリースを送ること、と考える人が多いが、僕はメール等で一斉にリリースを送るということは絶対にしない」という——。(第1回/全2回)

※本稿は、黒田剛『非効率思考』(講談社)の一部を再編集したものです。


■メディアにリリースは送らない


じつは僕は、リリースを一斉にメディアに送る、ということをしていない。


一般に、新商品が発売されるとき、企業からリリースを各メディアに一斉に送る、という宣伝手法が使われる。


出版社も、新しい本が出るときはリリースを作って各メディアに送る。リリースには、本の内容、発売日、著者紹介、問い合わせ先などが書かれているのが通常だ。「リリースを送る」というのは、PRの王道とも言えるだろう。


効率よくPRしようとすると、リリースの一斉送信という方法になるのかもしれない。けれど、すべての人が同じことを行うと、その価値は下がる。送る側は届けられたと思っていても、結局、相手は見ていないことがほとんどなのだ。


リリースを送ることが悪いわけではけっしてない。ただリリースを送って終わり、では、何もしていないのと同じ、ということだ。


写真=iStock.com/tadamichi
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■「営業のための営業」をしていないか


直接テレビ局を訪ねることも同様だ。


僕も、リリースを持ってテレビ局へ行き、「今度こういう本が出るんですけど、よろしくお願いします!」というような営業もやってみたことがあるが、1回でやめた。「ああ、そこに置いといて」で終わってしまうからだ。


僕が逆の立場だとしても、同じことを言うと思う。「これをやっていても、絶対決まらないな」と思ったのだ。


忙しいテレビ局の人に、「今度こんな本が出るので打ち合わせしてください」と、アポイントを取って会いに行って提案する、というのも非常に難しい。相手の興味を引かない限り、提案する時間を作ってもらえない。


メールを送っても見てもらえない。会いに行っても話を聞いてもらえない。アポイントも取れない。書籍PRとは、これまでやってきたような営業的な営業ができない職業なのだ。


■「相手のお困りごと」にチャンスあり


だから僕が心がけているのは、1件1件オンリーワンのメールをしたり、電話したりすることだ。もちろん、やみくもに1人ひとりに連絡を取っても聞いてはもらえない。


「この本のこのテーマは、あの番組にいいんじゃないか」
「これは、あのディレクターさんが好きそうな企画だな」


そんなふうに、相手に提案する理由を考えてから、1人ひとりに連絡する。


でもそこで提案だけでは終わらない。必ず「今、どんな企画が通りやすいですか?」「今、企画会議で求められているのは、どんなネタですか?」と、メールや電話、そしてできたら取材現場で聞いて回る。まず、番組の「お困りごと」を聞くのだ。


この「お困りごと」を抱えて、著者や編集者との間を駆けずり回って、「解決策」を必死にかき集めて、持っていく。それを何度も何度も繰り返す。


だから「黒田さんの仕事のやり方は非効率ですね」と言われてしまうのだろう。


たしかにリリースを一斉メールするより非効率かもしれない。でも、一斉メールよりも決まる確率がぐっと高くなるので、僕に言わせると断然効率のよい提案の仕方なのだ。


■メールが嫌いなPR担当


僕は、メールを送るのが本当に嫌いだった。それは子どもの頃から、文章を書くのが苦手だったからだ。


講談社で働き始めると、周りは“言葉のスペシャリスト”だらけだった。文章に自信がないため、じつは最初、メディアに提案するメールを送るときも、自分のメールを各書籍の担当編集者に添削してもらっていた。


自分の文章を見られるのが恥ずかしくて、本当にイヤだったけれど背に腹はかえられない。たくさん直してもらってから、ようやくその文面をメールしていた。


けれど、なかなかメディアからの返信というのは来ないものだ。


■「正しい文章」と「伝わる文章」は別物


ある日、いつものようにメールを見てもらおうとしたところ、担当編集者が会社にいなかった。でも、一刻も早くメールを送らなければならなかった僕は、「もう仕方ない!」と開き直って、自分なりに無我夢中でメールを書いて送った。


すると、大きなテレビ番組がいきなり決まったのだ。


そのときに気づいた。「あれ? もしかしたら“用語として正しい文章”と“相手に伝わる文章”は違うんじゃないか?」と。


思えば、編集者に見てもらっていたときは遠慮もあって、自分の考えは書かずに、情報の羅列になっていた。


一方、1人で書いたメールには、本に書いてあることだけでなく、著者から聞いた話や、編集者の意見、そして自分の考えたことをすべて詰め込んだ。


とくに意識したのは、本のよさや著者の魅力を伝えるだけでなく、番組ディレクターさんの立場になって、「どうすれば喜んでもらえるだろうか」「どんな企画であれば興味を持ってもらえるだろうか」といった視点で工夫を凝らしたのだ。


