「ふざけんな」「だからバカ野郎なんだよ」栗山英樹が大谷翔平に激怒→大騒動に…“世界のオオタニ”が監督から厳しく𠮟責された“本当の理由”

2025年4月21日(月)12時10分 文春オンライン

 今や世界的なスター選手となった、ドジャースの大谷翔平。そんな大谷と一対一で向き合い、取材を続けているのが、ベースボールジャーナリストの石田雄太氏だ。大谷は石田氏の取材に対して、どんな言葉を紡ぎ、どんな思いを語っているのか。


 ここでは、石田氏の著書 『大谷翔平 野球翔年 I 日本編2013‐2018』 (文春文庫)より一部を抜粋して紹介。2015年2月、当時の北海道日本ハムファイターズ監督・栗山英樹氏が大谷の紅白戦でのピッチングに苦言を呈した。その理由とは?(全2回の1回目/ 2回目に続く )



大谷翔平選手 ©文藝春秋


◆◆◆


「よかったところはなし」苛立ちを見せた栗山監督


「オレ一人だけが納得いってないのかもしれないけど……」


 大谷のピッチングについて訊かれた栗山英樹監督は、自嘲気味に笑いながらも厳しい口調でこう続けた。


「よかったところはなし。調整のつもりなら、100年早い。今だからいいとか、最初だからいいとか、そんなことはない。何のために1月からブルペンに入って、バッターに投げてきたのか。結果を出すために準備をして、ガムシャラに、必死に、バッターを抑えてやるという、そういう積み重ねを大事にしてくれないと……」


 最初のイニングはワインドアップで投げて、次のイニングでは先頭バッターからセットポジションで投げた。大谷は「どっちもやろうと思っていた」と予定通りだったことを強調したが、栗山監督の目にはそんな大谷がもどかしく映った。


「試していいよ。セットでも振りかぶるのでも、こういうことをやってみたいというのは大事。でも実戦形式なんだから、こうしたい、これをやりたいという向き合いが自分じゃなくて、相手をやっつけたい、絶対に負けないというベースでなくちゃ……アイツ、開幕をやりたいと言ってるんでしょ? だったら、それを自分で掴んでくれということ。今日が紅白戦だという気持ちが少しでもあるなら考え違い。実績のある選手ならともかく、まだその段階ではない」


 最後には大谷の開幕投手について、栗山監督は「もう一回、白紙だな、すべて」と言った。期待の裏返し、愛のムチ、親心ゆえといった想いから、大谷には敢えて厳しい言葉を発することが多い指揮官ではあるが、この日ばかりはそれだけではない苛立ちや歯痒さを感じさせた。


 いったい何を焦っているのか。


 まだ第2クールじゃないか、初めての実戦とはいえ紅白戦、そんなにムキになることはない……大谷でなくとも、そう感じるかもしれない。しかし、この指揮官の感情の爆発には、じつは伏線がある。


「説明する必要はない、結果で示すしかない」と言う大谷


 年明け早々のことだ。


 栗山監督はこんなふうに言っていた。


「だからアイツはバカ野郎なんだよ」


 その言葉にも、いつもの冗談交じりのニュアンスはなく、むしろ怒気を含んでいるように聞こえた。栗山監督は、年末に大谷が別のインタビューで話していた内容を伝え聞いて、怒っていたのである。


 それは、大谷のこんな言葉だった。


「説明する必要はないかな、と。それを言ったところで(監督が)落ち着くわけでもないですし、それは結果で示すしかない。別に僕がそこで何か説明しても、言い訳にしか聞こえないじゃないですか」


 大谷は何のことを話していたのか。


 話を1年前に戻そう。


キャンプ初日の怒りをメディアが報じ、ちょっとした騒ぎに


 2014年の2月1日、大谷はキャンプ初日のブルペンに入った。プロ2年目の大谷を、ピッチャーに軸足を置いた二刀流にシフトしようと考えていた栗山監督は、キャンプ初日の大谷に期待していた。しかしその日のブルペンでのピッチングは散々だった。結局、シーズンに入って大谷はピッチャーとして成長を遂げ、指揮官の不安は杞憂に終わったのだが、2014年の夏、栗山監督がこんな話をしていたことがある。


「あの初日は、命取られるんじゃないかと思ったくらい、心配した。バランスは悪い、コイツ何やってんだっていう、ひどすぎるフォームだったからね。あれが何だったのか、アイツに訊きたいよ。オレには何も言わないんだ。たぶん、翔平はピッチングとして成り立たなくてもいいと思っていたのかもしれないけど、こっちは最初のブルペンなんだから、キッチリしたフォームで投げてくれると思うじゃない。そこにギャップがあったんだろうね」


 その2014年のキャンプ初日、栗山監督は「ふざけんな」と大谷を叱り飛ばしている。それをメディアが報じ、ちょっとした騒ぎになったのだが、そんなときの大谷は、大騒ぎする周りを眺めて戸惑っているのか、あるいはどこ吹く風なのか、表情からは読み取りにくい反応になる。当時の思いについて大谷は、こう振り返っていた。


「大丈夫かっていう記事も多かったですし、監督からも怒られましたけど、僕としてはそんなに悪いことしたかなって感じでした。だって、音合わせの作業はキャンプが始まってからでいいかなと思っていましたし、あれは僕からしたら、前へ進むための段階です。決して後ろに下がっているわけではない。一見、技術的に衰えているというか、フォームがバラバラなように見えますけど、それは身体が大きくなって肉体的なレベルが向上したから。そのレベルにフォームがまだついていってなかっただけなんです」


底知れぬ20歳としたたかな指揮官の「せめぎあい」


 ここで話をもう一度、2015年1月の栗山監督に戻すと、この「言い訳になるから説明する必要はないし、結果で示すしかない」という大谷のコメントを知って、栗山監督は怒っていたというわけだ。


「だから、そうやって何も言わなかったことを正当化できるのは去年、結果的に何もなかったからでしょ。実際、去年だってすべてが順風満帆だったわけじゃない。


 あの投げ方じゃ壊れるってことを翔平も意識してくれないと……20歳だから勘違いしてくれていいんだけど、これだけ騒がれると、ちゃんと言ってくれる人は少なくなってくるからね。少なくともオレはそういうことをちゃんと言わなきゃと思ってるよ」


 仰ぎ見る山の頂きは同じでも、選ぶルートは同じではない。勘違いしてもいいと栗山監督は口にしたが、実際の大谷に浮ついたところはなく、野球に対してまっすぐ向き合っていることにも疑いの余地はない。


 キャンプ中も休みに練習することを「休日返上」と表現されていたが、そんな意識は欠片もない。「遊びですから。バッティングセンターに行ってるようなものですよ」とニヤッと笑う。


 ただ、一日一日、野球に対する自信が積み重なっていく中で、余裕を見せてしまうこともあれば、違う方向に突っ走ってしまう危惧もある。栗山監督がメディアを通じて怒ってみせたり、危機感を煽ろうとするのは、ときに暴れ馬と化すサラブレッドの手綱を緩めるわけにはいかないからだ。


 大谷がこのまま20歳の開幕投手に収まるのか。それとも栗山監督が何らかの理由でブレーキをかけるのか─調整を「音合わせ」と表現できる底知れぬ20歳と、知略に長けたしたたかな指揮官のせめぎ合いは、すでに始まっている。

イチローでも、松井秀喜でもない…少年時代の大谷翔平が「打ち方をマネしていた」“意外なバッター”とは?《世界のオオタニの知られざる秘話》 〉へ続く


(石田 雄太/文春文庫)

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