軍事偵察衛星の種類と性能、その運用方法を徹底解説

2023年6月10日(土)6時0分 JBpress

 北朝鮮が「偵察衛星を打ち上げる」と発表したとき、その衛星は、米国や日本と同レベルの衛星で、あたかも韓米日軍の動きを常時監視できる、特に米空母の動きを追跡できるかのように報道したメディアがあった。

 本当だろうか。

 実際に偵察衛星を使って敵軍の動向を解読するには、偵察衛星そのものの能力、種類とその数、その他の衛星との連携、解析員の能力、電波情報との連携などが必要である。

 ただ、北朝鮮が自らが言う「偵察衛星」を打ち上げるレベルに達していることは、核を保有していることを考えれば、脅威となっているのは事実である。

 そこで、日本の安全保障の観点から、北朝鮮が次回打ち上げる「偵察衛星」が現実にどのようなものかを知る必要がある。

 そのため、北朝鮮の偵察衛星開発の経緯を踏まえ、どのような偵察活動ができるのか、また、それを解明するために何をポイントに注目すればよいのか、などを考察する。


1.北朝鮮の偵察衛星開発

 北朝鮮は2021年1月の党大会で、次の5年間で国防力発展5大重点目標の一つである軍事偵察衛星の運用実現を目標に掲げた。

 2022年12月18日に「火星12号」とみられる弾道ミサイルを2発発射し、20メートル分解能試験用カラー撮影機を含む3台の撮影機を高度500キロまで打ち上げて写真を撮影し、2枚の映像を公開した。

 その写真を解析すると、解像度が20〜100メートルであった。

 火星12号が運搬できる撮影機は、ロケットが搭載できるペイロード500キロの範囲内の機材に限定されたものだ。

 このことから、今後登場する本格的な衛星ではなく、名称がつかない初期実験用だったかもしれない。

参照:JBpress『北朝鮮が偵察衛星の画像公開、その技術力を徹底検証』(2022.12.26)

 北朝鮮は、2023年(今年)1月1日の朝鮮労働党の大会で、「偵察衛星を短期間で打ち上げる」「その運用を実現する」「2023年の4月までに偵察衛星1号機の準備を完了する」と発表していた。

 また、「気象観測衛星、地球観測衛星、通信衛星を開発する。宇宙強国建設のための衛星発射場を建設すべきである」と強調した。

 その中でも、「宇宙偵察能力の保有が我が国家の防衛力建設の最も重要な先決課題」としていた。

 そして、連続的に複数の偵察衛星を多角的に配置して、衛星による偵察情報収集能力を構築すること指示した。

 北朝鮮は5月31日午前6時27分に、軍事偵察衛星「万里鏡1号」を新型衛星運搬ロケット「千里馬1型」に搭載して打ち上げた。

 だが、第2段階のエンジンの始動異常によって推進力を喪失し、黄海に落下したことを発表した。

 北朝鮮が失敗を直ちに認めるのは異例である。

 ミサイルではなく衛星(軍事用ではある)であること、失敗を韓国・日本などから明かされることを避けるため、また再発射を準備していることなどから、早々の発表に出たのだろう。

 とはいえ、ロケット打ち上げに自信を付けたことは事実だ。


2.北朝鮮が打ち上げる偵察衛星の種類

「偵察衛星」という名称の衛星を打ち上げたからと言って、狙っている情報を直ちに入手できるとは限らない。

 偵察衛星によって解析できる情報は、衛星の種類、解像度、通過地点、高度、滞空期間、滞空している衛星の数、地上基地までの情報伝達の手段、解析員の能力などよって、判明する詳細・深さが異なる。

 北朝鮮の偵察衛星の能力を解明するために、偵察衛星の種類、仕組みなどについて解説し、北朝鮮偵察衛星の情報収集能力がどのレベルなのかについて分析する。

偵察衛星の一般的分類と特性

 偵察衛星について、大きく3つに分類して説明する。

①「光学衛星」の能力と見えるもの

 宇宙空間から望遠レンズで写真を撮影したものと同じで、画像情報収集衛星の一つである。

 無人機であれば、同様の写真を継続的に撮影できるが、欠点として、発見されて撃墜される可能性が高い。

 一方、衛星の場合は、撃墜(キラー衛星からの攻撃)される可能性は極めて低く、同じ地点を1日に1度程度撮影できる。

 偵察衛星の解像度(分解能)を日本の偵察衛星を例に紹介する。

 古い年代から列挙すると、1〜数メートル(道路・大きな建物・船舶を識別)、60センチ(小さな建物、戦闘機と爆撃機の違いを識別)、40センチ(車が2つの点で見える)、30センチ(大型車と小型車の違いを識別)、さらに30センチ以下(火砲・戦車などを解明)、と逐次レベルアップしている。

