西岡徳馬「オーディションで勝ち取った『SHOGUN将軍』戸田広松役。世界に伝えたかった本当の〈日本の武士道精神〉」
2025年4月3日(木)12時30分 婦人公論.jp
ハリウッドの時代劇『SHOGUN 将軍』に出演。俳優・西岡徳馬さん
78歳、役者歴半世紀以上でも「まだ、足りねえ……!」喜びも悲しみも、演技こそが己の魂を呼び覚ますと語る、俳優・西岡徳馬さん。新境地を開いたつかこうへい演出の舞台『幕末純情伝』、一世風靡した『東京ラブストーリー』、そして2024年エミー賞最多部門賞受賞『SHOGUN 将軍』など、圧倒的な演技力と、作品に深みをもたらす存在感で幅広く活躍されています。そんな西岡さんが、文学座での初舞台からこれまでの俳優人生を振り返る、初の自伝本『未完成』より一部を抜粋して紹介します。
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ハリウッドの大作時代劇『SHOGUN 将軍』
2022年、ウォルト・ディズニー・カンパニーの傘下であるアメリカの有料テレビチャンネルFXがプロデューサー兼主演に真田広之を招いて撮影した時代劇『SHOGUN 将軍』に出演した。
原作はジェームズ・クラベルが1975年に書いた歴史小説で、1980年にリチャード・チェンバレン主演で放送され、アメリカのテレビドラマ史上最高の36.9%という視聴率を誇った作品だ。日本でも1980年にテレビ放映された。
三船敏郎さんや島田陽子さん、フランキー堺さんらが出演しており、私も興味深く観ていた。今回のドラマは、そのリメイクということになる。キャストは4分の3が日本人俳優だ。
日本人の役は日本人の俳優がやるという、当たり前のことを真田広之が出演条件に入れて、それが受け入れられ徹底された。
さらに台詞も日本語が中心だったにもかかわらず、世界同時配信され、開始から6日間で実に900万回も再生されることになった。
これはネット配信されたドラマシリーズの世界新記録になった。日本では2024年2月からディズニープラスで配信されている。
コロナ渦の中、バンクーバーでの撮影
真田が演じた主人公は関ヶ原の戦い前夜の徳川家康をモデルにした吉井虎永(よしいとらなが)、私はその腹心の家老・戸田広松を演じた。
撮影はカナダのバンクーバーで行われ、私は2021年8月23日から8ヶ月間もバンクーバーで過ごすことになった。もちろん単身赴任だ。コロナ渦の中、撮影は大変だった。
この大作に出演した経緯や裏話を紹介しておこう。今回のドラマ『SHOGUN 将軍』で、広松役のオファーが来たのは2021年の2月頃だった。といっても、最初から私に決まっていたのではない。
何人か候補がいて、「まずはオーディションに参加してくれ」という話だった。ハリウッド映画に出たことがない私は、アメリカ人から見れば無名の俳優に過ぎない。
オーディションは当然だろう。ましてや、著名な俳優でさえオーディションで役を勝ち取っていくのがハリウッドの基本だ。
ハリウッドか。チリとの合作はあったが、「ハリウッド」というと、またちょっと響きが違う。自分がまだやった事のない領域は、もうここしかないなと思った。それにカナダのバンクーバーで撮影という。
バンクーバーには2001年にフジテレビの2時間ドラマ『スチュワーデス刑事』の撮影で、北部のウィスラーに行ったことがあるし、2011年には旅番組で再び訪れ、素晴らしく綺麗で、とても良い所という印象が強くあった。
『未完成』(著:西岡徳馬/幻冬舎)
「真田広之」それならば是非やりたいと思い…
行くとすれば2021年か。ぴったり10年毎の3回目だな。よし行こう!と自分の中で決めたが、まだまだこれからオーデションを受ける身だった。
2月、送られて来た台本のシーンを覚え、スマホで撮ってそれをアメリカに送ってもらった。が、しばらく連絡もなく、他の仕事にかまけて忘れかけていた。
ふと思い出して、「そういえば、あのハリウッドの話どうなった?」と事務所に聞くと、交渉先の電通からすぐに連絡が入って、「実は最終候補に残っています。ついてはもう1度台本を送るので、それを動画で送って欲しい。
ただし、今度は虎永と広松の関係をあの名作映画『明日に向って撃て!』のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが演じたように、相手が何を思っているか言葉を交わさなくとも分かる親密な関係で、しかもそれをソフトに演じて見せてくれ」という注文付きだ。
「ところでこの虎永の役はどなたがやるんですか?もう教えてくれてもいいでしょう?」
「真田広之さんです」と聞いて、真田広之!?それならば是非やりたい!!と思い、私はすぐに娘婿が持っている稽古用の刀を借り、相手方をやってもらって、「出来るだけソフトに」を心掛け演じて、送ってもらった。
日本の武士道精神を世界に伝えたい
するとなんと二日後、「決まりました」と返事が来た。もう既に5月になっていた。「よし、行くぞ」と燃えた。
私にはある思いがあった。ハリウッドが作る日本が舞台になっている映画には、間違いが多すぎる。装置にしても、衣装にしてもそうだ。
第1、まともな日本語も話せない俳優が日本人役をやっている。あれはどういうことなのか。何故、誰も何も言わないのか。
或(ある)いは間違いと思っていないか、知らないかだ。観ていて何とも歯痒かった。
しかも、今回は江戸時代になる前の戦国時代の話、迂闊にやったら酷いことになるぞと思い、ヒロに連絡したいと思ったが、連絡先は教えられないと言われ、まぁ向こうで会ってからでも良い、ヒロなら必ず分かってくれると信じていた。
私は兎にも角にも、本当の日本の武士道精神というものを世界に伝えるのだという気持ちが日に日に高まっていった。
※本稿は『未完成』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。