テレビ解説者・木村隆志のヨミトキ 第93回 日テレvsフジ、水10ドラマで5度目のバトル なぜ一騎打ち&撤退の歴史を繰り返すのか
2025年5月7日(水)11時0分 マイナビニュース
●『恋は闇』『Dr.アシュラ』が激突
今春、日本テレビが水曜22時台のドラマ枠「水曜ドラマ」を復活させ、志尊淳と岸井ゆきのがダブル主演を務めるラブサスペンス『恋は闇』が放送されている。「水曜ドラマ」の復活によって、今春から『Dr.アシュラ』が放送中のフジテレビと“水10”ドラマ枠がかぶることになった。
ただ、序盤は『恋は闇』『Dr.アシュラ』ともに視聴率、配信再生数、ネット上の反響など、さまざまな点で思うような結果が出ていない感がある。
そもそも、なぜ昨春にドラマを撤退してバラエティに変えた日テレはわずか1年で「水曜ドラマ」を復活させたのか。一方のフジも22時台をドラマとバラエティを入れ替えながら日テレと戦い続け、どちらも定着させられなかったという歴史がある。
なぜ両局は水曜22時台のドラマで何度も一騎打ちとなり、撤退する歴史を繰り返すのか。ひいては民放ドラマ枠のかぶりについて、テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
○3度の撤退と復活を繰り返したフジ
昨春、日テレが「水曜ドラマ」を終了させることが報じられたとき、業界各所からは驚きの声があがっていた。「撤退するかもしれない」というウワサこそあったものの、「本当に39年の歴史を持つ局の看板ドラマ枠(※3年間の2時間ドラマ枠時代を含む)を終了させる」とは思っていない人が多かったのだろう。
だからこそ、今春わずか1年で「水曜ドラマ」を復活させた異例の早期決断にも合点がいく。恥を承知であえて編成ミスを認めるような決断ができるのは日テレの強さなのかもしれない。ともあれ、その水曜22時台にはフジのドラマ枠がいて一騎打ちとなるのだが、この戦いは実に5度目となる。
フジの水曜22時台ドラマ枠は1991年10月にスタート。ここで日テレ「水曜ドラマ」との戦いが始まったが、わずか1年後の92年9月で撤退してしまう。
その5年半後の98年4月にドラマ枠を復活させて日テレと2度目の戦いとなったが、1年半後の99年9月で再び撤退。さらに13年半後の2013年4月にもドラマ枠を復活させて日テレと3度目の戦いに挑んだが、16年3月まで3年間放送したのち撤退した。
そして6年後の22年4月にドラマ枠を復活させて日テレと4度目の戦いとなり、現在まで放送されている。フジが3度もの撤退と復活を繰り返してきたことが分かるだろう。
日テレは女性主人公の物語がメインで、なかでも多かったのは生き方や仕事をフィーチャーした作品。しかし、今春の復活第1弾『恋は闇』は男女ダブル主演のラブサスペンスと大きくコンセプトを変えてフジとの戦いに挑んでいる。
一方のフジは13年以降、日テレと差別化するべく、大半が男性主人公の物語を放送してきた。ただ、今春は松本若菜主演の『Dr.アシュラ』を放送しているように、男性主人公に限定しているわけではない。つまり、主演の性別や作品ジャンルの棲み分けがあいまいになったことで、「同時に似た作品が放送される」というリスクが感じられる。
○放送期間と視聴者の層は比例する
日テレは1度、フジは3度も撤退した最大の理由は、視聴率がとれなかったからにほかならない。
録画視聴だけでなく配信視聴も普及した今なお、リアルタイムで見てもらう視聴率前提の収益構造は大きく変わっていない。リアルタイムでドラマを見る人の数が減っているのに、「今春の水曜22時台は日テレとフジのどっちを見るか」という2分の1の確率になってしまうのだから、視聴率獲得が難しいのは当然だろう。
同時にSNSの動きやネットニュースも2分の1になり、他枠のドラマに埋もれやすくなってしまい、TVerなどの配信で見てもらうチャンスも減りかねない。では、なぜうまくいかないリスクがある中、日テレとフジは放送時間のかぶりを前提で水曜22時を選ぶのか。
その理由は主に以下の4つ。
1つ目は、「長年ドラマが放送されてきたため、この時間帯にドラマ好きな視聴者層が多い」と考えられているから。実際フジは、日テレの「水曜ドラマ」が放送されてきた水曜22時台だけでなく、長年TBSの「日曜劇場」が放送されている日曜21時台にも戦いを挑み、撤退を繰り返したことからも分かるだろう。
