『あんぱん』朝ドラ初出演の河合優実、「蘭子はのぶより頑固かも」壮行会後の豪と思いが通じる場面は「力が入った」

2025年5月21日(水)8時15分 婦人公論.jp


(撮影:米田育広さん)

今田美桜さんがヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合/毎週月曜〜土曜8時ほか)。子どもたちの人気者・アンパンマンを生み出したやなせたかしと、妻・暢の夫婦をモデルとした物語です。<朝田のぶ>を今田さん、<柳井嵩>を北村匠海さんが演じています。のぶの妹・蘭子を演じるのが俳優の河合優実さんです。控えめな性格でせりふが少ないキャラクターですが、河合さんは視線や仕草、表情で蘭子の感情を表現。出征する豪(細田佳央太さん)から求婚され、思いが通じあったシーンは作中屈指の名場面となりました。河合さんに蘭子役への思いを聞きました。(取材・文:婦人公論.jp編集部)

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のぶより頑固かも


朝ドラの出演は初めてです。蘭子は朝田三姉妹の次女で、おとなしく見えますが、控えめ一辺倒にならないようにしたいです。また、『あんぱん』で描かれている時代では珍しく、蘭子は反戦を表明しています。もしかしたら、のぶよりも頑固かもしれません。絶対曲げない信念を持った人だということも表現したいと思っています。戦後80年の今年、あの時代にノーと言える人を演じることができたのはすごく意義があることだと感じています。

蘭子と同じように私も三姉妹で、次女ではなく長女ですが、私はのぶみたいな姉だったかもしれないと思っています。下のきょうだいのことを考えずに自分の進路を決めてきました。蘭子は、家族を陰で支え、家族が幸せになるように動ける人。私は大人になってから、一歩引いてみんなを見ることができるようになったので、今やっと蘭子のような視線が持てるようになった気がしています。

着物の力を借りて


——『あんぱん』の登場人物には、アンパンマンのキャラクターを当てはめていることを脚本の中園ミホさんが明かしている。蘭子の衣装はロールパンナちゃんのイメージだ。

朝田三姉妹は、のぶはドキンちゃん、蘭子はロールパンナちゃん、メイコはメロンパンナちゃんというアンパンマンの登場人物のカラーで衣装が選ばれています。蘭子は一貫して青を着ていて、見てくれる方にそれぞれの役のイメージが残っていくのが素敵ですよね。


(『あんぱん』/(c)NHK)

物語は昭和初期から描かれ、蘭子の服装も着物から始まります。所作指導の先生もいらっしゃいますが、違う時代を生きる人物を演じる難しさも感じています。

完成した映像を見ると「自分は現代人の体の使い方をしている」と思うこともあります。ただ、着物の力に助けられることが大きくて、裾を直す仕草や袖の扱いなど着物を着ていると自然に出る仕草や姿勢があることを初めて知りました。またこの後、ドラマの時代が進んで着物からもんぺ、洋服へと変化していくことが、年代を重ねるお芝居をする上ですごく助けになっていくと思っています。

10代の蘭子から演じていますが、台本を読んだときに浮かんでくるいでたちや佇まいからヒントを得ています。具体的にこの人は何歳から何歳までこう過ごしたなど「履歴書のように作っていく」というより、抽象的なところから膨らませていく感じです。

豪ちゃんへの思い


蘭子が思いを寄せるのが、朝田家に奉公に来ている石工の豪ちゃんです。

蘭子は幼い時から豪ちゃんが大好きで、それが気づけば恋心になったと解釈しています。豪ちゃんは庭で石をコツコツ削って、蘭子は郵便局に働きに行く。同じ家で過ごすなかで「豪ちゃんとは分かり合えるんじゃないか、同じ側の人間なんじゃないか」と蘭子は感じるようになったのだと思います。


(『あんぱん』/(c)NHK)

——印象に残っているのが、出征する豪の壮行会のシーンだという。朝田家に町の人が集まり、のぶたち三姉妹がよさこい節を披露して盛り上げた。宴の途中で家を抜け出した豪を追いかけた蘭子。2人は向き合ってお互いの気持ちを伝えあう。まずはのぶが駆けつけ、蘭子を励ます。豪と蘭子が結婚の約束をしたところに、母・羽多子(江口のりこさん)も追いつき、蘭子に着替えの入った風呂敷を渡し、2人で最後の時間を過ごすよう送りだした。しかし、豪は戦死してしまう。

豪役の細田さんとの共演は3回目で、役やシーンひとつひとつにまっすぐに取り組んでくれる信頼がありました。どういうふうに心を通わせ合おうか、テストの段階からお互い探っていたの気がして、演じていてすごく背筋が伸びる、いい時間でした。

壮行会では、私がよさこい節を歌って、豪ちゃんはそれをじっと聞いています。言葉は交わせないけれど目線を合わせて、私がにこっと笑ったら豪ちゃんも笑ってくれたのをすごく覚えています。その後のシーンの、豪と蘭子の会話はぐっとくるセリフがたくさんあったので、2人の言葉のキャッチボールをちゃんとできればいいシーンになると思いました。蘭子がなかなか思いを打ち明けられないでいたら、のぶと羽多子さんが背中を押してくれる。豪ちゃんと2人ではなく、4人のシーンにしなければならなかったので、蘭子の受け止め方とアクションについてなど細かいシーンの組み立て方は監督と話し合いました。

