「どうすれば市場の魅力を残していけるのか」……沖縄からの問いかけ

2025年5月9日(金)15時30分 読売新聞

沖縄県本部町の本部町営市場で(著者提供)

「2024年の本部町営市場」橋本(とも)(ふみ)さん

 質素な作りだが、350ページを超える骨太のドキュメントだ。昨年10〜12月、歴史ある沖縄・本部もとぶ町の「本部町営市場」を訪ね、店を構える23軒の店主に話を聞いた。カツオ漁で栄えた町らしい市場の名物、カツオをかたどったベンチに座る表情は真剣だ。

 「取り壊す計画を聞いたのが昨年9月。これはいけないと思い、急いで取材した」。沖縄の編集者や建築士、古書店主らの寄稿も盛り込み、一刻も早く世に出すため自費出版の形を取った。だから今回は編者兼発行人だ。

 築60年近いレトロな建物の中に精肉店や鮮魚店、弁当や手作りの小物を売る店、おしゃれなコーヒー屋など個性的な店が並ぶ。戦時中の思い出を語るお年寄りもいれば、本土から移住してきたアイデアあふれる若手もいる。町営ながら自主運営に近い市場には、様々な世代の人たちが織りなす素の暮らしが息づく。

 1982年生まれ。ロードサイドの戦後史をユニークな視点で追った『ドライブイン探訪』などで知られる実直な書き手は、ここ10年ほど沖縄に足繁く通う。6年前、建て替えに揺れる那覇の「第一牧志まきし公設市場」に迫った『市場界隈かいわい』を出した時は、「解像度の高い記録を後世に残さねば」との思いが強かった。「100年後の読者に向けて」記憶を保存するという使命感だ。

 しかし、記録するだけでは失われるのを防ぐことはできないことも実感している。「土地に根付いた生活を肌感覚で味わうには、昔ながらの市場が一番いい。今の市場を訪れる観光客は増えているなかで、どうすれば今の市場の魅力を残していけるのか」と問いかける。

 町は現在、市場跡地の再整備に向けた検討を始めている。懐古趣味ではない、現在進行形の話として手に取ってほしい。(HB BOOKS、1980円)松本良一

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