信頼しあった二人のトークバトル! 老いと恋愛が切ない傑作――亀和田武「テレビ健康診断」

2025年5月19日(月)12時0分 文春オンライン

 もう半ば諦めていたんですよ、私は。鎌倉市の江ノ電、極楽寺駅近くの古民家に何人もの家族と住む長倉和平(中井貴一)と、お隣に越してきた吉野千明(小泉今日子)の、あのテンポ良い絶妙な会話を観ることはできないのかな、と。


『続・最後から二番目の恋』の放映は二〇一四年。五十二歳だった市役所勤務の和平は定年を迎えている。


 それがなんと、狂喜のサプライズ。『続・続——』が春から始まった。



中井貴一 ©文藝春秋


 長倉家の面々は、まあ基本的には変わってないか。朝は隣家に住む千明が朝食を一緒に。和平の弟、真平(坂口憲二)の料理が絶品でね。食事の前に、千明と和平が、ちょっとした事で嫌味を言い合い、それがどんどんエスカレート。


 テレビ局のやり手プロデューサーだった千明は弁もたつし、気も強くヤンキー気質もある。ところが、実直な公務員の和平が、マジメさゆえか自説を曲げず、屁理屈まがいの正論でやり返す。これがお約束です。


 市役所とテレビ局。一見正反対の職場に身を置く二人が、奥底では信頼しあって、ほぼ恋愛に近い関係だからこそのトークバトルが笑えて笑えて。


 観光推進課でキチンと仕事をこなし部長で定年を迎えた和平だが、なんやかんやで再任用。かつての部下(松尾諭)から無理難題も押しつけられる。


 ややこしい案件は、ゼーンブ長倉さんに。さらに和平には困り事がある。前作までの視聴者は承知だろうが、未亡人にモテモテ。


 早くに両親を亡くし、二十年ほど前には妻に突然死なれた和平の境遇や誠実さに魅かれるのか、未亡人から和平は猛アタックされる。


 今回は、押し寄せる観光客の対応に採用された中国語堪能の早田律子(石田ひかり)が、会うなり「あたし、未亡人です」。和平のフェロモン、凄いなあ。


 一方の千明も、嬉しい出会いが。元気な千明も段差のない道で転んだり、歳には勝てない。近所の医院を訪れる。すると医師がハッと驚いた表情に。何日か前、この医師、成瀬(三浦友和)は江ノ電の車内にいた千明を道路から見て、目が離せなくなっていた。


 彼の表情に満更でもない千明は「かかりつけ医になって下さい」。千明を食事に誘った成瀬は、すみませんと告白する。「私が世界一好きで美しい妻が死んだのですが……それが」といってスマホの画面を見せると千明そっくり。


 悪い気はしない千明。鎌倉男子って、女性には正直で誠実なんですね、と。和平をきっと思いだして、フフフと微笑む。


 洗練された笑い。しかし未亡人や、妻に先立たれた男たち。難病で幸福な家庭が壊れることを恐れて陽気にふるまう真平。笑いと死が同居し、老いと恋愛が切ない文句なしの傑作。



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『続・続・最後から二番目の恋』
フジテレビ 月 21:00〜
https://www.fujitv.co.jp/nibanmeno_koi/





(亀和田 武/週刊文春 2025年5月22日号)

文春オンライン

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