「犬死は嫌だ」北朝鮮のロシア派兵”自爆美化”に軍内で反発
2025年5月24日(土)4時50分 デイリーNKジャパン
北朝鮮当局が、ロシアの対ウクライナ侵攻に派遣した朝鮮人民軍(北朝鮮軍)特殊部隊の戦闘事例を英雄的に美化し、国内向けのプロパガンダに乗り出したことが明らかになった。
派遣部隊の実際の戦闘の内容を公開し、派兵の正当性を宣伝すると同時に軍の士気を鼓舞しようとしているという見方が出ている。韓国のサンド研究所が運営するサンドタイムズが報じた。
北朝鮮事情に詳しい情報筋によると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)に駐屯する朝鮮人民軍第9軍団の政治部は今月12日、全軍団の兵士を対象に講演会を開いた。
この日の講演会は「傀儡韓国が無謀な挑発の兆しを見せるならば、無敵の核戦力でソウルを掃討しよう」というテーマで行われ、韓国向けの威嚇メッセージも含まれていたが、実際の内容はロシアの前線に投入された朝鮮人民軍の戦闘事例が中心だったという。
講演資料には、「悪魔のような無人機(ドローン)をかいくぐり銃弾の雨の中を突破し、兄弟国家ロシアの占領された都市を解放して勝利を収めた我が軍人たち」という表現が登場。また、「最後の弾丸と手榴弾で自爆し、『金正恩将軍万歳』を叫んだ英雄たち」の例も引用された。
北朝鮮軍の勇猛さについては、「ロシアの軍人はもちろん、全世界が『朝鮮人民軍は世界最強の軍隊』と称賛している」とする主張もあった。
北朝鮮はこの講演会で、ロシア軍と北朝鮮軍は『同じ塹壕にいる戦友』であり、ウクライナは韓国と同様の敵だと位置づけた。また、「ロシアの前線はすなわち傀儡韓国との対決の前線である」とし、兵士たちに対し、「我々もロシアの前線で共に戦うという気持ちで訓練に励み、日々偉業を刻まなければならない」と強調した。
しかし、軍内部の反応は様々だった。情報筋によれば、「講演会に出席した兵士の中には、内心で不安や疑問を感じた者もいた」「共和国英雄という称号は名誉だが、自分の国でもない場所で命を懸ける理由があるのかという懐疑的な反応もあった」という。
朝鮮人民軍は今までも他国の戦場に将兵を派遣しているが、数千人の死傷者を出したのは初めてのことだろう。それもあってか、一般国民からも海外派兵に疑問や怒りの声が上がっている。
それを意識したのか、「ウクライナとの戦争はすなわち傀儡韓国との戦争」という牽強付会とも言える理屈を使ってでも、不満を鎮めようという意図があったものと考えられる。それだけ動揺が大きいということだろう。
情報筋は、「北朝鮮兵士の間では、今は建設労働者として海外に派遣されていても、今後は戦闘労働者として送り込まれ、無駄死にさせられるのではないかという懸念が広がっている」と述べた。
民間でも、徴兵対象の年齢となった息子を持つ親たちを中心に、なんとしてでもロシアへの派兵だけは避けようと軍の担当者にワイロを掴ませようとする者が続出し、半ばパニック状態となったと伝えられている。