河合優実「反戦を担えてよかった」『あんぱん』蘭子役を演じる意義や朝ドラ初出演を語る
2025年5月21日(水)8時15分 マイナビニュース
●朝ドラならではの経験「今後の糧になる」 反響にも喜び
女優の今田美桜が主演を務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合 毎週月〜土曜8:00〜ほか ※土曜は1週間の振り返り)で、朝田家の次女・蘭子を演じている河合優実にインタビュー。朝ドラ初出演の感想や蘭子役を演じるやりがいなどを聞いた。
112作目の朝ドラとなる『あんぱん』は、アンパンマンを生み出したやなせたかしさんと妻・暢さん夫婦をモデルに、何者でもなかった2人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描く愛と勇気の物語。小松暢さんがモデルのヒロイン・朝田のぶ役を今田美桜、やなせたかしさんがモデルの柳井嵩を北村匠海が演じ、脚本は中園ミホ氏が手掛けている。
蘭子役の河合は朝ドラ初出演。ヒロインオーディションに参加し、蘭子役をつかんだ。
過去にも朝ドラのオーディションを受けていたそうで、「朝ドラは毎日放送されていて、ものすごい数の日本中の方々が見ている特別な枠」とイメージを語る。特に記憶に残っている作品として2013年度前期の『あまちゃん』を挙げ、「家族がすごく見ていて、いわゆるヒットしたものは普段ドラマを見ない家庭にも入ってくるものだと思うので、今回も誰かの記憶になればいいなとすごく思います」と期待を寄せた。
実際に放送を重ねてきて反響を実感しているようで、今後の視聴者の反応も楽しみにしているという。
「朝ドラ以外の現場などで『見ている』とおっしゃってくださる方がたくさんいますし、家族や親戚がすごく楽しみにしてくれていて、毎朝お茶の間に流れているということのうれしさが身に染みます。この先、進んでいったときに、いろんな方の感想をどんどん聞きたいです」
1人の人物を長く演じるという朝ドラならではの経験も楽しみだと語る。
「絶対に自分にとってハードルになるとは思いますが、今後の糧になる経験だとも思います。まだ撮影している段階では実年齢ぐらいまでしか演じていないんですけど、これからもっと先の蘭子を探していけるのがすごく楽しみです」
○反戦貫く蘭子役を熱演 豪役・細田佳央太との共演も回顧
演じている蘭子は、原豪(細田佳央太)の戦死にショックを受け、「豪ちゃんの戦死を誰よりも蘭子が誇りに思うちゃらんと」と言うのぶに、「お姉ちゃん、本気でそう思うちゅうがかえ?」「そんなのうそっぱちや!」などと感情を爆発。母・羽多子(江口のりこ)の胸で号泣した。
河合は「蘭子はまだこのとき10代ですけど、人を愛することを知り、失うということを知るという、すごく大きな経験して、蘭子の生き方にも影響を与えていきます。ドラマにとっても蘭子にとっても、かなり大切な軸になると思って演じていました」と振り返る。
さらに、戦死を立派だと言うのぶに対して「そんなのうそっぱちや!」と言い放ったセリフについて、「大切なセリフだと思い、とにかく、ちゃんとその言葉を言おうと思っていました。どちらかというとのぶの思想にどんどん世の中が傾いているときに、もう豪ちゃんはいないから私が強い気持ちで言わないと、というような気持ちでした」と思いを明かした。
そして、「蘭子を演じられてよかったなとすごく思っています」と述べ、戦後80年の節目にしっかりと戦争を描く本作において反戦の立場を演じるやりがいを感じているという。
「のぶとぶつかる38回後の展開でもずっと蘭子は反戦を貫いていく。この時代にちゃんと戦争にノーを言う人をいま演じられたのは、すごく意義があると感じたし、大切に演じたいと思いました」
豪役の細田とは今回が3回目の共演となった。
「真っすぐに役やシーン一つ一つに取り組んでくれるという信頼はすごくあったので、自然と演じる前に、ぐっと力が入りました。どういう風に心を通わせ合おうか、テストの段階からお互い探っているようなところがあったので、演じていて背筋が伸びましたし、いい時間でした」
そして、とても印象に残っているという壮行会シーンを振り返った。
「よさこい節を歌う場面で、言葉は交わせないけれどずっと目線を合わせながら、私の歌声を豪ちゃんが聞いてくれているときに、お互い何か交換している感覚がありました。私がにこっと笑ったら笑い返してくれたのを強く覚えています」
●やなせさんの“戦争は大嫌い”という思いをもう一度届けたい
また、中園氏の脚本の魅力も日々感じているという。
「やなせさんの実際の言葉から取っているセリフも多いようです。嵩にその人生をなぞってもらうというだけではなく、作品全体にやなせさんの考え方やアンパンマンの要素がふんわり散りばめられていて、ドラマの大きな魅力になっていると思います」と称賛し、「命とか、生き死にということを真っすぐ描いていて、それは戦争を描くシーンに限らずたびたび出てくるテーマだと感じるので、その切実さは大切だと思いました」と語った。
また、やなせさんの作品からも強いメッセージを受け取ったという。
「哲学があって、やはりそれは戦争体験や幼少期の体験があったから生まれたものなんだなと感じました。『逆転しない正義とは、飢えた人にパンをあげることだ』という言葉は、戦争を体験していない私の口からは、こんなに実感を持って出てこないと思うんです。本当に身をもって体感されたから、アンパンマンが生まれているし、この気持ちに嘘がないなと。すごい強度だと思います」
第48回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ数々の賞を受賞し、確かな演技力で見る者を魅了している河合。出演を決める際には「今、みなさんに見てもらうべきものは何だろうということは考えます」と明かす。
「今日1日そのドラマを見た後だけ楽しかったなと思えればそれも意味があるし、そうではなくて、何かずっと心に残っていくような、子供のときに見て大人になっても自分に影響を与えているようなものなど、いろんな種類があると思います。自分が心と体を使って今の人に見てほしいなと思っていたいです」
戦後80年という節目に、やなせさんの戦争体験、そして“戦争は大嫌い”というやなせさんの思いを届ける本作も、届ける意義があると強く感じているという。
「その声をもう一度はっきり伝えるべきだと思うし、反戦を担えてよかったなと思っています。今起こってしまっている戦争にも、私たちには実感がないところがありますが、もしかしたら当時の人も、よくわからないうちに大きなものに絡め取られていくような日々だったのではないかなと想像しました。みんな気がついたら、赤紙が来たら戦争に行かなきゃいけないシステムの中に居た、というだけのことかもしれません」
そして改めて「蘭子の場合は確実に戦争反対というところに進んでいった」と役柄の信念を紹介し、「まずは見ている人がちょっとでも豪と蘭子のことを思ってくれれば十分。そこから少しでも、みんなでもう1回考えるきっかけにつながったらいいなと思います」と期待していた。
■河合優実
2000年12月19日生まれ。東京都出身。2019年にデビューし、映画『由宇子の天秤』『サマーフィルムにのって』(21)での演技が評価され、各賞の新人賞などを受賞。2024年1月に放送されたドラマ『不適切にもほどがある!』で話題を集めた。主演映画『ナミビアの砂漠』『あんのこと』で第67回ブルーリボン賞、第98回キネマ旬報ベスト・テンなどで主演女優賞を受賞。近年の出演作にドラマ『RoOT / ルート』、劇場アニメ『ルックバック』、映画『敵』『悪い夏』『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』など。2025年度前期の連続テレビ小説『あんぱん』で朝ドラ初出演。映画『ルノワール』が6月20日公開予定。
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