アマゾンの梱包改革、「段ボールを減らせ」

2023年8月18日(金)16時0分 JBpress

 アマゾンは自社のロゴ入り段ボール箱を使わず、メーカーの商品パッケージのまま顧客宅に届ける取り組みを進めている。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、米国全土で何百万件もの注文が、追加の梱包(こんぽう)なしで顧客の玄関先に届けられているという。


梱包・イノベーション担当副社長が主導

 目的は梱包・包装資材や配送コストの削減。同社が推進している配送プロセス刷新計画の一環で、これまでの取り組みを一歩先に進めたものだという。

 顧客は毎週、大量の段ボール箱を受け取っては処分している。アマゾンのアンディ・ジャシーCEO(最高経営責任者)は、こうしたことにうんざりしている顧客にアピールできると期待しているという。

 アマゾンは2023年、同社初の梱包・イノベーション担当副社長としてパット・リンドナー氏を採用した。同氏は、「多くの上級リーダーが認識しているのは、これがますます重要になっているということだ。当社は梱包の分野で次のイノベーションに進む必要がある」と述べている。

 アマゾンによると、現在は電子商取引(EC)商品の約11%を、追加の梱包をしない、同社が「商品パッケージで配送(ships in own container)」と呼ぶ状態で届けている。顧客は、注文時に追加の梱包を希望するかどうかを選択できるという。

 ただ、これには課題が残っているとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。例えば、アマゾンは、そのまま出荷できる強度がある商品パッケージを開発してもらうよう、メーカーを支援する必要がある。その際には、本来の目的を損なうような追加の素材を用いないことが重要となる。そこで、アマゾンはメーカーなどとの強力な関係を活用して強度の改善を促している。加えて、省梱包化した出品者に対し報奨金を支給している。


物流効率化策が省梱包化に寄与

 一方、アマゾンはこの取り組みを、物流の効率化に向けた改革の次のステップと位置付けている。同社はかつて米国内の配送網を「ハブ・アンド・スポーク」と呼ばれる、集中型の全国モデルで運営していた。顧客が望む商品は例えコストがかかろうと全米規模で移動していた。だが過去1年でこの方式を改め、リージョナリゼーション(地域化)を進めた。

 具体的には、全米の自社物流網を8つの地域に分割し、地域それぞれで自己完結できるオペレーションに切り替えた。これにより、顧客に最も近い倉庫から出荷できるようにした。商品は、特別な場合を除き各地域間を移動しない。

 これにより、ラストマイルと呼ばれる、倉庫から顧客宅までの商品移動距離を従来に比べ15%縮小した。ミドルマイルと呼ばれる倉庫間移動における荷物取り扱い回数(タッチポイント)は12%減少した。あらかじめ適所に在庫を移動しておけば、注文から配達までの時間が短縮され、コストも抑えられる。

 これは、物流ネットワークを過去数年で急拡大したことによる効果だ。アマゾンは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴うECの需要増で事業を急拡大してきた。従業員数を2年間で2倍に増やし、フルフィルメントセンター(発送センター)やソートセンター(仕分けセンター)、デリバリーステーション(宅配ステーション)などの物流ネットワークも2年でほぼ2倍に拡大した。

 しかし、パンデミック下の巣ごもり需要が一服するとアマゾンの成長は鈍化。これら増えすぎた物流資源が経営の重しになった。そこで前述したリージョナリゼーションを進め、物流の効率化を図った。

 リンドナー氏によれば、この物流効率化策の成功が新たな取り組みである省梱包化に役立っている。商品の移動距離が短いほど、追加の梱包なしでの移動が容易になるからだという。


シアトルにパッケージの研究・実験施設

 アマゾンは追加梱包なしで輸送を実現するための商品パッケージを研究している。米ワシントン州シアトル本社近くの施設では、AI(人工知能)を活用することでシステムの改良を図ったという。この施設では現在、さまざまな商品パッケージを対象に計19種の加圧、振動、落下試験を実施している。

 リンドナー氏は、「ワイングラスなど、これまで可能になるとは思わなかったようなものでもパッケージデザインでできることは多くある」と述べている。ただ、レコード盤のような一部の壊れやすい商品については、追加の梱包をなくす方法をまだ見つけていないという。

 一方、ウォール・ストリート・ジャーナルは、「アマゾンは、近所の人が見ることになる巨大なトイレットペーパーの箱などは玄関先に置かれたくない、という顧客にも配慮しなければならないだろう」と報じている。

筆者:小久保 重信

JBpress

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