戸籍証明書を取得しようとして知った、マイナカードが全く役に立たない現実

2023年8月13日(日)6時0分 JBpress

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次いで発覚している。

 そうした中でマイナンバーカードが現状でどれだけ役に立たないか、私がつい最近体験したあまりにバカバカしいエピソードを披露してみたい。


マイナカードがあれば戸籍証明書もコンビニで取得できるはずなのに…

 個人的な事情から戸籍を証明する書類が必要になった。8月に入ってからのことだった。

 マイナンバーカードはすでに取得済みだ。これさえあれば、近所のコンビニエンスストアで戸籍証明書(戸籍謄本・抄本)や住民票の写しは取得できるはずだった。役所の窓口で交付されるより、手数料も安く済む。

 ところが、本籍地を置く東京23区の区役所のホームページを覗くと、マイナンバーカードを利用したコンビニ交付サービスで取得できる証明書は「住民票の写し」「印鑑登録証明書」、それに「特別区民税・都民税課税(非課税)証明書」「特別区民税・都民税納税証明書」だけしかなかった。

 おかしい。国の説明やネット上の宣伝では「戸籍証明書」も取得できるはずだ。

 そこで区役所の担当部署に電話で問い合わせると、同区では戸籍謄本や抄本のコンビニ交付はできないと言われた。理由を尋ねると「わからない」と電話口の女性が答えた。だから、区役所もしくは出張所に出向いて取得するしかない。その場合の注意点として、こうも言われた。

「お越しになられる場合には、本人確認のために運転免許証、もしくはマイナンバーカードをご持参ください」

 これでは、なんのためのマイナンバーカードなのか、理解に苦しむ。


結局窓口で申請書に記載

 都内は連日の猛暑が続いていた。熱中症対策が叫ばれ、不要不急の外出は控えるようにメディアも注意喚起している。その中で、近くのコンビニよりも、もっと離れた区役所まで出かけなければならない。しかも午後5時には役所の受付が終わる。

 炎天下、汗を拭いながら目的の区役所に到着。窓口の前には案内係が立っていて、用件を尋ねられる。戸籍証明書と住民票の写しが欲しい旨を伝えると、書類を2通取り出して、ここに必要事項を記入するように指示された。それぞれを請求する用紙だ。

 そこに氏名を書き、カナをふり、住所を書き込む。それも2通分だ。本籍地を書き込む欄まである。さらに請求しているのは本人かどうか、欲しい書類の種類まで細かく選択する。

 おかしい。マイナンバーカードがあれば、こんな手間など必要ないはずだ。

 さらに、住民票の写しを求める書類の裏にも記入欄があって、入手した住民票の写しをどのように利用するのか、目的を書くように、と案内係の年配の男性が催促してくる。コンビニ交付サービスを利用したら、そんな必要はないはずだ。なぜ、いまさらながらにそんなことが必要なのか。

 それから受付番号札を引いて、窓口に呼び出される順番を待つ。窓口は混み合っていて、用意された椅子も満席。やむなく立ったまま待つ。


マスクを外させ「はい、結構です」

 ようやく自分の番号が呼ばれ、窓口に書類を提出すると、「本人確認できるものを提示してください」と言われた。そこで私は、マイナンバーカードを差し出す。

 すると受付の女性職員はマイナンバーカード記載の氏名や住所を指先確認しながら、手書き書類の記入に間違いがないか、ひとつひとつ欄外に小さくチェックを入れて確認していく。

 そして圧巻だったのは、最後に女性職員がこう言ったことだ。

「マスクを外してください」

 私はその時、マスクをしていた。それを外させて、マイナンバーカードの写真と私の顔を照会するのだ。指示に従いマスクをとると、一瞥して「はい、結構です」とだけ言った。

 どう考えても、おかしい。マイナンバーカードの目的は、そういう使い方をするものではなかったはずだ。それだったら、既存の紙の健康保険証に顔写真をくっ付けても同じだ。その方が、よっぽど混乱せずに済む。

 少し不愉快でもあったので、なぜこの区ではコンビニ交付サービスで戸籍証明書が取得できないのか、理由を尋ねてみた。住民票の写しだけだったら、こんな手間もなかった。

 すると女性職員が言うには、全国どこの自治体でも共通して戸籍証明書や住民票の写しを取得できるシステム整備を優先していて、この区ではコンビニ交付サービスの拡充が遅れている、とのことだった。

 これが、いまあるマイナンバーカードの現実だった。まったく国が説明する住民サービスが行き届いていない。


ポイントばら撒きでカード普及させたのに政府のDXが全く追いついていない現実

 こんなことで来年の秋までに、いまの健康保険証を廃止してマイナンバーカードとの一体化が実現できるのか、甚だ疑問だ。

 しかもコンビニ交付サービスを利用すれば、住民票の写し1通の手数料が200円で済むところを、区役所の窓口では300円も取られた。手間がかかって代金が嵩むことなど、やはりおかしい。

 それも炎天下を区役所まで行くのに、往復の交通費もかかる。近くのコンビニまでなら、歩いて数分で済む。

 役所に行ったところで、交付までに時間がかかって待たされる。職員にしたって、手間が省けて仕事の効率化が進むためのマイナンバーカードとDX(デジタルトランスメーション)のはずだ。どう考えても、おかしい。

 マイナポイントをばら撒いて、マイナンバーカードの取得を急がせたのはいいが、その挙げ句にトラブルの発覚が相次ぎ、現状の住民サービスとDXが立ち遅れている現実。マイナンバーカードがただの本人確認証としてアナログ利用されている間抜けぶりには、がっかりもした。説明され、期待していたものとは違う。むしろ、政府の説明には現実が伴っていないことを知る、いい機会となった。

 繰り返すが、これで来年の秋までにマイナンバーカードと健康保険証の一体化が実現できるのか。政府の説明は信用に値するのか。

 マイナンバーカードをめぐっては、もっと厳しい視線を注ぐ必要がありそうだ。

筆者:青沼 陽一郎

JBpress

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