 解像度が30センチ以下であれば、光学衛星は地上部隊の基地・駐屯地内の車両、空港の軍用機、港の艦艇、核実験場の概要と準備状況、核施設の概要と核開発の推移、ミサイル基地などを概ね解明できる。

 10センチであれば、人を見た場合、上から見るので人の頭が黒い点で見える。人の形は、影があれば、それが見えることもある。

 ウクライナ軍が200キロ以上離れた目標に対して、英国が供与した空対地ミサイル「ストーム・シャドウ」を撃ち込んでいるが、それに必要な情報は、衛星から得られたものであろう。

「ストーム・シャドウ」発射のための情報の流れ(イメージ)

(図が正しく表示されない場合にはオリジナルサイトでお読みください)

 かつて、偵察衛星がイラクのフセイン大統領や金正恩委員長を24時間、常時追いかけているという情報があった。

 しかし、この情報は光学衛星の解像度と常に地球を周回(1周約97分、時速7.5キロで移動)していることから不可能であることが分かる。

②電波を放射して物体の画像を収集する「レーダー偵察衛星」

 レーダー波を照射して地面や海面上の兵器などの形状を認識、写真として撮影したもので、画像情報収集衛星の一つである。

 同衛星の解像度は、日本の衛星を例で紹介すると、当初1〜3メートル(船舶にモザイクがかかって見える)だったが、1メートル(船舶の種類が判別)、50センチ(潜水艦が浮上すれば判明)、50センチ以下と向上した。

 港を出入する艦艇、海岸に接近する特殊挺、空港内の航空機、地上に集中する大部隊の位置を解明できる。

 運用にもよるが、敵が夜間に行う特異な動きの一部、例えば特殊潜航艇の夜間上陸作戦などをキャッチするのに適している。

 レーダーを使用するために雲の影響を受けにくいが、光学衛星よりも解像度が低い。

 そのため、画像は鮮明ではなく、写っている形状は軍艦・軍用機らしきものとして存在は分かるが、モザイクがかかっているような見え方になる。

 レーダー偵察衛星の機能を向上させた合成開口レーダー衛星(SAR)がある。レーダー偵察衛星よりも解像度が高いとされている。

 北朝鮮の場合、電子戦機・早期警戒管制機・対潜哨戒機・電子解析機関などを保有していないことから、電子戦能力は低いと考えられ、レーダー偵察衛星を製造することは、現段階では不可能であろう。

③レーダーなどの電波を収集する「エリント衛星」

 電波を収集する衛星は、シギント(通信情報)とエリント(電子情報)に区分される。

 実際には、主にエリント衛星が運用されているので、エリント衛星を紹介する。

 エリント衛星は、電子情報を収集するものである。

 電子戦機と同じ機能であるが、電子戦機の方は、レーダーなどの電子情報を収集するため、敵に接近しすぎて撃墜される恐れがある。

 一方、衛星の場合、敵国の真上を飛翔しても、宇宙空間であるために撃墜される可能性は少ない。

 3基で3角形の形を保ったまま飛翔する中国のヤオガン衛星は、艦艇が発する電子情報を収集し、その艦種と位置を特定できると言われている。

 実際には、中国が艦を特定できるほど電子情報解析ができているのかは不明だ。とにかく、艦艇が電波封止していれば、艦艇の位置は捕捉できない。

ヤオガン衛星が米空母の位置を特定する動き(イメージ)

 電子情報収集・解析には、衛星が収集した電子情報を分析できる特殊な機器と要員の能力が必要である。ロシアが、ウクライナ侵攻で電子戦に敗北していることは、米欧のレベルではないことを証明している。

 北朝鮮の場合、電子情報収集機を保有していない。つまり、電子情報収集と解析能力はない。エリント衛星を製造することは、現段階では不可能である。


3.今後打ち上げる偵察衛星の能力

 再び打ち上げる偵察衛星の能力は、北朝鮮が2022年12月に打ち上げたロケットが撮影し公開した写真から判断すると、この写真よりも優れた能力と考えてよいだろう。

 レーダー偵察衛星やエリント衛星は光学衛星を補完するものであるが、レーダー撮影能力やエリント解析能力を必要とするので、北朝鮮の軍事技術レベルでは、米国や日本にはまだまだ到達していない。

参照:JBpress『北朝鮮が偵察衛星の画像公開、その技術力を徹底検証』(2022.12.26)

