「お弁当の9割は冷凍食品」で何が悪いのか…「味の素や冷食は体に悪い」という人に伝えたい「うま味調味料」の正体
2025年5月22日(木)17時15分 プレジデント社
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■「冷凍食品は体に悪い」は本当?
「冷凍食品は保存料やうま味調味料を大量に使っているから体に悪い」
このような言葉を、あなたも一度は耳にしたことがあると思う。特に、幼少期に親や祖父母から「冷凍食品は手抜き」「栄養がない」「体に悪い」などと言われた経験を持つ人も少なくないだろう。しかし、これは根深い誤解に基づいた、まったくの誤りであると言わざるを得ない。あたかも味の素のうま味調味料に化学薬品が入っているかのような誤解が長年続いてきたように、冷凍食品もまた、不当なレッテルを貼られ続けてきたのだ。
本稿では、冷凍食品にまつわる保存料やうま味調味料への多くの誤解を解き、その真実を明らかにするべく、科学的な知見に基づき、冷凍食品が安全であり、私たちの食生活において重要な役割を果たしていることを、詳細に論じながら、さらに、冷凍食品が抱えるイメージの問題、その背景にある社会的な要因、そして今後の展望についても考察を深めていきたいと思う。
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■冷凍食品に保存料は必要ない
冷凍食品の製造方法と流通をシステムとして理解することは、保存料に関する誤解を解く上で不可欠である。
食品の劣化は、微生物の繁殖、酸化など、さまざまな要因によって引き起こされるわけだが、これらの要因を抑制することが、食品の保存性を高める上で重要となることはお分かりいただけるだろう。
微生物は、水分、栄養分、温度などの条件が揃(そろ)うと、急速に繁殖し、食品を腐敗させる。
そして酸化は、食品中の油脂が酸素と結合することで起こり、風味の劣化や変色を引き起こす。
これらの食品劣化の要因を根本的に抑制する方法として、冷凍は極めて有効な手段と言えるのだ。
食品を急速に凍結させることで、食品中の水分は細かな結晶となり、微生物は活動を停止し、加えて、酸化も抑制されるため、食品の品質を長期間維持することが可能となる。
急速凍結技術は、食品の組織をなるべく壊さずに凍結することで、栄養や味わいといった本来の品質を維持するのに役立ち、マイナス18℃以下での保存・流通は、保存料の代わりとして微生物の繁殖を抑えて腐敗を防ぎ、品質劣化の速度を遅らせる効果があるため、国際機関が定めた経済的な保存温度であるマイナス18℃以下(食品衛生法の規格はマイナス15℃以下)で保存すれば、おおむね1年間は当初の品質を維持することができるのだ。
■そもそも「うま味調味料」とは何なのか
続いて、「味の素」に代表されるうま味調味料について考えてみたい。
うま味調味料という言葉は、しばしば「人工的な」「体に悪い」といったネガティブなイメージと結びつけられる。
しかし、これがそもそもの大きな誤解なのだ。
うま味調味料とは、食品に旨味、甘味、酸味、塩味などの味を付与するために使用される食品添加物のことで、その代表的なものとして、グルタミン酸ナトリウム(MSG)、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなどが挙げられる。
これらの物質は、実は天然にも存在する成分であり、例えば、グルタミン酸は昆布やトマトに、イノシン酸は肉や魚に、グアニル酸は干し椎茸に豊富に含まれている。
つまり、私たちは、日頃からこれらの物質を、天然の食品を通して摂取しているのである。
グルタミン酸は、アミノ酸の一種であり、昆布の旨味成分として知られている。
トマトやチーズなどにも多く含まれており、食品にコクや深みを与える効果がある。
イノシン酸は、核酸関連物質の一種であり、肉や魚の旨味成分である。
グアニル酸も、イノシン酸と同様に核酸関連物質の一種であり、干し椎茸などの旨味成分だ。
■うま味調味料の「旨味」は自然由来のもの
うま味調味料は、食品の味を調える上で、非常に有用な役割を果たしている。
例えば、グルタミン酸ナトリウムは、料理に旨味を付与し、おいしさを引き立てる効果がある。
また、イノシン酸ナトリウムやグアニル酸ナトリウムは、グルタミン酸ナトリウムと組み合わせることで、より強い旨味を生み出す相乗効果もある。
これは「旨味の相乗効果」と呼ばれ、料理の味を格段に向上させるのである。
さらに、うま味調味料は、食品の風味を安定させ、品質を均一に保つ役割も果たしている。
天然の食材は、当然のことながら産地や季節によって、味や風味が異なる場合があるため、それらをうま味調味料で代用することで味のバラツキを抑え、常に一定の品質の食品を提供することを可能としているのだ。
■冷凍食品にうま味調味料はどのくらい使われている?