蘭子はこのとき10代ですが、豪ちゃんの死は蘭子の考え方に影響を与える大きなできごとです。蘭子は豪ちゃんを失ったことを背負いながら生きていく。今後にとっても、思いが通じる場面は大事なシーンになると思ったので自然と力が入りました

のぶへの思いに変化


——社会が戦争へと突き進み、町の人たちは豪の死を誇りだという。のぶの教え子も豪の弔問に訪れ、愛国心を見せる。豪の死を誇りに思うよう蘭子に伝えるのぶ。蘭子とのぶは言い合いになる。

男の子は戦争に行って女の子は銃後で支えるべきだ、とのぶは子どもたちに教えなければなりません。蘭子は、のぶに反発します。反戦は、いま当たり前の価値観であってほしいですが、蘭子の言葉で改めて伝えることは意義があると思いました。「戦死して立派だなんてうそっぱちだ」というセリフは特に大切に感じていました。豪ちゃんは死んでしまったから何も言えない。軍国主義に傾くのぶや世の中に、また、ドラマを通じて今の世界に、私が強い気持ちで伝えないといけない、と感じていました。

のぶは蘭子にとって、「自分の道をぶれずに進むかっこいいお姉ちゃん」でしたし、「お姉ちゃんの夢は自分の夢」と思って背中を押してきました。それが大人になるにつれて、決定的に考え方が違ってしまった。自分の身にも覚えがあるし、家族でも受け止め方が違うことはある。それでもこれから、どういうやり方で家族としてつながりなおしていくのかなと思っています。

阿部サダヲと再共演


朝ドラでは、家の中での家族のシーンがとにかくたくさんあるので、せりふがないときにも、自分の生活の在り方やそれぞれに対する気持ちを表現したいと思っています。ただご飯を食べているとか、それぞれの仕事をしているシーンで、言葉じゃない表現のようなものが積み重なっていくのは、他の作品にはあまりないところです。


(『あんぱん』/(c)NHK)

今田さんは、『あんぱん』に参加してよかったと思わせてくれるヒロインです。疲れを見せず、ずっと楽しくポジティブな影響を現場に与えてくれています。一緒に演じることで自分が大きな作品の座長をやることの希望をくれました。(メイコ役の原)菜乃華ちゃんは本当におもしろくてかわいい。いつも一緒に楽しくお菓子を食べています。

昨年、ドラマ『不適切にもほどがある』(TBS)で私の父親役を演じてくださった阿部サダヲさんが、パン職人の屋村草吉役で出演しています。阿部さんは度々お世話になってきた大先輩で、今回もみんなを安心させてくれますし、楽しませてくれています。

『あんぱん』撮影中に私が『あんのこと』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をいただいたのですが、阿部さんがシャンパンをくださいました。おもしろいだけじゃなくて、すごく粋だし優しい人です。

アンパンマンへの思い


——今作は、嵩とのぶがさまざまな困難を乗り越えてアンパンマンを生み出してくまでの道のりが描かれる。脚本にはやなせさんの詩の一節などから引用されたせりふもあり、やなせさんの人生哲学が詰まっている。

私も子どものころ、アンパンマンのおもちゃや絵本で遊びました。蘭子を演じていて、人間味があるロールパンナが好きになりました。正義と悪の心を合わせ持っているキャラクターがおもしろいし、孤高の存在でかっこいいです。


(撮影:米田育広さん)

『あんぱん』は、やなせ夫妻の人生をなぞるだけではなくて、作品全体にやなせさんの考え方やアンパンマンの要素が散りばめられています。

台本を読んでいて、はっとする1行やすごくいいなと思うセリフは、やなせさんの言葉から取っているものも多くあります。やはり、幼少期の体験や戦争を経たからこそ、やなせさんの人生哲学が生まれたのだなと感じました。

現代の私から、「逆転しない正義とは飢えた人にパンをあげることだ」という考えが、こんなに実感を伴って出てくることは絶対にありません。やなせさんが身をもって体感したことからアンパンマンが生まれているし、嘘がない。『あんぱん』もその哲学にヒントを得て、戦時中に限らずいろいろな場面で命をまっすぐに描いていると感じています。

気づかないうちに


『あんぱん』の時代に生きていた人々は、自分の意思とは関係なく、よくわからない大きなものに気づかないうちに絡めとられていたのではないかと想像しています。赤紙が来たら戦争に行かなきゃいけなかったし、のぶも気づいたら先生として教えるべきことが決まっていた。毎日を過ごしていたら、何かに加担していた。蘭子の場合は豪ちゃんを失ったことで戦争反対に進んでいきました。蘭子として日々を積み重ねる感覚を通じて、戦争に向き合えたらいいなと思って演じていました。


(撮影:米田育広さん)

見ている人がちょっとでも豪と蘭子のことを考えてくれれば十分といえば十分なので、少しでもみんなでもう1回考えるきっかけに繋がったらいいと思っています。

朝ドラの撮影は1年に及びます。1年を通して同じ人物を演じることは、自分にとって今後の糧になる経験ですし、新しい挑戦でした。

『あんぱん』も含めて、今みんなに見てもらいたいものは何だろうと考えています。今日1日そのドラマを観た後だけ楽しかったなと思ってもらえれば、それも意味があるし、子どものときに観て大人になっても、自分の心に影響を与えているような作品もあります。自分の心と体を使って、今の人に届けるものは何だろうと、常に考えています。

婦人公論.jp

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