生成AIブームに危機、高性能半導体が品不足

2023年6月1日(木)16時0分 JBpress

 2023年に入って一気にブームになった生成AI(人工知能)。だが、その生命線ともいわれる高性能半導体が品薄状態にある。こうした状況で企業各社は、コンピューティングパワーを確保するために奔走している。米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。


生成AIに欠かせない画像処理半導体

 それによると、品薄状態にあるのは、高性能の画像処理半導体(GPU)。GPUは主に画像関連の処理に用いられるが、機械学習や大規模言語モデル(LLM)のトレーニングにも使用される。高度な文章表現やリアルな画像を生成するAIシステムを構築するには、こうした半導体が必要になる。

 ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、高性能GPUは、米エヌビディア(NVIDIA)がそのほとんどを製造している。だが昨今の生成AIブームにより、同社製GPUへの需要は、供給量を大幅に上回っている。

 先の決算説明会で、米グーグルのスンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)は、同社がLLMの運用に自社開発半導体に加え、エヌビディア製GPUも利用していると明らかにした。

 米起業家のイーロン・マスク氏は23年3月、「ChatGPT(チャットGPT)」を手がける米オープンAIと競合する新会社「X.AI社」を設立した。同氏はエヌビディアから約1万個の高性能GPUを購入したと報じられている。


エヌビディア製GPU、供給間に合わず

 ただ、ウォール・ストリート・ジャーナルが23年5月にロンドンで主催したイベントにオンラインで参加したマスク氏は、「現時点でGPUを手に入れることはかなり難しい」と述べていた。

 この状況は、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)や米マイクロソフトなどのクラウドサービス企業が、オープンAIのような顧客企業に提供する計算能力を制限することにつながる。オープンAIのようなAI開発企業は、より複雑になるAIモデルを開発・運用したり、顧客企業にサービスを提供したりするためにも、こうしたコンピューティングパワーを必要とする。

 オープンAIのサム・アルトマンCEOもコンピューティングパワーの確保に苦戦している。23年5月16日、米上院小委員会の公聴会で証言台に立ったアルトマン氏は「現在、プロセッサーの制約があるため、ChatGPTを利用する人は少ないほうがよい」と述べたという。


品薄、少なくとも24年まで続く

 高度な文章能力を持つ生成AIを構築する企業にとって、数万個のGPUにアクセスすることは不可欠だ。LLMは大量の計算能力を必要とするため、これらのGPUがなければ、処理速度が著しく低下する。エヌビディアの高性能GPUは大量の計算を同時に処理できる。生成AIにとっては極めて重要だ。

 スイス金融大手UBSのアナリストによると、ChatGPTの初期バージョンでは、1万個のGPUを必要としていた。マスク氏によれば、最新のChatGPTは、その3〜5倍のエヌビディア製高性能GPUを必要とするという。

 エヌビディアは最近、需要の高まりに対応するために供給を拡大していると説明した。同社のジェンスン・ファンCEOは23年5月29日、国際見本市「台北国際電脳展」(コンピューテックス台北)に合わせて台北を訪れ、最先端GPU「H100」の生産を拡大したと明らかにした。「世界中のあらゆる場所から需要がある」(ファン氏)という。

 だが、GPUへの強い需要は業界全体に及んでおり、確保が難しい状態がしばらく続くとみられている。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、多くのAIスタートアップ企業の創業者らは、少なくとも24年まで品薄が続くと予想している。

 (参考・関連記事)「イーロン・マスク氏、ChatGPT対抗のAI会社設立」

筆者:小久保 重信

JBpress

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