(1)光学衛星の解像度と撮影範囲

 光学衛星は一般的に、広い範囲を撮影すれば解像度は粗くなって下がり、狭い範囲を撮影すると解像度は高くなる。

 1990年前後の旧ソ連の偵察衛星には、高解像度と中解像度のものがあった。

 広い範囲を撮影していた中解像度のものは解像度が悪く、狭い範囲を撮影していた高解像度のものは高い解像度であった。

 中解像度衛星で広範囲のエリアを映し、高解像度では焦点となるエリアを映すという運用をしていた。

 偵察衛星は、当初設計された解像度で固定され、高度を変更することによって解像度を変化させている。

 地上からのコントロールによって、解像度が変更されることはない。

 映像を地上に送るには、1990年当時では、撮影が終了すると、フィルムをカプセルに入れて、特定の基地に投下していた。

 現在では、フィルムではなく映像を直接地上に送信するか、通信衛星を中継としてデータで送信している。

 私は、2022年12月に北朝鮮がソウルを撮影した写真の解像度は、20〜100メートル以上であると分析した。

 中国の光学衛星の解像度は、4.5〜0.8メートル、0.8〜1.0メートル、0.1メートル(米国は、10〜30センチ)、SAR(synthetic aperture radar=合成開口レーダー)の解像度は数メートル〜数十メートル(米国は1〜3メートル)とする情報がある。

 日本の衛星については前述の通りだ。解像度については秘密性が高く、公開されているこれらのデータが絶対に正しいとは言い切れない。

 2022年12月には、火星12号で打ち上げ、今回は「火星15号」ICBMで打ち上げた。

 この2つのロケットのペイロードは〜1.5倍とされているので、今回は比較的大型の衛星であった可能性がある。

 前回のものよりも、解像度は上がっているとみてよいだろう。

 とはいえ、中国の4.5〜0.8メートル、日本の初号機の1〜3メートルよりも、精度は低いと考えてよいだろう。

(2)光学衛星情報について必要な解析能力があるか

 衛星の写真を見て、重要情報を抜き出すには、長期間の経験とその他の情報源からの情報を重ね合わせることが必要である。

 例えば、原子炉の建物の内部構造を知るには、地下の基盤造り、建物のつながりとなる溝、電線の繋がり、部屋の間切り、機材の搬入、建物の完成、危機による建物の熱放出、完成後に搬入される原料などを見る必要がある。

 さらに、原子炉の知識を重ね合わせなければならない。

 核実験場を知るには、行動掘削の土量、掘削後の掘削工具の配置、坑道のチェック、核兵器の搬入、監視機器の搬入、電気系統の構築、監視施設の建設、関係者の見学、VIPの視察など一連の動きがある。

 これらの動きから、核実験を実施するのかどうかを判断するのである。

 飛行場であれば、駐機している機種(戦闘機・爆撃機・ステルス機など)の解明、新たな機はあるのか、駐機場にあるもの、坑道内の施設の場所と退避している機、飛行場に新たな施設が建設されたか、その狙いは何か、軍用機は、本物かダミーかが分からなければばならない。

 これらは各国共通であることが多い。そのため、1か国だけではなく、あらゆる対象国を見ることも必要だ。このことにより、武器移転のことも分かる。

 撮影した写真から多くの重要な情報を抜き取るには、解析員の長年の経験と知識、さらに電波情報や関係する専門的知識と重ね合わせることができなければならない。

(3)遠距離離隔目標情報の伝達には通信衛星が必要

 北朝鮮が、韓国の情報、特にソウルや米韓連合司令部がある平沢の写真情報を入手するには、衛星から直接北朝鮮の地上局に伝送すればよい。

 だが、朝鮮半島から離れた日本の沖縄、グアム、ハワイ、アラスカの情報を入手するには、写真撮影のほかに、情報を伝える通信衛星(地表面から3万6000キロ)を打ち上げて、情報を中継し伝送する機能が必要である。

 例えば、北朝鮮の偵察衛星がグアムやハワイの軍事基地の映像を撮影したとする。

 そのとき、瞬時にこの情報を北朝鮮地上局に送るには通信衛星が必要である。通信衛星がなければ、衛星が自国の位置に戻るまで何時間もかかるだろう。

 北朝鮮は国土が狭小なので、衛星から本国の地上局に情報を伝送する場合、指向性が良くない場合には情報伝播が広範囲に広がり、韓国に情報が落ちて、拾われる(盗まれる)ということになる。