ちなみ11年の『マルモのおきて』は日曜劇場の『JIN-仁-完結編』とほぼ互角の戦いを見せたように、まれに「2作同時ヒット」という成功もあり、長年ドラマが放送されている時間帯の優位性を裏付けている。
●水曜22時台の背景とIPビジネス
2つ目は、「まだドラマには爆発的な視聴率を叩き出せる」という期待があるから。日テレの「水曜ドラマ」と言えば、いまだに最終話が世帯視聴率40.0%を(※ビデオリサーチ調べ・関東地区)記録した11年の『家政婦のミタ』を思い出す人もいるのではないか。しかし、その後は『花咲舞が黙ってない』『世界一難しい恋』『家売るオンナ』『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』など数年に一度、話題作が放送されるものの、クールのトップに立つような作品は誕生しない。
一方のフジは、98年の『ショムニ』がヒットして以降、13年に堺雅人主演の『リーガルハイ』(第2期)が『半沢直樹』(TBS系)の勢いを受けて高視聴率を記録したのみ。2020年代は視聴率がこれらの4分の1程度まで下がり、ヒット作は出ていない。
3つ目は、水曜22時という時間帯の背景。週明けは「腰を据えてドラマを見る」という動きになりにくく、週末は「外出や趣味を楽しむ」という動きになりやすく、週半ばの「水曜はドラマを見てもらいやすい」とみられてきた。
しかし、それが以前ほどではなくなったからこそ日テレもフジもドラマ枠からの撤退を実行してきたのだが、バラエティはそれ以上にうまくいかないという現実がある。水曜22時台にはコア層の個人視聴率や配信数などで強い『水曜日のダウンタウン』(TBS系)がいるだけに、ドラマで勝負せざるを得ないのではないか。
そして4つ目にして最大の理由は、IP(知的財産)ビジネスでの期待。水曜22時台に限った話ではないが、ドラマは海外を含めた配信での収益や、映画、舞台、漫画、ゲーム、グッズ、イベントなどで幅広く稼ぐ可能性がある。言わば、視聴率とCM収入だけのビジネスではなく「当たればデカい」コンテンツということ。だからこそドラマ枠がかぶることを承知で放送しているし、その中でも水曜22時台は前述した理由からベターな時間帯なのだろう。
○21時・22時台は全曜日ドラマを放送
最後にドラマ枠のかぶりそのものについて言及しておきたい。
現在ゴールデン・プライム帯のドラマ枠で放送時間がかぶっているのは、日テレとフジの水曜22時、テレビ朝日とフジの火曜21時、NHK総合とTBSの火曜22時の3つ。さらに、テレ朝(ABCテレビ制作)の22時15分〜と日テレの22時30分〜も大部分がかぶっている。
そもそも全曜日の21時台と22時台にドラマ枠があり、毎クール計18作を放送。「もう視聴率がとれない」と判断された20時台は日曜の大河ドラマ以外消滅したこともあって、「かぶってしまうのは仕方がない」という感がある。
というより、テレビマンの中には「ドラマ枠が他局とかぶっても気にならない」という人がいるのも確かだ。実際、HUT(総世帯視聴率)が高かった2000年代前半あたりまでドラマ枠がかぶることは当然のようにみなされていた。裏を返せば、現在バラエティは全時間帯でかぶるのが当然であり、ドラマもドラマもターゲット層やジャンルが異なる作品なら大丈夫だろうという見方がある。
しかし結局、視聴率や配信数などがとれなければ、「とれる作品を模索していくうちに似たような作品ばかりになる」という事態に陥りやすい。事実、2010年代後半に視聴率の低迷から刑事・医療・法律の一話完結型ドラマが約半数まで増えた時期があり、若年層のドラマ離れを招いた感があった。
また、これまでリアルタイムでドラマを見てきた人にとって「放送時間帯のかぶりは歓迎すべきことか」と言えば微妙なところ。「どちらかを選べてうれしい」という人もいれば、「どちらか1つしか見られないのは嫌」という人もいるのだろう。
ともあれ、スマートテレビの普及などもあって右肩上がりで増えている配信視聴派にドラマ枠のかぶりは無関係の話。旧態依然とした放送ありきのビジネスモデルに問題があるだけに、視聴率獲得を優先させて作品のクオリティを下げることだけは避けなければいけない。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら