「悲鳴を必死に耐えていた」北朝鮮”スパイ”を死刑の緊迫場面

2025年4月28日(月)5時8分 デイリーNKジャパン

北朝鮮には、道・市・郡の境界を越えて他地域へ商売に出かける「行商人」が多数いる。しかし、移動の自由がないこの国で他地域に出向くには、「旅行証」と呼ばれる国内用パスポートが必要だ。彼らは物だけでなく、情報も運ぶ存在であり、いわば口コミネットワークの末端を担っている。


当局は、都合の悪い情報が広がるのを嫌い、常に彼らを監視している。そんな中、一人の男性が摘発された。しかし彼の行為には、あまりにも大きな代償が伴った。平安南道のデイリーNK内部情報筋が伝えた。


今月中旬のことだ。平安南道順川(スンチョン)市の空き地で、国家保衛省、道保衛局、市保衛部(いずれも秘密警察)の関係者が参加して公開裁判が開かれた。


6人の保衛員に囲まれて姿を現したのは、地元に住む40代の男性。彼は、中国との国境に接する咸鏡北道を行き来しながら、時計部品などを販売する行商人として知られていた。


ところが裁判では、この男性が国家資料や教科書、地理情報などを中国経由で韓国に流出させたスパイ行為に関与したことが暴き立てられた。



裁判は終始、緊張感に包まれていた。罪状はこう読み上げられた。


「工業製品の販売を装い敵と内通し、国の資料や教科書、地理情報を韓国へ流出させた」


北朝鮮では、他国では何の問題にもならない資料——例えば電話帳ですら、国家機密とされる場合がある。掲載されている部署の一部は、当局が公に存在を認めていないためだ。


この男性は、新型コロナによる生活困窮を背景に、中国商人と手を組み、情報流出に加担したとされる。


そして判決。法廷ではこう言い渡された。


「祖国を売り渡した者は、必ず代償を支払うことになる」


判決は死刑だった。市民からは普通の商人として見られていた彼に下った突然の死刑判決は、多くの人々に衝撃を与えた。


情報筋は語る。


「スパイ罪、死刑宣告という言葉が響いた瞬間、見守っていた住民たちは一斉にうつむきました。一部の人は悲鳴を上げそうになるのを必死で耐えていた」


裁判終了後、ただちに死刑執行がなされたとのことだ。


当初、保衛部はこの事件を非公開で処理する方針だったが、最近国境に接する地域に出入りする行商人の間で情報流出の兆候が続けざまに見られたため、見せしめとして公開裁判に切り替えたという。これは国家保衛省による決定だったとされる。


処刑は非公開だったものの、「死刑が執行された」という事実そのものが、住民たちにとって強烈な恐怖を与えた。


今回の事件には、さらに2人の住民が関与したとされ、すでに3月中旬には予審(起訴前の取り調べ)を終えており、来月初旬には裁判にかけられる予定だ。具体的な関与の内容は明かされていないが、重罪は免れないだろう。


この事件を受け、国家保衛省は国境地帯を行き来する行商人ネットワーク全体の実態調査と精査に乗り出した。

デイリーNKジャパン

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