 そうなれば、北朝鮮がどの地域の写真を撮影したのかという情報を暴露することになってしまう。

 韓国はすでに、傍受用のアンテナと解析チームをつくる計画と準備に取り掛かっているだろう。これが、現実の情報戦だ。

(4)衛星情報と各種情報(特に電波情報)との連携がなければ未完成

「戦車〇〇両、火砲〇〇門が、△△に集結している」といった兵器の存在だけの情報を知っても、その意図が読めなければ、情報の価値は半減する。

 敵の意図を知るためには、偵察衛星情報、電波(電子)情報、ヒューミント情報を重ね合わさなければ、十分には解明できない。

 ウクライナの戦いで頻繁に行われている対レーダーミサイルの射撃の例を紹介する。

 偵察衛星で、数日前に敵の防空レーダーやミサイルの位置を解明したとする。その位置に対地ミサイルを発射しても、ミサイル発射直前に場所を変更していれば、目標は破壊できない。

 対レーダーミサイルを目標に命中させるには、偵察衛星で防空レーダーなどの位置を解明し、防空レーダーの電波を事前に収集し解析を完了しておくことが必要だ。

 戦闘機がその電波をキャッチすれば、対レーダーミサイルを発射する。そして命中させる。

 各種情報を重ね合わせ、そして戦闘機などの攻撃部隊と連携することが、情報を有効に使用するということになる。

 敵の指揮所らしき建物を偵察衛星でキャッチしたとしても、その情報が事実であるかどうかを知るには、電波情報と照合する必要がある。

 北朝鮮は、電波(電子)情報収集能力、電子戦能力はまだ低く、各種情報を含めた統合作戦レベルには至ってはいないであろう。

(5)各衛星の数年の滞空期間と常時3基の衛星が必要

 偵察衛星を打ち上げて、それを宇宙空間(高度約600キロ前後)に何日間留めておくことができるのだろうか。

 偵察衛星の高度は、600キロ前後で飛翔しているが、時間が経過してくると、地球の引力に引き付けられて落下してくる。

 低い高度に落下してくると、噴射をして軌道を変え、高度を元の位置に戻す。

 解像度を上げるために高度を下げて撮影を行う場合もある。

 低い高度のままだと落下するので、噴射を行い高度を戻す。噴射するための燃料がなくなれば、落下を続けて、最終的には大気圏内に突入して燃え尽きる。

 では、具体的にはどうなのか。

 ロシアの衛星は、1990年頃は、1か月のもの、3か月のもの、半年のものがあった。

 中国の偵察衛星の初号機は、1週間ほどで落下した。両国ともその後、滞空期間が長くなってきた。

 現在では、数年間は、宇宙空間に留まり続ける。

 近く打ち上げる北朝鮮偵察衛星の寿命はどれほどだろうか。

 1週間、数週間、数か月、数年だろうか。私は、1週間ほどだろうとみているが、初号機で数か月間滞在すれば、偵察衛星の打ち上げは成功であると言えるかもしれない。

 北朝鮮が近々打ち上げれば、その周回と滞在期間を調べれば分かる。


4.解像度と滞空期間が注目点

 北朝鮮が欲しい情報は、朝鮮半島から遠く離れた米軍の動きと韓国にある反撃能力だ。

 米軍については、在日米軍、グアム・ハワイ・アラスカの米軍、特にその基地のステルス戦闘機と爆撃機および接近してくる空母の情報だろう。

 韓国所在の米韓軍については、戦闘機・弾道ミサイル部隊の情報だ。

北朝鮮が考える偵察衛星の運用(イメージ)

 半島から遠く離れた米軍の情報については、通信衛星を同時に打ち上げ、中継機としなければ、リアルタイムの情報は得られない。

 韓国のソウルや平沢付近の偵察するのであれば、無人機とあまり変わらない。ただ、衛星だと撃ち落とされる可能性が低いので、在空期間が長ければ、長期間の偵察が可能だ。

 そこで、北朝鮮の偵察衛星がまともなレベルのものなのかどうか、次の点に注目すれば、その能力は判明する。

①北朝鮮は、宇宙空間に何日滞在させられるか。数機を滞在させて、常時滞在させておくことができるだろうか。

②偵察衛星の写真の解像度はいくらか。北朝鮮が公開する写真を見れば分かる。米国・日並みの能力を保持できるか。

③通信衛星と連携する態勢を作り上げられるか。

④レーダー偵察衛星、エリント衛星などを連動させて打ち上げるのか。

 北朝鮮偵察衛星の実力については、実際に打ち上げたとき、前述のことに注目して解析すれば、すぐに判明することだ。

筆者:西村 金一

JBpress

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