写真=iStock.com/VioletaStoimenova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VioletaStoimenova

■受け取った相手が「使える提案」になっているか


ほとんど自分がしゃべっているみたいに書いた。誤字脱字や、日本語としておかしいところはあったかもしれない。


とにかく、番組ディレクターさんが企画会議でみんなの爆笑を取っている姿を思い浮かべながら、それだけを考えてメールを書いた。


けれどそのメールを見たディレクターさんから返信が来て、「メールありがとうございます。企画通りました! たとえば、他にもこんなこともできたりしますか?」と話が広がっていったのだ。


この経験をきっかけに、僕はメールを送るときはまず、「どうすれば受け取った相手が企画会議を盛り上げられるか」を考えるようになった。


■届ける相手は「生きたヒト」なのだ


必ずしも素晴らしい提案でなくてもいい。相手が知らない情報の共有。素早い返信。クスッと笑える内容。形はさまざまだ。


相手の顔を思い浮かべ、ときにはニヤニヤしながら「このメール受け取ったら、あの人、きっと喜ぶだろうな」と思いながら書くのだ。


それ以降、僕のメールは相手に届きやすくなり、提案する企画がテレビや雑誌、新聞で取り上げられる確率がどんどん上がっていった。


僕がメールを書くときに大切にしていることがある。それは、メディアに取り上げてもらえるようアピールするよりもまず、「黒田さんからメールをもらうと嬉しい」と、相手から思ってもらえるように考えることだ。


言葉を届ける入り口は「メディア」ではなく、あくまでも「人」なのだ。


■行列のいちばん後ろに並ばない


一斉メール送信でリリースを送るのは、一見効率的に見える。でも僕に言わせると、それは、長い行列の最後尾に並んでいるように思えるのだ。


僕の仕事は、その行列に並ばずに、どうしたら直接相手に届くかを考えることだ。


一斉メールにも、もちろん意味はある。とくに「ちょうどその情報を必要としていた」という人には有効だ。


ただ、届いた相手の心を動かしづらいのは「みんなに送ってるんですよね?」と思われてしまうからだろう。


■「オンリーワン」のメールにするコツ


だから僕がメールを書くときに大切にしているのは、相手に「なるほど、だから私に送ってきたんだな」と思ってもらうことだ。



黒田剛『非効率思考』(講談社)

なぜなら、届けなければいけない相手は、パソコンやスマホの画面ではなく、相手の心だからだ。リリースを送ったとしても、受け取った相手の心が動かなければ、行列に並ぶ意味がない。


そこで僕は、メールを送るときには、相手に合わせて1件1件オンリーワンな文章にするようにしている。オンリーワンといっても、まるごとオリジナルにする必要はない。


工夫するのは最初の2行、あるいは最後の2行だ。本題とは別に、2行だけでいいから、相手が関心を持ちそうなトピックをさりげなく話題に入れるのだ。


「今度、東京マラソンに出場します! サブフォー目指してます!」そんなことをメールの最後に書いてみる。すると、「黒田さん東京マラソンに出るんですね! 頑張ってください!」と、普段は返信が来ないディレクターさんから連絡が来たりする。


行列に並ばず、結果的に“割り込み”した状態になるのだ。


■「そのひと工夫」がその他大勢と差をつける


ビジネスだからといってメールにしなければ、とこだわらず、相手によってはLINEやショートメールで送るのが効果的なこともある。つまり、相手の印象に残る届け方を徹底的に考えるのだ。


このひと工夫を手間に感じてしまう人もいるかもしれない。ただ、人と同じことをしていては、人と同じような結果しか得られない。


誰にでも送れる内容は誰にも伝わらない。1人に深く響いた言葉こそが、結果として多くの人に届く力になる


非効率なひと手間をかけるからこそ、他の人との差を生むことができるわけだ。


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黒田 剛(くろだ・ごう)
QUESTO代表
1975年、千葉県で「黒田書店」を営む両親のもとに生まれる。須原屋書店学校、芳林堂書店外商部を経て、2007年より講談社にてPRを担当する。2017年に独立し、PR会社「QUESTO」を設立。講談社の『妻のトリセツ』(黒川伊保子)は、シリーズ累計70万部を超えるヒットを記録。『いつでも君のそばにいる』(リト@葉っぱ切り絵)をはじめとする葉っぱ切り絵シリーズは累計30万部を突破。『続 窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子)は、発売2カ月で50万部突破。その他、KADOKAWA、マガジンハウス、主婦の友社、岩崎書店など、多くの出版社にてPRを担当。非効率ながらも成果を出す独自の仕事術を、セミナーなどを通して伝えている。著書に『非効率思考 相手の心を動かす最高の伝え方』がある。
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(QUESTO代表 黒田 剛)

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