「トイレのドア」盗難が相次ぐ北朝鮮の“特殊事情”

2024年1月16日(火)4時28分 デイリーNKジャパン

昨年末に氷点下28度を記録した北朝鮮北部の恵山(ヘサン)だが、その後は最高気温が0度を上回るなど暖冬となったおかげで、例年に比べ過ごしやすい日が続いている。しかし、寒いことには変わりない。


この地域では、燃料として薪が使われているが、価格高騰のせいで充分な量が手に入れられない人々が多い。そんな中で、薪の代用となるものが盗まれる事件が相次いでいる。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。



市内の馬山洞(マサンドン)の各人民班(町内会)では、毎朝のようにどこかから悲鳴が上がっている。


「門扉が盗まれた!」


薪にしようと夜中に他人の家の門扉を盗む輩が続出しているのだ。そればかりか、便所の扉まで盗む者もいる。見つかれば半殺しの目に遭うが、それでも被害は収まらず、年明けからいっそう酷くなっている。


情報筋によると、このような盗難事件は今までもなかったわけではないが、今シーズンは本当に深刻だという。


「恵山市中心部に住む人の中にも生活の苦しい人が多いが、郊外に住む人の中にはもっと多い。深刻な生活難に他人の家の便所の扉まで盗んで薪に使うという想像もできなかったような事態となっている」(情報筋)


これといった対策もなく、市民は頭を抱えている。


暖冬といえども、この地域の夜は氷点下10度以下まで下がる。例年ならふんだんに薪を使って部屋を暖かくして寝るが、今年はそんな余裕のあるうちは少ない。一つの人民班には20から30戸が所属しているが、1日に3回薪を焚く家は5戸程度に過ぎず、後は1回しか焚けない家が多くを占める。


学校が休みに入り、子どもたちは家で寒さに震えながら過ごす。そんな様子を見かねた親たちが犯行に及んでいると、情報筋は見ている。


そもそも、恵山は北朝鮮の中でも比較的裕福な都市だった。川向うの中国との密貿易で儲けていたからだ。それを当局は、コロナ禍をきっかけに厳しく取り締まるようになり、もはや密輸は困難となった。産業の少ないこの地域で、当局は生活対策もしないまま取り締まりを行うばかりだ。それが便所の扉まで盗まれる状況を生み出している。金正恩総書記の失政に他ならない。

デイリーNKジャパン

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