ロシアでもやりたい放題「北朝鮮で最も嫌われる存在」
2025年3月9日(日)4時57分 デイリーNKジャパン
北朝鮮において保衛員(秘密警察)は、蛇蝎のごとく嫌われる存在だ。
金正恩独裁体制を維持するために、国民の思想信条や行動を監視し、問題があれば摘発する。その絶大な権限を振りかざし、容疑者に拷問を加えた上で、いっさいがっさいをむしり取る。
恨みを買って報復殺人の犠牲になろうものなら、国民から「スッキリした」と拍手喝采が飛び出すほどなのだから、どれほど憎まれているかよくわかる。
デイリーNKは、ロシアに派遣されていた労働者の監視役として派遣されていた保衛員の不正行為を報じたが、これがきっかけとなり平壌に呼び戻され、国家保衛省の総和(総括、人事評価)を受けることになった。デイリーNKの高位情報筋が伝えた。
取り調べを受けているのは、保衛員のチェ・ソンチョル氏だ。労働者に対して露骨な上納金の要求を突きつけるなどの行為を繰り返していた。デイリーNKは、業を煮やしたある労働者からの情報提供に基づき、昨年2月にこのことを報じた。
ところが、チェ氏が呼び戻されたのはつい最近のことだ。それまで1年以上かかったことについて、情報筋はこのように述べた。
「すぐに連行すれば『敵の謀略宣伝に同調することになる』との判断があった」
「それから少し経ったので、外から見れば単なる人事異動を見えるだろうとの考えが影響を及ぼした」
鼻っ柱の強い国家保衛省が、敵である韓国のデイリーNKの報道に触発されて動いたとなれば、顔が丸つぶれになるということだろう。
「不正が内部告発者により外部に暴露されたことから、祖国(北朝鮮)の対外イメージを毀損したと見なし、事件の追及を静かに行っている」(情報筋)
彼のロシア出国を承認した幹部も呼び出しを食らっているとのことだ。
チェ氏本人は、「敵の陰謀だ」「内部のスパイによる作奸(悪意のある企て)だ」などとして、自分は潔白だと主張している。また、ロシアに派遣された関係者から「忠実な保衛戦士」との評価を受けたとの主張している。
しかし、総和の過程で、彼の悪事が次々に明らかになっている。作業所長の立場を悪用して、外部に働きに行く労働者にあれこれ言いがかりを付け、定期的に上納金を納めさせていた。また労働者の月給を着服し、ロシア人と結託して現地の銀行口座に蓄財していたというもので、デイリーNKが報じた内容と概ね一致する。
さらには、ロシアに派遣された労働者に課される「国家計画分資金」(国への上納金)を流用し、国家に上納するとして労働者から集めたカネを着服していた、といった疑惑も浮上している。
先日、槍玉に上げられた慈江道(チャガンド)の雩時(ウシ)郡や南浦(ナムポ)市の温泉(オンチョン)郡での不正行為に対して、金正恩氏は激しく批判しており、雩時郡の幹部ら10人が公開処刑されたとの情報もある。
そのような状況であることを考えると、チェ氏に対しては重罰が下されるとの見方がある。一方で、降格や配置待機(待命処分、役職を解かれ処分を待つ状態)など、内部での軽い処分で済まされるとの見方もある。
情報筋も、「チェ氏に対して海外派遣禁止措置を下し、閑職に追いやって事を穏便に済ませよう」と上層部は考えているようだと伝えた。下手に事を大きくすると、幹部自身が監督不行き届きで処罰されかねないからだ。
チェ氏が軽い処分で済まされる可能性が高いとの情報がロシアに伝えられ、労働者らは「同じように搾取していても、捕まるやつしか捕まらない」などと嘆息している。命がけでデイリーNKに情報提供をしても、結局はほぼ無罪放免に等しい処分しか下されないと、諦めが広がっている。
第2のチェ・ソンチョルより第2の情報提供者が現れることを恐れている当局にとっては、むしろ好都合だ。叩いてホコリの出ない幹部はおらず、「情報提供しても無駄」と考える労働者が増えたほうが、自分のクビが飛ばずに済むというわけだ。