竹中直人「僕には自分がないんです」心にブルース・リーの名言「Be Water」 69歳“無形”の怪優

2025年5月18日(日)5時0分 スポーツニッポン

 【俺の顔】猟奇的な犯罪者から歴史上の偉人まで、さまざまな役柄を演じてきた俳優の竹中直人(69)。根底にあるのは敬愛するブルース・リーの名言として知られる「Be Water(水になれ)」の精神。まるで水のようにしなやかに、時には勢いよくキャラクターを変化させていく。「僕には自分がないんです」。そう語る真意とは——。(吉澤 塁)

 生真面目に話していたかと思うと、突然恐縮する。にらみを利かす強いまなざしになったかと思えば、ヘラヘラと笑う。「怪優」と言われる竹中の表情はインタビュー中も、まるで複数の役を演じ分けているかのようにコロコロと変わる。「僕にはね、顔がないんです。何でもない顔をしているんです」

 幼少期から人見知りで恥ずかしがり屋だった。「どうせ他人は僕をばかにしている」と被害妄想も強かった。自然と身に付いたのは「別の自分になろうとする」こと。「ある役になればその人格になれる。なので役者への憧れは強かったですね」

 多摩美大では「映像演出研究会」に入った。映画の自主製作などをする一方で、在学中から「TVジョッキー」(日本テレビ)の素人参加コーナーなどに出演。下唇を突き出した松本清張氏のモノマネやブルース・リーの形態模写などを披露した。そのレパートリーはマニアックだが表現されないと気がつかない、人の癖を捉える能力がずばぬけていた。さらに「笑いながら怒る人」などの“顔芸”も人気を呼び、個性的なお笑いタレントとして知名度を高めていった。1980年に大学を卒業。劇団青年座に入ったが「劇団では食べていけないから、バラエティー番組に売り込んでいました。懐かしいな」と目を細めた。

 84年に役者デビューする機会に恵まれた。ポルノ映画「痴漢電車 下着検札」だ。「ポルノとばかにする人はいたけれど、とにかく楽しかった。滝田洋二郎監督で現場は本気。本当に走っている電車でロケしちゃうんだもん。学生時代は8ミリカメラで自主映画を撮っていたものですから、35ミリのカメラに映るのも新鮮でした」

 その後も「得体の知れない役」が多く続いた。転機になったのが96年。NHK大河ドラマ「秀吉」の主演を務め、出演した大ヒット映画「Shall we ダンス?」が公開された。一気にトップ俳優としての地位を築き「周囲の評価は変わりましたね」。それでも自身は冷静だった。「てんぐになることもありませんでしたし“どうせ僕なんか…”という思いは変わりませんでした」

 忘れられない言葉がある。劇団員時代、エキストラとして出演した映画の撮影現場で監督から怒鳴られた時の一言だ。「お前の顔なんていらないんだ!」。張り切っていただけにショックは大きかった。「そんな時を思えば、仕事があるだけで幸せですよ。だからオファーが来たら絶対に断らない。役があれば違う人間になれる。演じているだけで幸せなんです」。傷ついた経験や自信のなさが「怪優・竹中直人」を形づくった。

 キャリアは50年以上になった。どんな役でも「あまり台本は読み込まない」と決めている。「役を捉えてしまえば、自然と芝居も決まるんです。まさしく“Be Water”ですよね」。淡々としながらも、熱っぽい。その言葉と演技論に引き込まれた。

 ≪フジ連続ドラマ「ミッドナイト屋台…」でWEST.神山智洋と軽妙掛け合い≫竹中は現在、フジテレビ系連続ドラマ「ミッドナイト屋台〜ラ・ボンノォ〜」(土曜後11・40)に出演している。WEST.の神山智洋(31)が演じるフレンチシェフが、寺の境内で屋台を出す物語。竹中はその寺の住職役。「とにかく現場が若くてテンポが良い。神山くんとも2度目なのでアドリブを入れて困らせたりしていますね」と撮影を楽しんでいる様子だ。これまで何度も僧侶役を演じてきたが「僕は一度演じた役は忘れるタイプ。だから今作もまた一から演じている感覚ですね」と話した。

 ◇竹中 直人(たけなか・なおと)1956年(昭31)3月20日生まれ、神奈川県出身の69歳。77年に「ぎんざNOW!」(TBS)の「素人コメディアン道場」でチャンピオンに輝く。その後、俳優として活動し映画「ウォーターボーイズ」(01年)、フジテレビドラマ「のだめカンタービレ」(06年)などに出演。91年に「無能の人」で映画監督デビュー。12年にフランス観光親善大使に就任。

スポーツニッポン

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