前田公輝「初の座長も自然に入れたのはキャストのおかげ。稽古はシャツにネクタイ、サラリーマンの出勤気分を味わいました」

2025年2月8日(土)10時0分 婦人公論.jp


 (撮影:藤咲千明)

韓国のウェブコミック・WEBTOON(ウェブトゥーン)発の大ヒット漫画『ミセン』。2014年度には韓国のドラマ賞を総なめにし、「ミセンシンドローム」と呼ばれる社会現象を起こした大ヒット作だ。日本では2016年よりピッコマにて連載され、同年、フジテレビでもリメイクドラマが放送された。この国境を越えたヒット作が、日韓のトップクリエイター陣によってミュージカル化、大阪で初演の幕が開いた。脚本のパク・へリムによって豊かな人間ドラマが描かれ、チェ・ジョンユンによる耳に残る音楽がそれを彩る。オ・ルピナによる演出と、KAORIaliveによるダンスが融合し、大人の心にリアルに刺さる作品として完成した。
東京公演が2月6日に開始、主演の前田公輝さんに話を聞いた

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座長のプレッシャーよりも好奇心が勝っていた


——ミュージカル初主演ということで、座長としてのプレッシャーはありましたか?

座長として現場をどう作るか、最初考えたのですが、キャストの皆さんのキャラクターと役がかなり合致しているということもあって、自然に入る事ができました。プレッシャーよりもチャン・グレとしてこのチームにいられる好奇心のほうが勝っていたし、演出のオ・ルピナさんと作品へのアプローチの仕方が共感できていたので、不安はありませんでした。この作品のテーマも「共感」なんですよね。

——韓国の大ヒット漫画が原作となり、2014年にはドラマ化もされて社会現象ともなった作品ですが、ミュージカルにしたことで出た魅力、見どころというのはどんなところでしょうか?

『ミセン』は、何かが振り切っているようなストーリーではなく、日常を描いている作品です。もともと、ドラマなら20時間もある作品を、舞台であれば長くて3時間にしなければいけない。ミュージカルのエンタメ性、音楽の力を借りることで、より強くお客様にメッセージが伝わるのではないかと思います。

——すでにご覧になったファンの方から、「明日への活力になる言葉がたくさんある」というコメントもありましたが、前田さんご自身の好きなセリフや場面はありますか?


クライマックスの部分なのですが、チャン・グレの名前に関する場面ですね。「グレ」っていうのは、韓国語の一般用語「イエス」の意味もあり、名前のせいでいじられることもあったりして、主人公にとってはコンプレックスだったんです。でもそれが、橋本じゅんさん演じる上司のオ・サンシク課長が言ってくれる言葉で、ガラッと変わるという…。ドラマファンの方にもぐっと来る場面になっていると思います。あとは、母親の安蘭けいさんとの場面でしょうか。

——今回、安蘭けいさんは、チャン・グレの母親役と、上司のソン・ジヨン次長の2役ですが、混乱したり面白い部分はありますか?


もう、別人すぎて、何も面白くないくらいでした(笑)。ほんとに、別の俳優さんじゃなくいかと思うくらいです。お母さんが出てきた、次長が出てきた、としか思わないです。先日、僕のラジオにゲストで来てくださったんですが、僕のことを、誰か別の俳優に似てる、っておっしゃるんですよ。で、「それはないですよ!」と結構偉そうに言ってしまったんです。初対面で、事務所(ホリプロ)の大先輩でもあるのに。でも、ものの40分くらいで一気に距離が縮まったというか。安蘭さんがそんな空気を作ってくれたというか。そういった計算していない奇跡が重なって、素晴らしい現場になっていると思います。僕と安蘭さんのシーンなんて、キャストが毎回泣いちゃってますから。毎日同じ芝居をしてるのに。次のシーンは目が真っ赤じゃいけないのに、みんな泣いてて。

何度も観ても楽しい舞台



——今回、囲碁の世界でプロを目指しながら、夢を絶たれて、商社という全く違う世界に飛び込む新米サラリーマンの役ですが、どなたか、参考にしたサラリーマン像のようなものはありますか?

同じく俳優を志して、辞めて一般企業に入った仲間や、ちょうど入ってきた新入社員のマネージャーさんなどですかね。いろいろ話を聞いたりもしました。今回僕、稽古の時から、自前のスーツで入っているんですよ。演出のルピナさんもそのほうが世界をイメージしやすいんじゃないかと思って。普段、映像の仕事って、私服で現場に行くし、入りの時間もまちまちなのですが、今回の稽古はシャツにネクタイで、しかもきまった時間に現場に行く生活なので、ほんとのサラリーマンの「出勤」気分いうか…。たまにそのまま飲みに行ったりすると「面接行くの?就活してんの?役者やめるのか?」とか聞かれたりして。(笑)

——今日も自然に、ものすごく新人サラリーマンに見えています。髪型も、韓国の原作を意識されていますか?

はい、それはもちろん! 10年前の韓国のイメージでと言われて、こんな髪型にしています。原作の漫画はスネ夫っぽい髪型なんですけど。

——セリフや中身が重くても、楽曲が明るくていいというファンの方のコメントもありました。

もともと、チャン・グレは後ろ向きな考えを前向きにする天才で、それが楽曲にも反映されていると思います。彼は囲碁の世界にいた時に身に付けた武器しかない。でも、普通の人以上に人生に向き合ってきたと思うんですよね。自身の持つ強みで、サラリーマンとして状況を打破していく。囲碁って制限時間打たなければいけないわけで、その時間内に判断し、わずかな情報をもとにどんな状況でも前を向いて進まなければいけない。退路を断った状態にいる人だからこそスキルを積んでいい結果を出せたんだと思います。

——今回、客席も巻き込んでの演出もあるということですが。

今回、パンツと靴下を我々インターンが販売する場面があって、演出上、下着をつるしたロープを両側で持って、お客さんの上を通り抜けるんですよ。皆さんお芝居を観に来る時って、ある意味おしゃれをして来られてるでしょうし、髪型なども整えていると思うので、最初、絶対、頭に下着が当たっちゃいけないと思って腕を思いっきり上げてたんですけど、お客さんが手を出して触ってくるんですよ。だんだんそれが目安になってくるっていうか、手ごたえのあった日は手がめちゃくちゃ上がるんです。僕らの自信にもつながるんですよね。

——これから東京公演を観るファンの方に、メッセージをいただければ。

ルピナさんも、この作品については、あまり固めていないというか、キャストに任せてくれている部分も結構あるんですよ。これはミュージカルとしては珍しいんじゃないかなと。ルピナさんは、みんなが最善を尽くせる空気を作る天才だと思っていて。常に崩れているのにいつの間にか城が建っている…ような。その日その日で俳優が場面を作っているので、そういったエンタメ性を楽しんでもらいたいです。あと、僕はあまりアドリブはないんですけど、結構ある人もいて…。しっかり変えている人とか、その日によっても違っていて、そこも楽しんでもらいたいですね。

——何度も観ても楽しい舞台、ということですね。

そうだと思います!そしてとにかく、キャストのキャラクターが役にハマっている。それは奇跡だと思うし、すごくラッキーなことなんですよね。そんなツイてる人たちが集まっているので、観た方も運気があがるような、新年にふさわしい作品だと思います。

婦人公論.jp

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