うま味調味料は食品添加物の一種であり、冷凍食品においてももちろん、必要に応じて使用されることがあるわけだが、その使用量は、食品衛生法に基づき、厳しく規制されている。
食品添加物の1日当たりの許容摂取量は、動物実験で得られた、毎日摂取し続けても健康に悪影響がない量に基づいて、人間の摂取量を推定し、さらに安全性を確保するために1/100の安全率をかけて設定されているため、多数の添加物を日常的に摂取するという状況は現実的とは言えず、アンチ添加物論者の「多くの種類の添加物を摂取するほど安全性が低下する」という主張は、必ずしも妥当とは言えないだろう。
食品衛生法では、食品添加物の使用基準が定められており、添加物ごとに、使用できる食品の種類や使用量が制限されている。
これは、消費者の安全を確保するために、非常に重要な規制である。
■冷凍技術の発達で「不使用」も増えている
例えば、グルタミン酸ナトリウムの場合、使用基準は特に設けられていないが、他の食品添加物との組み合わせや、食品の種類によっては、使用量が制限されることがある。
これは、過剰な摂取を避けるためである。
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冷凍食品メーカーは、これらの規制を遵守し、安全性を最優先に考えながら、製品開発を行っており、原材料の選定から製造工程、品質管理に至るまで、厳格な基準を設け、消費者に安全な食品を提供するために、日夜取り組んでいるのだ。
また、近年では、消費者のニーズに即す形で、うま味調味料の使用を極力抑えた製品や、無添加の製品も増えている。
これは、食品が本来有する素材の味わいや栄養を極力保つことができる冷凍食品だからこそ可能な取り組みであり、また、それは冷凍食品業界の努力の表れと言えるだろう。
■死ぬまで毎日摂取しても悪影響はない
うま味調味料の安全性については、これまで、世界中のさまざまな研究機関で、数多くの研究が行われてきた。
そして、これらの研究の結果、うま味調味料は、適切な量を摂取する限り、人体に影響はないと結論付けられている。(参考:「日本食品添加物協会」)
例えば、グルタミン酸ナトリウムについては、国際機関であるFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)が、一日摂取許容量(ADI)を「特定せず」と評価している。
ADIとは、人が一生涯にわたって毎日摂取し続けても、健康に悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量のことであり、「特定せず」とは、通常の摂取量であれば、健康上の懸念がないことを意味する、最も安全性の高い評価である。
また、日本においても、厚生労働省が、食品中の化学物質のリスク評価を行う独立行政法人の委員会である食品安全委員会による評価結果を踏まえ、グルタミン酸ナトリウムの安全性を確認している。
グルタミン酸ナトリウムに関する研究は、これまで、世界中で数多く行われてきた。
しかし、これらの研究の結果、グルタミン酸ナトリウムが、頭痛、吐き気、しびれなどの症状を引き起こすという明確な証拠は見つかっていない。
つまり、科学的な根拠に基づけば、うま味調味料は、安全な食品添加物であると言えるのだ。
■なぜ誤解は生まれたのか
これほどまでに安全性が確認されているにもかかわらず、なぜうま味調味料に対する誤解が広まってしまったのだろうか。
その原因の一つとして、情報伝達の問題が挙げられるだろう。
科学的な専門用語は、一般消費者にとって理解しにくい場合がある。
例えば、「グルタミン酸ナトリウム」という名称は、化学物質のような印象を与え、不安を感じる人もいるかもしれない。
また、メディアがセンセーショナルな報道を行うことで、誤った情報が広まってしまうこともあり、特に健康に関する情報は、人々の関心が高いため、誇張されたり、誤解を招いたりするような偏向報道がなされる傾向にもある。
さらに、インターネットやSNSの普及により、不確かな情報が拡散しやすくなったことも、誤解を助長する要因となっている。
つまり、情報の信頼性を判断することがいっそう困難になっているのだ。
特に、うま味調味料に関する情報は、インターネット上には、多くの誤った情報や根拠のない噂が飛び交っている。
これらの情報を鵜呑みにしてしまうことで、うま味調味料に対する誤解が深まっていったのだろう。
■冷凍野菜、冷凍果物は栄養価たっぷり
冷凍食品は、保存性だけでなく、栄養価や利便性においても、優れた食品である。
まず、冷凍食品は、旬の時期に収穫された食材を、急速冷凍することで、栄養価を損なうことなく、長期保存することが可能である。
そのため、季節に関係なく、さまざまな食材を手軽に摂取することができるのだ。
野菜や果物は、収穫後、時間の経過とともに、ビタミンやミネラルなどの栄養素が減少していくが、旬の時期に収穫したものを、急速凍結することで、これらの栄養素の減少を最小限に抑えることができる。このため、冷凍野菜や冷凍果物は、生鮮食品と比較しても、栄養価が高い場合がある。
また、冷凍食品は、調理の手間を大幅に削減することができる。
カット野菜や下処理済みの食材、調理済みの食品など、さまざまな形態の冷凍食品が販売されており、忙しい現代人にとって、非常に便利な存在である。
例えば、冷凍野菜は、洗ったり、皮をむいたり、切ったりする手間が省けるため、調理時間を大幅に短縮することができる。
また、冷凍の調理済み食品は、電子レンジで温めるだけで食べられるため、忙しい朝や疲れた日の夕食などに最適である。
さらに、冷凍食品は、必要な分だけを使用し、残りは保存しておくことができるため、食品を無駄にすることがなく、食品ロス削減にも貢献している。
家庭で調理をする際など、食材を使い切れずに捨ててしまったという経験をお持ちの方もおられると思うが、冷凍食品であれば、必要な分だけを解凍して使用できるため、食材を無駄にすることがない。
これは、環境保護の観点からも、非常に重要なメリットと言えるだろう。
写真=iStock.com/adisa
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■原材料の調達から販売に至るまで追跡している
冷凍食品業界は、これまでさまざまな誤解を受けてきたことを踏まえ、消費者の信頼を得るために、品質向上と情報開示に積極的に取り組んでおり、製造工程における衛生管理の徹底、原材料の厳選、品質管理体制の強化などを通して、安全で高品質な冷凍食品を提供している。
例えば、食品の安全性を確保するために、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)という、食品の製造工程における危害要因を分析し、特に重要な工程を重点的に管理することで食中毒などの事故を防止する衛生管理システムを導入したり、原材料の産地や製造方法、栄養成分、アレルギー情報など、製品に関する情報を詳しく開示することで、消費者が安心して食品を選べるように努めていたりもする。
さらにトレーサビリティシステムを導入し、原材料の調達から製造、流通、販売に至るまでの情報を追跡可能にすることで、万が一問題が発生した場合でも、迅速に原因を特定し、対応できる体制を構築したりもしているのだ。
われわれ、消費者の疑問や不安に応えるための涙ぐましい努力の片鱗は、メーカーのSNSやウェブサイト、パンフレットや製品パッケージなどを通して発信されていたりもするので、そういった情報にも目を向けてほしいと思う。
■「保存料・うま味調味料まみれ」は間違い
冷凍食品に関する誤解を解き、正しく理解するためには、インターネットやSNSの情報だけでなく、公的機関や専門家の情報も参考にしながら、消費者自身が情報源を吟味し、科学的根拠に基づいた正しい知識を持つよう心がけることが大切なのだ。
また、食品表示をよく確認し、原材料や添加物について理解を深めることも重要である。
食品表示には、使用されている原材料や添加物の名称、使用量などが記載されているため、これらの情報を確認することで、食品の安全性を判断することができる。
消費者は、食品に関する知識を深め、賢い選択をすることで、より健康的で豊かな食生活を送れるだろう。
冷凍食品業界は、今後も、消費者とのコミュニケーションを強化し、正しい情報を提供し続けていく必要がある。
消費者の疑問や漠然とした不安に真摯に向き合い、わかりやすく丁寧な説明を行うことで、より、消費者とメーカーの強固な信頼関係が構築されていくはずだ。
本稿では、冷凍食品にまつわる保存料やうま味調味料への誤解を解き、その真実を明らかにした。
冷凍食品は、保存料に頼らずとも、冷凍という保存・流通手段によって長期保存が可能である。
そしてうま味調味料は、適切な量を摂取する限り、安全な食品添加物なのだ。
冷凍食品は、決して「保存料・うま味調味料まみれ」などではない。栄養価が高く、調理の手間を削減でき、食品ロス削減にも貢献する、極めて安全で便利な優れた食品であることを、この機会に少しでも知ってもらえたらと思う。
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タケムラ ダイ(タケムラ ダイ)
冷凍食品マイスター
20年以上にわたって冷凍食品を食べ続ける筋金入りの冷凍食品マニア。現在は通算2万食以上の冷凍食品を食べた経験を活かし、冷凍食品のプロデュースやアレンジレシピの考案、食品メーカーや飲食店などのメニュー開発を手掛けるなど、料理研究家としての活動も多岐に及んでいる。テレビやラジオ、雑誌など多数のメディアに出演。著書は『レンジがあればなんでもできる! 早ワザ・神ワザ・絶品レンチンごはん』『1万食の冷凍食品を食べつくしたプロが考えた‼ プラス1食材でバリエーション無限大! 冷凍食品アレンジ神レシピ大全』(ともに宝島社)。2024年2月より、自ら開発した『TOKYO FROZEN CURRY(トーキョー・フローズン・カレー)』をECサイト『タケムラダイ セレクトショップ SELECT 010(セレクト・レイトウ)』にて販売中。
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(冷凍食品マイスター タケムラ ダイ)